30.勇者の好きな物
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
キリ達は、ハルトと共に街に出た。ハルトは、この世界に召喚されてから、一度も街に出たことがなかった。神殿とダンジョンの往復だけだった。
初めての街は、新鮮で、どの店も入ってみたかった。キリ達はハルトのペースに合わせて、のんびりと街をハルトに見物させていた。
「ハルトもミユと同じね。疑うことをしらない。」
と、キリ姉がキリに話した。
「どちらも、純粋だね。若いといいね。」
「何言ってんの、キリ、一番若いのは、キリだよ。キリは、時々、変な事を言うね。」
「そうだった。てへっ。」
キリは、自分で、自分の頭を小突いた。時々、召喚される前の初老の気持ちになってしまう。
ハルトは、私達と行動を共にしているが、まだ、完全に私達を信用しているわけではなさそうだ。
キリは、一度、ハルトのステータスを見たことがある。それは、次のような物だった。
【ステータス】
名前:桾本 陽翔
種族:人間族(男)18才
職業:斧戦士
LVレベル:70
HP(最大体力量):1,000,000
MP(最大魔力量):10,000
魔法:土魔法(LV10)、火魔法(LV10)、水魔法(LV10)、風魔法(LV10)
スキル:斧術(LV10)、剣術(LV40)
毒耐性(LV10)、麻痺耐性(LV10)、魔力耐性(LV10)
この内容は、まだ、キリ姉以外、誰にも伝えていない。ミユにも内緒だ。本当は、勇者ではなくて、タンクだった。本人は、気づいていない。私も、まだ、伝えていない。
でも、このままでは、本来の力が発揮できない。それは、可哀そうだ。
私は、キリ姉と相談して、少しだけ教える事にした。
早速、キリが、ハルトに声を掛けた。
「ねえ、ハルトは、いつも剣を持っているけど、他の武器は使ったことがないの?」
「急に、どうしたんだ?そんなこと、聞かれたことがないよ。それに、武器は神官長に渡された物を使っているだけだよ。この盾も、装備も、すべて、神官長に貰った物をそのまま使っているよ。」
「そうなんだ。私は、鍛冶屋に行ったり、道具屋に行ったりして、気に入ったものを装備しているよ。ハルトも試しに、探してみたらどうかなぁ。」
「そうだね。いままでは、気にしなかったけど、装備は大事だね。」
私達は、まず、鍛冶屋に行くことにした。店の中には様々な武器が置かれていた。
「ハルト、実際に手に持った方がいいよ。そして、少し、振ってみて、しっくりする武器を買ったら。」
「そうだね。色んな武器があって、面白いね。」
そういいながら、ハルトは、武器を1つずつ手に持って、確かめていった。
私達も、何か掘り出し物がないか、店員に聞きながら、店の中を見て回った。
「キリ、ここに変わった物があるよ。ちょっと来て。」
と、急にミユが私に声を掛けて来た。
「わかった。ちょっと待ってね。」
私が、ミユの傍に行くと、ミユは1冊の魔導書を持っていた。
「本当ね。鍛冶屋に魔導書なんて、珍しいね。」
と、ミユに言うと、
「違うのよ。この魔導書をよく見て。魔法で封印がされているの。だから、中を見ても何も見てないようになっているの。」
「ちょっと、貸してみて。」
私は、ミユから、魔導書を預かった。確かに、封印がされている。スキル鑑定でも、封印されて中が見えなくなっていた。
「ミユの言うとおりね。これは、掘り出し物かもしれないね。買って帰ろう。
すみません。」
「はい、何でしょうか。」
「この魔導書は、売り物ですか?」
「ああ、これですか。中には何も書かれていませんよ。それでもいいのですか?」
「はい、それはいいのです。飾りとして、本棚に置くだけだから。」
「そうですか。この魔導書は、だれかが、金貨の代わりに置いて行ったものです。
私共も、邪魔なだけなので、買ってもらえればありがたいです。
金貨1枚で、どうでしょうか。もう少し負けましょうか?」
「金貨1枚で、いいです。」
