12.魔王探索
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
「キリ、この間の勇者一行にはまいったね。」
「本当ね。まさか、神官達を見捨てるとは?」
「まさかね、召喚された勇者がすることかな?」
先日、私達のいるウディーア王国の上級ダンジョンを制圧に勇者一行がやって来た時のことを話題にしていた。
「でも、キリ姉、あの時、勇者のスキルについて、少しわかったね。」
「そうね。キリの仕掛けたトラップに気が付かなかったものね。」
勇者一行が上級者用ダンジョンを制圧に来るという情報は、早くから分かっていたので、少し、仕掛けをしておいたのだった。それは、2つのダンジョンをくっつけて、勇者一行が別のダンジョンを制圧するように仕向けたということだ。
私達の王国であるウディーア王国の南東には、リーグ王国がある。そして、ウディーア王国とリーグ王国の間には、初級ダンジョンがある。
今回、勇者一行が制圧しようとしたのは、ウディーア王国と北東にあるザーセン王国との間の上級ダンジョンだった。
この2つのダンジョンを第2階層でくっ付けて、更に、上級ダンジョンの第3階層への道は土魔法で隠し、更に、闇魔法でバリアを張っておいた。
とうぜん、2つのダンジョン間は数キロの隔たりがあり、普通なら、途中で、気が付くはずだが、この2つの通路は闇魔法の空間圧縮魔法で、10m程度の距離と感じる様にしておいた。
更に、勇者一行が初級ダンジョンの攻略を開始すると、初級ダンジョンの出入口を隠し、第2階層を上級ダンジョンの第2階層と繋げた。
このようなトリックで、勇者一行が上級ダンジョンの制圧を無事終えたように思わせたのだった。
「やっぱり、勇者は、スキル探索やスキル鑑定が使えないようね。」
「もし使えていたら、バレバレよね。キリ姉。」
「それに、神官達を捕らえていたことも、良かったね。」
「本当ね、さすがに、神官達であれば、闇魔法に気が付いたよね。」
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これまでの研究で、私は簡単なコンピュータに代わるものとして、マナコンを作り上げた。そして、、魔法陣を基盤としたソフトウェアとして、マナコン用の簡単なマクロのようなものを作り上げた。
今は順次処理しかできないので、更に機能アップを考えた。分岐とループを実現する魔方陣をつくり、更にそれを記号化した。
これで、マナコンを制御できるマクロ、マナクロという簡易言語が完成した。
私は、土魔法で、50cmほどの土人形をつくり、マナコンを埋め込んだ。これで、簡単な処理をこなす、土人形の完成だ。この土人形には、目・耳に相当するセンサーも組み込んでいる。
早速、土人形に指示を出して、動作を確認した。最初なので、簡単な作業だ。
工場横に作っている薬草畑から、ベースハーブを採取し、アイテムボックスに入れるというものだ。
土人形は、ゆっくりだが、確実に仕事をこなしていった。ベースハーブをすべて採取し終わると、私の所まで戻ってきて、動きを止めた。
実験は、成功だ。思った以上に、スムーズに動いていた。改良の余地はあるが、当面の作業はこの土人形に任せることが出来そうだ。
地道にキリ姉には内緒で始めた研究だけど、やっとお披露目できる。
「キリ姉、やっとできたよ。」
「えっ、何の事かな?」
「自立型土人形のことだよ。あれ?言ってなかった。研究の事。」
「おおよその事は聞いているよ。キリの土人形のことだよね。」
「そうだよ。それがやっと形になったんだよ。キリ姉、見てくれる。」
「いいよ。」
「これが、自律型土人形の改良版だよ。これまでは、私達の魂を複製し、刻印してきたけど、やっと、私達の魂を使わない自立型土人形を作ったよ。」
私は、魂の代わりに、マナコンを埋め込んだ自立型土人形をキリ姉に紹介した。
「ジャジャジャジャーン、これが世界初のマナコン使用の自立型土人形だよ。マナドールと呼んでね。」
身長50cmの小さな土人形に、人間の様に手・足・目・耳・口をつけている。
ちょっと見ただけでは、土人形とは分からない外観をしている。どちらかというと、子供のように見える。
「すごいね。お人形さんみたい。ところで、しゃべれるの?」
