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Maisie

作者: 橋本たなか



むかしむかしあるところに、燃える炎のような赤い髪の毛と、流れる鮮血のような赤い眼をもつ少女がおりました。

少女はその髪と眼を持っていた為、周りの人々から恐れられていました。


「彼女の髪を見ろ。全てを焼いてしまう炎のように赤い。彼女はいつか、この村を焼き消してしまうだろう」

「彼女の眼を見ろ。流れる血のように赤い。彼女はいつか、この村の人を全て刺し殺すだろう」


村人は口々に言いました。


「呪われた子だ」


とある村人がそう言うので、少女の母親は村人と同様に恐ろしくなりました。


「この子は呪われていて、いつか村を焼いて人を殺すのだわ」


そう信じた母親は、少女を家から出ないように閉じ込めてしまいました。

しかし、少女のおばあさんは違いました。

なんて可愛い女の子なのだろうと思いました。

目に入れても痛くない、なんでもしてあげたいと思うくらいに少女のことを愛していました。

しかし、母親が少女を家に閉じ込めてしまったので、会うことが出来なくなってしまいました。

おばあさんは会えなくなってしまった少女に何かしてあげたいと思ったので、少女のために少女と同じ髪の色をした頭巾をこしらえ、プレゼントをすることにしました。

おばあさんは頭巾と一緒にメッセージカードを入れました。

そこには


「お前さんには、この色がとてもよく似合う」


と、書いてありました。

おばあさんの言う通り、その頭巾は少女にとてもよく似合っていました。

少女はおばあさんの贈り物をたいそう喜び、ずっと被っていたので、母親は少女の髪と眼の色を気にしなくなりました。

そして少女に言いました。


「お前は呪われている。でもその頭巾を被っているとそれが分からない。だからずっと被っていなさい」


「はい、お母さん」


少女は人前に出る時、ずっとその頭巾を被りました。

被っていると少女の髪と眼のことを言ってくる人はおらず、代わりに頭巾がとてもよく似合っていたので、周りの人々は少女を


「赤ずきんちゃん」


と呼ぶようになりました。


そんなある日のこと。

おばあさんが病気になってしまったという知らせがはいってきました。

母親は少女を呼んで言いました。


「ちょっと来なさい、赤ずきん。ここにお菓子と葡萄酒があります。これをおばあさんの家に届けてちょうだい。おばあさんは病気で寝込んでしまっているの。でもあなたがお見舞いに行けば、きっと元気になるわ。さぁ、暗くならないうちにいってらっしゃい」

「はい、お母さん」


少女はお見舞いの品が入ったカバンを持って出かけようと扉に手を回したとき、母親に言われました。


「外へ出たら気をつけて、お行儀よくするのよ。知らない道へ掛けて行って転んだら折角の葡萄酒が割れたら大変。それと寄り道なんてしては駄目。暗くなったらあなたの赤い眼が光るから、明るいうちに着くようにね。あと、おばあさんのお部屋に入ったらまず挨拶。おはようございます、を言うのを忘れずに。お部屋の中をキョロキョロ見回したりしないようにね」

