63.魔人タウ(2)
魔人タウは、勝てないと思い、転移魔法で、遺跡に逃げ込んだ。そこは、魔王ズハアによって、復活した石板が置かれた場所だった。
魔人の能力は、復活させた魔王の魔力に比例する。従って、魔力が完全に回復していない魔王ズハアによって、復活させられた魔人タウの力は、以前のものとは、比べ物にならないほど、弱かった。
「こんな状態で、俺は、死ぬのか?あんな、弱い魔王のせいで。」
魔人タウは、己の力の無さを呪った。
「待てよ、あの勇者、聖剣を持っていなかったな。ひょとして、聖剣の秘密を知らないのか?」
魔人タウは、勇者パーティとまだ、交渉の余地があると思い始めた。
「俺だって、もって、魔力を吸収したら、以前のように無敵だ。ただ、時間がないだけだ。その時間を稼ごう。」
魔人タウは、戦いを好む、戦いが生きがいのような魔人だった。そして、手段を選ばないという意味では、あの魔人ブラックと同様だった。
今の魔人タウには、魔石に魔力を注ぎ込んで、他の島に逃げるだけの魔力はない。従って、この遺跡で待つより、他に取れる手段はなかった。
一方、ダンジョンにいるキリ姉の勇者パーティは、今後について、相談をしていた。
「キリ姉、一旦、元の世界に戻って、しっかり準備してから、ここに来ない?」
私は、キリ姉に元の世界に一度、戻る事を提案した。
「そうね。それも一つの方法だけど、あの、魔人タウを見た?私達の敵ではないわ。」
「そうですね。簡単に倒せましたね。」
ハルトも、キリ姉に同調している。まあ、ハルトは、キリ姉の言うがままだから、仕方がないけど。
「でも、あれは、たまたま、雷が弱点だったからで、それまでは、攻撃し辛らかったのではないですか?」
「うん。ミユの言うとおり、あの変な機械に邪魔をされて、有効な攻撃が出来なかった。」
「でも、元の世界に戻って、どんな準備ができるの?分からないわ。」
キリ姉は、このまま、攻撃を続けるつもりだ。
「それじゃ、取り敢えず、あの魔人タウを捕らえて、それから、考えない?」
私は、妥協案を出した。少しでも、情報を得てから、元の世界に戻る事も大切だから。
「いいわ。そうしましょう。」
キリ姉の一声で、行動が決まった。私は、転移魔法で、遺跡に移動する準備を始めた。
「皆、私の周りに集まってくれる。」
皆が、私と手を繋いだ。
「それじゃ、行くよ。」
私達は、転移魔法で、遺跡の所に移動した。
私は、素早く、スキル探索で、魔人タウの居場所を探った。魔人タウは、石板の前で、座って居た。
「遅かったな。」
「まあ、慌てることもないからね。」
キリ姉が、魔人タウの声掛けに答えた。
「そうだな。今の俺では、歯が立たない。」
「降参する?命だけは、助けてあげるよ。」
「何が、条件だ。」
「貴方が知っていることよ。それが、条件よ。」
「そうか。でも、俺を本当に殺せるのか?」
魔人タウは、聖剣を持っていないと思い込んでいるようだ。
私は、アイテムボックスから、聖剣を取り出して、光魔法を注ぎ込んだ。すると、聖剣は、光り輝き、当たり一面を照らし出した。
「おぉ、聖剣を持っていたのか。何故、それを使わなかったんだ。」
「お前達を、殺すつもりがなかったからよ。」
私が、キリ姉を差し置いて、話した。
「そうか。聖剣を持っていたのか。聖剣を。」
魔人タウは、同じことを繰り返し、呟いていた。本当の死を覚悟したのだろう。今までの、挑戦的な様子が消えた。
「何が知りたい。俺も、このまま死ぬのは嫌だ。せめて、以前の力を取り戻して、戦って死にたい。」
「ほぉ、まだ、十分に復活していないというの?」
「そうだ、以前の3分の1程度の力だ。」
「それなら、尚の事、今直ぐ殺す方がいいのでは?」
「そんなことを言うなよ。以前の力を取り戻しても、お前達以外を殺したりしない。俺は、此処から動かない。」
「それで、さっきの条件は、どうなの?」
「あぁ、いいとも、俺が、力を取り戻すまで、待ってくれるなら、何でも教えてあげるよ。」
魔人タウとの交渉は、成立した。だが、魔人の言うことは信じられるのだろうか?以前、誓いを破るのは、人間で、魔人は、約束を必ず守るって、誰かが言っていたっけ。
私のうろ覚えだけど、聞いたことがある気がした。