「ごめんなさい。まだ、予め決めた行動しか、できないの。」
「そうか、残念。」
「でも、工場では、十分に役に立つよ。生産は、決められた行動しか必要ないから。」
「工場や農場の仕事は、任せられるね。」
農場や工場に配置していた魂を封印していた自立型土人形のうち、作業用の分をすべて、マナドールに置き換えた。また、ウディーア王国の東の端にある森の中の基地にも、作業用として、マナドールを10体配置した。そして、地下9階を工場に変えて、マナドールを作成させた。
マナドールに必要な土人形の作成とマナコンの作成を5体のマナドールに任せ、土人形へのマナコンの埋め込みと動作確認をマナドール2体に任せた。残り3体のマナドールは、警備用として、基地の出入口に置き、誰かが近づいてきたら、連絡をするように設定した。
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リーツ王国で、新しいダンジョンが現れた。こんなことは、ここ200年なかった。しかも、特級ダンジョンだ。リーツ王国では、魔物がダンジョンから出てこないように、入り口を50人の兵士で取り囲んでいる。兵士達の間には、緊張感が漂っていた。
リーツ王国の冒険者ギルドでは、冒険者たちが集まり、今後の事を相談していた。
「ギルド長、我々もダンジョンに行こう!」
「そうだ。ここで待っていても仕方がない。」
「まあ、待て。今入り口付近は王国の兵士達が待機している。すぐのどうこうなるものでもない。」
「しかし、兵士達に任せてはおけない。こと、ダンジョンに関することは、ギルドが優先だろう?」
「お前の言うとおりだ。しかし、ギルドの事は、ギルド長に一任されているはずだ。」
「その通りだが、心配じゃないのか?」
「兵士が勝手なことをして、ダンジョンの中が無茶苦茶になるぞ。」
「まだ、そうなると決まったわけではない。少し、頭を冷やせ。」
「ギルド長、そういっても、昔の事があるから、皆心配して、こうして集まっている。」
「私も、昔のことを知らないわけじゃない。でも、今は、俺に任せて、暫く、待ってくれ。皆もわかってくれ。」
「「分かった。」」
「皆、すまない。」
新しいダンジョンが出来てから、2週間が経った。魔物が外に出てくることはなかった。また、兵士達がダンジョンの中に突入することもなかった。冒険者ギルドが心配したようなことは起こっていなかった。だが、別の動きがあった。それは、ザーセン王国の勇者達の動きだ。新しいダンジョンが出来たことは、ザーセン王国にも伝わっており、このダンジョンの壊滅を考えているらしい。
しかし、ザーセン王国から、リーツ王国へ行くには、ウディーア王国を通過するか、ウディーア王国を避けて、北の端から時計の反対回りに大きく回り込んでいくしかない。ウディーア王国では、前回のダンジョンの制圧のこともあり、かなり警戒しているので、簡単には通過させて貰えない。そのため、現在は保留となっているようだ。
また、各王国では、これまで発生したことのない特級ダンジョンに大いに警戒している。そして、魔王の誕生を噂し始めていた。ウディーア王国の北東にあるトード王国と南東にあるリーグり王国は、今回発生した特級ダンジョンからは遠方にあるので、傍観を決め込んでいた。
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ウディーア王国では、5つの王国が周囲を取り囲んでいるので、常に各王国の情報収集に余念がない。そして、それは、王宮のみならず、冒険者ギルドでも同様である。
魔法学院の生徒も、ひょっとすると、魔王討伐や王国との戦争に動員されるのではなかと、心配していた。
「コン、コン、コン。マルグリット先生、居られますか?」
キリ姉が、マルグリット先生の部屋のドアを叩いた。私は、キリ姉の横にいた。
「ちょっと待ってね。今、開けるから。」
ドアが開き、マルグリット先生が部屋の中に招き入れてくれた。
「「お邪魔します。」」
「そんなに、改まらなくてもいいわよ。」
「「はい。」」
「今日は、どうしたの?」
私達3人は、最近噂になっている上級ダンジョンとウディーア王国の動向について、聞いてみた。