「はい、お母さん」

「約束」


2人は固く指切りをしました。

ところで、おばあさんの家は少女が住む村から離れた森の中にありました。

おじいさんが林業をしているからです。

しかし2人は年老いており、若い手が必要だと思っていましたが、その職につくものはおらず困っていました。

少女はその事を知っていたので、いつか村の離れた森に住んで、2人の手伝いが出来れば良いなと思っていました。

ところがその森には恐ろしい怪物が住んでいるという噂がありました。

大きな口と耳と眼を持った体長2mの化け物。

狼のような生き物だという噂がありました。

少女はそれを思い出して身震いしました。


「平気よ、平気。ただの噂だわ」


そう自分に言い聞かせ、森の中へと入っていきました。

しばらく休憩も取らずに曲がりくねった道を歩いたので、少女は疲れてしまいました。


「少し休憩しようかしら」


切り株に座って休憩をしていると、声をかけられました。


「きみは赤ずきんちゃん?」


少女が顔を上げると、少年が立っていました。


「みんなは私をそう呼ぶわ」


少女は言いました。


「こんな森に一人でいると危ないよ」

「平気よ。この先にあるおばあさんの家にお見舞いに行くだけだもの。周りにくるみの生垣があるからすぐに分かるわ」


少女がそう言うと、少年は少し考えて言いました。


「ここは野生動物もたくさんでる。僕が一緒について行ってあげる」

「平気よ」


少女は立ち上がって歩きだし、少年は後ろをついてきました。


「暗くなると危ないよ」

「暗くなる前に帰るから平気よ」

「荷物が重そうだ」

「葡萄酒とお菓子が入っているだけ。平気よ」


少女は歩き続け、少年は話続けました。


「綺麗に咲いてる花をごらん。これはこの森にしか咲いていないんだ」

「そうなの」

「あ、鳥が鳴いたよ。あの鳥は今の時間になったらよく鳴くんだ。聞こえるかい?」

「えぇ」

「きみはまるで聞いていないようだね。せっせこ、せっせこ、なにも見ないで歩いていく。この森はこんなに明るくて楽しいのに……」

「お母さんと寄り道をしないって約束したの。あと、明るいうちに行かないと大変なのよ」


少女は下を向いて黙々と歩きながら言いました。

少年はしょんぼりとその後をついて行きます。

しばらく歩いたあと、少年は「あ!」と言いました。


「この先に沢山の花が咲いた花畑があるんだ!」

「そうなの」

「寄っていかないの?」

「さっきも言ったでしょ。寄り道をしては行けないの」

「少しなら平気さ。それに、お見舞い用の花をおばあさんに渡したらきっと喜ぶと思うよ」


少年の言葉に少女は「確かに」と思いました。


「確かに、花束を渡すとおばあさん喜ぶわね」

「でしょう?こっちだよ!」


少年は少女の手を取って走りました。


「あ、ちょっと待って!」


少女は持っていたカバンを落とさないように、転ばないように懸命に走りました。

少し走った後、目の前に色とりどりの花畑が現れました。


「うわぁ!」


そのあまりの素晴らしさに、少女は言葉を失いました。


「すごいでしょ?」


少年は誇らしげに言いました。


「えぇ!とても素敵だわ。こんな所があるなんて知らなかった」

「教えてもらったんだ」

「誰に?」

「お父さんだよ。ずっとこの森に住んでいるんだ」


少女は驚きました。


「おじいさんとおばあさん以外にこの森の中を知っている人がいるなんて」

「最近はきみのおじいさんに林業を習っているんだ」

「そうなのね」


少女はおばあさんとおじいさんを助けてくれる人が近くにいることに安心しましたが、寂しい気持ちにもなりました。


「私がそばにいなくても、大丈夫なのね」


悲しい声の少女に、少年は言いました。


「きみの話はおじいさんを通してお父さんから聞いているよ。とても良い子だって。だから、僕はきみに会えてとても嬉しい」


少女はその言葉を嬉しく思い、笑顔になりました。


「きみの名前はなんて言うの?」


少年は少女に聞きました。


「私は……」


その時、強い風が吹いて少女が被っていた頭巾が飛んでいってしまいました。


「あ!」


少女の赤い髪と眼があらわになり、少年は眼を丸くしました。


「呪いの子だ!」


少年は声をあげました。

その言葉に、少女は自分が「赤ずきん」ではなく、周りから恐れられ、母親から忌み嫌われていた「呪われた子」だということを思い出し、泣きながら走り出してしまいました。


「待って!」


少女を呼ぶ少年の声なんて聞こえず、振り向かずに休まずに少女はおばあさんの家まで走り続け、ようやく家まで着き、ドアの戸を叩きました。


「おばあさん、私です。赤ずきんです。お見舞いに来ました」


するとドアが開き、そこには大男が立っていました。


「うわぁ!」


少女は驚いて尻もちをつきました。その衝撃で葡萄酒の割れる音がしました。