私達は、不思議な魔導書を買って帰ることにした。そうしているうちに、ハルトが、武器を決めたようだ。
「これが、いい。」
ハルトは、大きな斧を持っていた。
「それは、両手で使う武器だよ。盾が持てなくなるけど、いいの?」
と、キリ姉がハルトに尋ねた。
「うん、もともと、盾は好きじゃなかったから。仕方なく持っていただけだよ。」
「それなら、それでいいよ。
あっ、そうだ。ハルトにも、このアイテムボックスをあげるよ。
結構、色んな物が入るよ。」
キリ姉は、上級のアイテムボックスをハルトに渡した。ハルトは、要らなくなった剣と盾をその中に入れた。
「ありがとう。これって、凄いね。こんなに入るアイテムボックスを見たことがなかったよ。」
「気に入って貰って嬉しいわ。気にせずに使ってね。武器の費用なども、私が出すから、気にせずに好きな藻をを選んでね。」
「えっ、本当にいいの。後で、何か仕事をして、返そうと思っていたんだ。」
「こう見えても、私って、金持ちなのよ。こんな店の一つや二つ、いつでも買えるよ。」
「本当か。凄いな。それじゃ、遠慮せずに、貰っておくよ。」
「それじゃ、次に装備を見ましょうか。武器が決まれば、それに合わせて、装備の鎧も兜も変わるから。」
「うん。見てみたい。」
キリ姉とハルトは、店の中を見て回った。少し時間が掛かったが、ハルトは気に入った装備に着替えていた。
「キリ、こっちは終わったよ。」
「はい、今行くよ。」
「キリ達は、何も買わなくていいの?」
「ミユとちょっとした物を買ったよ。後で、見せるね。」
メインの買い物を終えた私達は、食事をしてから、本部の地下施設に戻った。
私とミユとパープルは、買って来た魔導書の研究に取り掛かった。
キリ姉は、ハルトに施設の説明をしていた。ハルトには、できるだけ、そのまま、見せていくことにした。そのうちに、自分で何が真実か、わかるだろう。口で言うより、自分の目で見た方が納得するはずだ。
少し時間は掛かるが、この先の方が長い。私達は、焦らないで、じっくりと時間を掛けることにした。ミユに対しても同じ様に対処するつもりだ。
キリ姉は、皆で、ダンジョンに行こうと言い出した。ハルトに、買って来た武器を試させたいようだ。それに、ハルトも乗り気だ。
「ハルト、今から、ダンジョンに行くけど、ダンジョンマスターだけは討伐したらだめよ。」
「わかったよ。キリ姉が良いといった魔物だけを倒すよ。それで、いい?」
「いいわよ。それじゃいくわね。キリ、お願いね。」
私は、キリ姉の指示に合わせて、転移魔法で中級ダンジョンの横に作っている施設に移動した。
「皆、私について来てね。いい。」
「「はい。」」
私達は、ダンジョンの中で、出来るだけ、群れになっている魔物を狩っていった。ハルトが先頭で、大斧を振るう、私は、その後ろで、狩り残した魔物を狩る、その横で、パープルが周りを見渡しながら、攻撃を仕掛けていった。
ミユは少し離れた場所で、全体の様子を見張っていた。そして、キリ姉は、最後尾で、新たな魔物に対処しながら、ミユを守っていた。
暫くしてから、私は、ミユに結界を張るように頼んだ。光魔法による結界だ。これで、魔物の魔法はほとんど防ぐことが出来る。また、ミユの光魔法がレベルアップするはずだ。
私は、キリ姉に、ミユのマナの総量を確認して貰うことにした。そして、ミユがマナ切れにならないように、適時青のポーションを飲ませる様にお願いした。
ミユの結界のおかげで、ハルトは細かなことを気にせずに、攻撃に特化した。今まで以上に軽快な動きだ。また、疲れも感じていないようだ。
何度か、魔物の群れを狩って行き、それぞれの動きも自然になって来た。
「そろそろ、帰って、何か食べない?」
「「はい。」」
皆も、お腹が空いていたようだ。キリ姉の声を待っていたかのように、皆は喜んだ。
今日は、やっぱり、肉だね。お腹一杯肉を食べて、それから、甘い物も一杯食べたい。
ハルトの好みを知っておこうっと。