「そうね。正確な事は分からないけど、上級ダンジョンについては、すぐにでも制圧に行きたいみたいよ。」
「勇者を筆頭にいたる所のダンジョンを制圧していますね。」
キリ姉が、尋ねた。更に、私も、聞いてみた。
「勇者を召喚した目的や、ダンジョンを制圧することなど、関係があるのですか?」
「取り敢えず、今分かっていることを教えるね。まず、ダンジョンを制圧したいので、勇者を召喚したということね。」
「えぇっ、勇者をダンジョンを制圧するために召喚したのですか?魔王討伐ではないのですか?」
「そうよ。よく考えてみて。まだ、魔王はその存在すら分からないのよ。そんな状態で、勇者を召喚する必要があるの?魔王の誕生は毎年のように起こるの?違うでしょ。」
「そうですね。普通は、魔王の誕生が確認できてからとか、少なくとも噂が出てきてからですね、遊所の召喚は。キリもそう思うわね。」
「はい。私もそう思います。」
「そうすると、勇者を召喚したのは、魔王とは関係ないと言うことね。」
「「はい、そう思います。」」
「先日、神殿で、兵士に対して治療を行っているのを見たでしょ。何か、気が付いた?」
「魔道具として、神具を使っていました。隠そうとはしていましたけど。」
キリ姉が答えた。あの時も、キリ姉が私に言っていたことだ。
「よく気がつきましたね。キリ姉。あのような事は我が王国だけかしら?」
「というと、ザーセン王国でも同じだと。そういうことですか?」
「そうよ。我が王国だけ、光魔法を使える魔法使いが生まれにくい。そんなことはないわね。」
「それは、分かりましたが、それとダンジョンの制圧とどのような関係があるのですか?」
「キリ姉は、冒険者でしょ。ダンジョンで何が得られるの?」
「魔石とか、・・・。あっ、ドロップアイテム!」
「ドロップアイテムには、魔道具があるよね。そして、最下層には何があるの?」
「ダンジョンコアですか。制圧すると、ダンジョンコアがアイテムになると言われてます。」
「その通りよ。そして、それは事実です。ダンジョンコアは、制圧とともにアイテムになります。それも、レアな魔道具になります。ほとんどが、光魔法を使える魔道具です。」
「「そうか。」」
マルグリット先生の説明は明快であった。勇者召喚とダンジョン制圧との関係が綺麗に説明できている。流石は上級教師だ。私達は、感心してしまった。
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「キリ、キリ、起きて!」
急に、ドアを叩く音に起こされた。キリ姉が、来たようだ。寝ぼけまなこで、起き上がり、ドアを開けて、キリ姉を招き入れた。
「キリ、基地で、アラームが鳴っているよ。何かしたん?」
「何にも、してないよ。最近は、忙しくて、基地には行っていないよ。」
「でも、アラームが鳴ってるって、私の所にピスケスから、連絡があったのよ。」
「えぇっ、どうして?」
「キリ、あなたがそれを言う?「どうして?」って。」
「でも、私も、何もしていないのよ。」
「基地では何をしていたの?先日、マナドールを作って、色んな場所の魂を刻印した自立型土人形を置き換えていたよね。覚えてる?」
「うん、覚えているよ。」
「基地には、あなたの自立型土人形を置いているのなら、思念伝達を使って、確認してくれる。」
「ちょっと待ってね。やってみるから。あれ?思念伝達使えないよ。」
「何言っているの?魔法が使えなくなったの?キリ、大丈夫?」
「あっ、そうだった。」
「何か、分かったの?」
「キリ姉、基地には、マナドールしか置いてなかった。だから、思念伝達使えないよ。」
「なぜ、管理用の魂を封印した自立型土人形を置いていなかったの。」
「てへっ、うっかりしてた。キリ姉、ごめんなさい。」
「仕方ないね。それじゃ、基地に行ってみよう。キリ、すぐに準備してね。」
ちょっと、怒りながら、キリ姉は、準備のために部屋に戻っていった。私も、すぐに準備して、キリ姉の部屋に行った。
私達は、転移魔法で、基地の地下10階に移動した。
すると、地下9階の階段がマナドールで溢れかえっていた。
「あっ、マナドールだらけ、アイテムボックスを出すから。」
「キリ姉は、そこで少し待ってて。」