「あぁ!」


慌てふためく少女の声におじいさんが奥からかけてきました。


「大丈夫かい?」

「ごめんなさい!葡萄酒を割ってしまって……」


少女は泣きながら謝罪しました。

大男が少女に手を差し伸べましたが、そのとても大きな手にまたもや驚いた少女は、気を失ってしまいました。

しばらく経って少女は目を覚ましました。

目の前にはさっきまで一緒にいた少年が座っていました。

少女は顔まで目の下まで布団をかぶり、少年の様子を伺いながら尋ねました。


「おばあさんとおじいさんはどこに行ったの?」


少年は少女の声に顔を上げると、答えました。


「出かけているよ」

「どこに?」

「お父さんと病院に薬をもらいに行ったんだ」

「お父さん?」

「さっきいた大きな男の人、僕のお父さんなんだ」


少女はさっきの大男を思い出しました。


「とても大きな耳だったわ」

「鳥の声をよく聞くためだよ」

「とても大きな眼だったわ」

「広い森をよく見るためだよ」

「それにとても大きな手だったわ」

「赤ずきんちゃん、きみを助けるためだよ。ここまで運んでくれたのもお父さんなんだ」


村の人が噂をしていた“化け物”は大男のことでした。

しかし、その正体はとても優しい少年の、それまたとても優しいお父さんなのでした。


「帰ってきたらお礼を伝えるわ」

「噂なんてそんなものだよ」


少年は微笑んで言いました。


「僕もきみに質問があるんだ」

「なに?」

「赤ずきんちゃん、きみの髪はどうして燃えるように赤いの?」


少年は聞きました。


「いつか村を燃やしてしまうからよ」


少女は答えました。


「それじゃあ、どうして眼はそんなに赤いの?」

「いつか村の人を殺してしまうからよ」

「赤ずきんちゃんは、そんなことをするの?」

「村の人もお母さんも口を揃えて言うから、きっとするのよ」


少女は悲しそうに答えました。


「赤ずきんちゃん、きみの名前はなんて言うの?」

「私、メイジーっていうの」


少女の本当の名前はメイジーでした。

しかし、少女は“赤ずきんちゃん”と呼ばれ続けており、本当の名前を無くしかけていました。


「メイジー、きみは村を燃やして、人を殺すのかい?」


少年は少女、赤ずきんちゃんではないメイジーに尋ねました。


「しない。私そんなこと、絶対にやらない」


少女は赤い眼をさらに赤くして首を大きく振りました。

そこから流れる涙は、真珠のように光っておりました。

少年は持っていたカバンから、頭巾をひとつ、取り出しました。

それは少女が落とした真っ赤な赤い頭巾でした。


「これは君の髪と眼の色に似ていて、とてもよく似合っている。でも、それに隠れた君の綺麗な髪と眼も、メイジー、君によく似合っているよ」


少年は頭巾を布団から起き上がった少女に渡しました。


「きみを“呪いの子”だなんていったこと、謝るよ。ごめんなさい」


少年は少女に頭を下げました。


「私も、あなたのお父さんに怯えてしまったわ。見た目だけで判断してしまった。私がその辛さを一番わかっているはずなのに……」


少女は“化け物”だと思ったことを心の底から恥じました。


「あなたのお父さんはとても優しい人で、私の髪と瞳は綺麗なのね」


少年は大きく頷きました。

そして、一輪の美しい薔薇を手渡しました。


「メイジー、きみの髪と眼はこの花のように美しい」


それは少年があの、素晴らしい花畑から摘んできたものでした。


「ありがとう」


少女は初めて花をプレゼントされ、喜んで受け取りました。

そうしているうちにおばあさん達が病院から帰ってきました。

おばあさんは、美しく成長した少女に会えたことを泣くほどに喜び、少女は少年のお父さんに直接お礼とお詫びをしました。

そしてみんなで仲良く少女が持ってきたお菓子を食べ、森で見つけた鳥や花畑のことをたくさん話し、おばあさんは少女の持ってきた葡萄酒を飲み、とても元気になりました。

すっかり暗くなり、少女は家に帰る時間になりました。

少女はおばあさんとおじいさんにまた遊びに来る約束をし、少年と少年のお父さんに家まで送ってもらいました。

家に着き、頭巾を被っていない少女と大男を見たお母さんはたいそう驚きましたが、少女の決意に満ちた赤い眼をみたので、何も言いませんでした。

そうして少女は、頭巾を被るのを辞めました。

しかし、おばあさんの家に行く日はその頭巾を被り、少年と待ち合わせをして家へと向かうのです。


「やあ、赤ずきんちゃん」


それは少女の、特別な名前なのでした。



赤ずきんちゃんの本名って何なんだろうとググッてみたら、ペロー版に「メイジー」とあったので、そのまま拝借しました。

赤ずきんちゃんでもあり、狼でもある女の子です。

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