エピローグ
「「あ」」
声が重なった。俺と草壁のものだ。
登校してたら、門の前でばったり会ったのだ。
「その……」
草壁が何か言おうとして、躊躇うような声を出す。
昨日の今日で微妙な気まずい。が、意識すると恥ずかしい。そういう感情を共有している。そこまでわかる。
そんな空気に酔いながら、俺は言う。
「昨夜はお楽しみだったな」
「当事者が言うことあるのそれ」
「実際楽しかったからな」
「……私はどうしてあんなことを」
草壁は顔を赤らめて消え入るような声で言った。
腋毛契約。冷静になって暴走を認識したのだろう。
「俺は後悔してないぞ」
堂々と言う。本音だからだ。
「……私も、後悔はしてない」
草壁はぼそっと言って早足で先に歩いていく。
慌てた別行動、隠れてない照れ隠しだ。
ただ違う理由もある。俺たちの関係、みんなには秘密だ。腋毛契約なんてバレたら面倒に決まってる。だから別々に、何食わぬ顔で教室に入る。
「おい! 昨日のはなんだったんだ!!」
三田が鼻息荒く突進してきた。そういや俺、みんなの前で草壁をカラオケに連れ去ったんだった。色々ありすぎて忘れてた。
「そうだな……」
俺は悩みつつ、答える。
「草壁が腋毛を抜くのを見つめて、それを一本持ち帰ったんだ!」
「キモい冗談やめろ!」
誰も信じていない。嘘のような出来事、それが現実にあった。
俺と草壁の、不毛ではない世界が、始まったのだ。