私は、急いで、階段に溢れかえっているマナドールを販売用のアイテムボックスに詰め込んで行った。このアイテムボックスは、荷馬車1台分しか入らないので、すぐに一杯になった。でも、アイテムボックスは、売るほどあるので、キリ姉に、工場からこちらに100個転送してもらう。私は、キリ姉から、アイテムボックスを受け取るなり、マナドールを放り込んで行った。
暫くは、マナドールをアイテムボックスに放り込む作業を繰り返していたが、ようやく、地下9階の床が全体的に見える様になった。
少し余裕が出来たので、マナコンのマナクロを書き換えて、転がっているマナドールをアイテムボックスに入れる様にした。それを取り敢えず、10体作った。1体つくれば、そのマナクロのコードをコピーして、次のマナコンにインストールするだけなので、この作業はすぐに終わった。片付け用のマナドールがうまく動くのを確認してから、キリ姉に声を掛けた。
「キリ姉、基地でマナドールを作っていたみたいね。」
「キリ、言われなくてもわかるわ。どうして、定期的に見に来なかったの?それに、何故、私に教えてくれていなかったの!」
「ごめんなさい。うっかりしてたの。」
「キリ、他に私に言っていないことってない?」
「うーん、無いと思うけど、自信ない。」
「仕方ないね。帰ってら、ゆっくり話しましょう。まずは、ここの処理ね。」
私達は、基地の中のマナドールそアイテムボックスに詰め込んで、1体のマナドールを管理用に設定して、魔法学院の寮にあるキリ姉の部屋に戻った。
そこで、キリ姉から、数時間に渡り、説教を受けながら、これまでのことを一緒に確認していった。それと、今後の対策を一緒に考えた。といっても、管理に関することなので、一方的にキリ姉の話を聞くだけだったけど。
色々な問題点がはっきりしたけど、まず最初に分かったことは、販売用のアイテムボックスでは、収納スペースが小さ過ぎて、工場の倉庫や基地の倉庫としては不十分だということ。
そこで、早速倉庫用のアイテムボックスを作った。販売用に加減していた闇魔法の空間圧縮魔法を普通に使って、アイテムボックスの収納スペースを1辺を10mの立方体の容積にした。これを大量に作れるように、基地の地下9階の空いたスペースにマナドールを配置し、マナクロを設定した。
次に、基地にも管理用の自立型土人形を置く必要があるということになった。今、7台の魂を刻印した自立型土人形を使っているが、私の魂を刻印した自立型土人形を1台基地に置き、それをキリ姉の魂を刻印した自立型土人形に管理させることにした。
思念伝達は、便利な魔法だけど、距離に応じて消費する魔法量が増大する。そこで、キリの魂を刻印した自立型土人形を基地に置き、それから、街の農場・工場にいるキリ姉の魂を刻印した自立型土人形に思念伝達をさせることにした。
今回の最大の問題点は、何かトラブルが起こった時に報告が直接、その現場から入らないことだ。そこで、思念伝達魔法を魔法陣化して、マナドールに設置した。
しかし、各マナドールでは、街の農場・工場に報告するのは魔力量を多大に浪費することになるので、各部署で報告する先のマナドールを定めて、そこから、セレクトした報告をさせることにした。必要なマナが利用できるように、その報告用のマナドールの横に大量のマナを蓄えることのできる装置を設置した。これは、電気回路のバッテリーのようなものだ。これを、マナッテリーと名付けた。
そして、各マナドールの1日のログを記録するためにファイルサーバのような働きをするマナで動くデータを蓄える装置も設置した。
このマナに関する発電機のような装置とファイルサーバのような装置をマナ発電機とマナサーバと呼ぶことにした。この管理用マナドールとマナ発電機とマナサーバをセットで、管理用マナセットと考えて、各場所にすべて配置した。これには、1週間を要したが、今後役に立つものなので、時間を割くことを惜しまなかった。また、各マナドールは、1日1回マナサーバにログを記録させることにした。そして、各マナサーバには、1週間に1回、本部ともいえる農場・工場のマナサーバにバックアップをさせることにした。
今日は、最低限の作業に留めて、残りは、後日に処理することにした。
それから、パープルに依頼している仕事についても、キリ姉に話しておいた。




