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完璧なクラスメイトに、腋毛と世界が生えていた  作者: 佐竹大地
第四章 俺と不条理な笑い
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第八話 戦士でも賢者でもない俺達は

 その後の記憶はあまりない。ただ漫然と部屋を出て、草壁が会計を済ませていることにちょっとビビり、ラブホテルを出て幽霊のように帰宅した。

 そして今、俺は自分の部屋のベッドで横になっている。電気は消した真っ暗。なんの音も聞こえない。無。そんな状態。

 改めて、思う。

 俺、初めて喧嘩っぽいことしたなあ。

 いや喧嘩なのかよくわからんけど。少なくとも高ぶった感情をぶつけ合ったことは確かだ。いやぶつけあってないのか? 草壁は昂ぶってた。では俺は?


『あなたはなにがしたいの?』


 草壁の言葉が思い出される。結局、それが問題か。


「そんなんわからんよなあ」

 あえて口に出す。切り替えるためだ。

 こういう時は、気分展開しよう。起き上がって、机に手を伸ばしノートパソコンの電源を入れる。今はもう自分用に買い与えられているそれが起動する。検索エンジンを開いて弾むようにキーボードを叩く。言葉を打ち込む。

『腋毛、自分探し』

『腋毛、自我』

『腋毛、哲学』

『腋毛、本』

『腋毛、同人誌』

『腋毛、同人RPG』


「……ふぅ」

 一息ついた。そして、思う。


「なんでラブホに行ったのに、家で一人こんなことしなきゃいけないんだ…………」

 

 賢者にはなれなかった。

 簡単に切り替えられない。思考はぐちゃぐちゃのままだ。

 それでも、なんとか考える。ネットに答えはなかった。現実、ずっと逃げていたそれに、向き合わねばならない。

 俺は腋毛に現実を見ていた。

 おしゃれとかマナーとかテキトーな世界を破壊する圧倒的な現実感。

 でもそれは草壁が、腋毛に本当の自分という夢を見ていたのと同じなのか。草壁はその無理に気づいた。だから剃った。ラブホでの話はたぶんそういうことだ。

 なら、俺も同じ無理を抱えているのか?

 現実という夢を込めていた腋毛を失ったという現実、そこに向き合わねばならない。

 それはつまり、草壁に向き合うということ。

 どうやって? それが問題。

 でも裏を返せば、問題はそれだけだ。


 仲直り。

 

 シンプルだ。草壁との関係を再構築すること。それだけは揺るがない。

 なんとか一つ、やるべきことを見つけた。

 俺は決心を再確認して、その日は眠った。


 ★


 翌日、俺は緊張しながら教室に入る。

 目線は自然と草壁を追ってしまう。昔のように凛々しく、一人で座っている。

 しかし、話しかけることはしない。できない。

 草壁の方も、腋毛を剃ったことは黙ってるようだ。手を挙げたり奇行に走ってのアピールはしていない。隠してる。恥じらい、悩み、いろんなものがあるのだろう。

 むしろ隠せてないのは俺との関係だ。

 

 そのまま時間が経過して昼休みになった。異様さが周囲にも明らかになってくる。

 俺と草壁、昨日付き合ってる宣言をした二人、それが口を聞いていない。明らかになんかあった雰囲気。気まずさが教室に伝わり、緊張感が充満していく。

 あーこういう空気めんどいなあ。どうしたらいいんだろ。


「えーっとお二人、なにかあったんですか?」

 等々力が隣の席から話しかけてくる。困惑しつつ、ちょっと興味津々みたいな様子だ。


「まあ、ちょっとな」

 軽々しく話せる内容じゃない。俺でもそれくらいはわかる。テキトーな返事で軽く流そう。


「草壁さんが変に考えすぎて、無藤さんがキモいこと言ってこじれたんですか?」

 なに的確な予想してくれてんだ。

 返事もせずにパンを広げて静かにもちゃもちゃと食べる。シーンとした雰囲気に、咀嚼音が目立つ。こんな空気では飯もまずい。皆にも迷惑だろう。

 というか俺が嫌だ。


「……仕方ないな」

 俺は決意して席を立つ。椅子の音がガラっと響く。

 皆の注目を浴びながら教室を歩く。

 草壁がいなくなった違和感、それを解決してくれるのは、あいつしかいない。


「おーい草壁ー、飯食おうぜー」

「そういうのよくない」

 明るい声をかけたのだが、草壁は冷たい声で一刀両断してきた。


「昨日のことで気まずいのはただのすれ違いではない。お互いに考える時間が必要。それをふざけまじりでなかったことにしようとすることこそ、あなたがなにを考えてるかわからないという問題そのもので~」

 めっちゃ怒られたわ。


 俺がすごすごと元の席に戻ると、三田が出迎えてくれた。


「草壁さんが変に考えすぎて、無藤がキモいこと言ってこじれたっぽいな」

 うるせえ。元はと言えばお前のせいだぞ。


「また四人で仲良く食いたいよな」

 三田が言う。お前は草壁と食べてた瞬間ほぼなかっただろと思うが、まあ方向性としてはそうだ。

 このままでは、どうしたらいいかわからない。

 なにか、助けがほしい。


「複雑な状況になっているじゃないか」


 悩んでいると、聞いたことのある声がした。


「ボクの助けが必要なようだね」


 回りくどい言葉遣い。

 ナルシズム漂う佇まい。

 伊達先輩が、教室の入り口に立っていた。


「先輩……良いタイミングですけど、なぜ?」


「昼休みの居場所がないからキミ達と食べたくてたまに教室を覗いていたんだ。異変が起きてるようだね」

 常時孤立してる先輩がいたおかげで助かった。先輩のことは別に求めてなかったが人数が集まるのは大歓迎だ。


「とりあえずこれで四人揃ったな」


「……いや誰なんですかこの人」


「察するに草壁君が変に考えすぎて、無藤君がキモいこと言ってこじれたとかかな?」

「どんだけ読まれてるんだ俺たち」

「なるほど、無藤さんたちに理解がある人ではあるようですね」

「そんな認証すんな」


 まあいい。これで四人になった。

 伊達先輩、等々力、三田。草壁と関わりの深い、俺が頼りにしている仲間たち。そいつらに向かって俺は言う。


「……みんなに、相談に乗ってほしいんだ」


「聞こうじゃないか」

「珍しいですね」

「なんだよ」


 驚きつつ頷く三者三様。

 こいつらの知恵を借りれば、なんとかなるかもしれない。

 草壁も離れたところで俺たちを見ている。

 そういう視線を感じつつ、俺は宣言する。


「作戦会議の時間だ」


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