エピローグ
エピローグ
『女の裸』
初めてググったその言葉に、俺は囚われていた。
人は裸を着飾り、裸への欲望を隠し、不毛なことを繰り返す。
世界は嘘ばかりでつまらない。そう思っていた。
しかし、現実は違った。
人は余計で複雑で変なことを考える。それは不自由で不純で不安かもしれない。
でもだからこそ面白い。
俺は、それを知った。
「だから俺たちは、生きていくことにしたんだ」
俺は語り終えた。そして目の前に座っている友人達の反応を伺う。
「……なんの話をしてるんだ?」
困惑しているようだった。
「人生についての話だ」
「俺たち、お前と草壁はどうなったんだって聞いただけなんだけど」
三田は呆れた表情で言った。両脇には伊達、等々力、そして俺の隣には草壁もいる。
俺たちは五人でファミレスに来ていた。前にクラス懇親会が行われた場所だ。
つまり、打ち上げである。
「要はなんとかなったってことだ。話よりも前に、乾杯するぞ」
俺は宣言する。五人、メンバーが初めて全員揃って、五つのグラスが重なる。
カランと音を立てる。
それは一件落着の音だった。
これからも俺たちの不毛な世界は続いていくだろう。改めてそう思った。
隣にいる草壁を見る。彼女も俺を見た。目が合った。そして、ぼそっと言った。
「不毛じゃないかもしれない」
「おい、いきなりなに言い出してんだ。俺のモノローグ全否定じゃねえか」
「それは知らないけど、これを見てほしい」
草壁はそう言って、ブレザーを脱ぎだした。ここ普通にファミレスなんだけどな。この人に言っても無駄か
そしてシャツのボタンを外し、隙間から腋を見せてくる。指さした、その先。剃られてジョリジョリになってるはずの腋。そこに腋毛が一本だけ残って、ピンと生えていた。
「戦いを乗り越えた、奇跡の一本の腋毛」
草壁はそう言った。俺は感情を押し殺して、口を開く。
「……それがあるからなんなんだ?」
「奇跡の一本が残ってる不毛じゃないかも」
「話がブレるから余計なこと言わないでくれ。そういうことじゃないんだよ」
でもまあ、改めて思う。自由だ。いいな。うん。俺は高らかに宣言する。
「よし! 好きだから許す!!」
「はぁ……」
気づくと伊達と等々力と三田の三人が、俺たちを見て呆れていた。
「早速イチャイチャを見せつけてくれるじゃないか」
伊達先輩の声に苛立ちが滲んでいるのがわかる。
「ボクはこの先も変な喋り方するバカとして一生を終えていくのかな……」
「急にめちゃくちゃ落ち込まないでください。そういうのが好きな人もいますから」
「……そうだね、キミの言う通りだ。人間なんて星の数ほどいるからね」
めっちゃ普通の星の例えをして立ち直っていた。単純だ。
でもこの人は、それがいい。
「やはり……お二人、付き合ってしまいましたか」
等々力が俺を見て恨めしそうに言う。
「まあ私は無藤さんのこともそこそこ好きですから、3Pしてもいいですけどね」
「しないからな。なに俺たちが誘った感出してるんだ」
「ふっ、青春だな」
三田が笑みを浮かべながら余裕そうに言った。
「お前は結局何者なんだよ」
「そうだな……一つ忠告しておこう」
三田は少し間を溜めて、口を開く。
その言葉は、弾丸に似ていた。
「実際、セックスよりオナニーの方が気持ちいいからな。覚悟しとけよ」
「うわ、童貞卒業したやつが言うめんどいセリフだ」
「草壁さん! いざという時のために私で練習しておきましょう!」
「しない」
「じゃあ伊達さんも混ぜて3Pでもいいです!
「え、ええっ!? ボクかい!? ボクはその……ご、ごめん。心の準備が……」
「この先輩意外とピュアだな」
「等々力さんとも伊達さんとも、しない」
草壁ははっきりとした声で否定した。そして口を開く。
「私はいつか、無藤との2Pをする」
「なに堂々と宣言してんだ。そんな言い方しないし……」
つっこみを入れて気づく。草壁は真剣な表情をしていた。
思い返す。ラブホでのセックス未遂。俺たちの黒歴史みたいになっていたものだ。
だからあえて今、口にしたのだろう。
それは草壁の勇気だ。
この世界に飛び込んでいくための。
だから俺は言う。
「よし! 2Pするか!!」
「「「はぁ……」」」
伊達と等々力と三田、三人のため息が再び重なった。
俺たちはそれからも、騒いでいた。
ファミレスだけでなく、学校の昼休みでも、放課後でも、喫茶店でも、ラブホテルでも。
どこでも、いつでも、いつまでも。
とてつもなく無意味で、楽しい会話。
それはどこからでも生えてきて、とっちらかって、積み重なる。
まさに、不毛だ。
それこそが、手に入れたもの。
俺と草壁の、いや、それだけじゃない。
世界はそうやって、続いていく。
二十代中盤のころ、好きな作家と会う機会があった。
彼は独創的な作風でありながら映画化も果たし、とても活躍している僕の憧れだった。
「作家志望のようですが、何か書いてるんですか?」
彼に尋ねられ、僕は答えた。
「はい。腋毛の小説を」
「腋毛ですか」
僕は嬉々として構想を語った。
腋毛には思想があり、ギャグもあり、興奮もあり、誰もやってないので最強の可能性があると。
「3日で書きましょう」
彼は表情を変えずに言った。
「3日ですか?」
「はい。それは受かる可能性がないので」
そして彼は、僕がいかに小説をなめてるか。真面目に生きてないか。つまらない人間かを、淡々と説いた。
それから5年くらい、僕はこの腋毛の小説を書いていた。
一心不乱にではなく、だらだらと。
彼の言葉は全て当たっていた。腋毛小説は難産だったし、まるで賞に引っ掛からなかった。僕はニートになって、友達もどんどん減っていった。小説を書くのも読むのも楽しめなくなった。小説家になろうとする気持ちも惰性だった。僕は人生を舐めていた。
だからこれは、二十代の僕の遺産みたいなものだ。
でもこうやって、ネットで完結させて、改めて思った。
うるせえ! これ面白いだろ!
とにかく俺は書きあげた! あとは誰かに刺され! そして運良く広がれ!
俺はなんかしらやってやる! 知らん!
俺の最強の小説を書く!!
だからこそ、読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます!
最初にあとがきから読む派閥の人も、これから読んでくれてありがとうございます!
初のネット投稿でお見苦しいところもあったと思いますが、大感謝しています。
この一ヶ月は、偉大な仕事をしてる気分になったり、PV数に一喜一憂したりと、とても楽しかったです。ネット小説は読者の反応などが見えるのが新鮮で、多大なモチベになりました。
本作は書き溜めてあったのをネットっぽくアレンジして分割投稿したものなので普通に考えればなにも挫折する要素などないのですが、それですらめんどくて投げ出しかけた僕の心を支えてくれたのは、みなさまの応援です。
みなさまこそが、僕の唯一の読者であり、希望です。
これからまた別の小説を上げるかもしれないし、書くかもしれません。
というか一人で誰にも見せずに書いてると怠けちゃうので追い込むためにカクヨムを始めました。
だからちゃんとなんか書きます!
今後とも、よろしくお願いします。
佐竹大地




