10.神官長の陰謀
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
魔法学院の生活も、2年目になった。ここの教師に新しく他の国からの教師がやって来た。ウディーア王国は、リーツ王国と教師を交換し、交流を行っている。その制度で、2人の教師が承認されたということだ。
一人は、白魔導士のアイリスだ、もう一人は、黒魔導士のマルグリットだ。どちらも、上級魔導士で、かなり優秀との噂である。
学院長から新着の教師が紹介された。私達は、直接関係のある黒魔導士のマルグリットに興味を持った。というのも、教師では珍しい、平民出身という噂が流れたからだ。
今日は、授業として、神殿に見学に行くということだ。神殿には、貴族でないと入ることができないと聞いていたので、ちょっと、びっくりした。私達も参加できるからだ。
神殿は、魔法学院のように貴族エリアと平民エリアとに跨って建てられていた。しかし、平民エリアは、非常に僅かで、単に出入口と礼拝堂があるだけだった。一般の平民は、この入り口から入って、礼拝堂までしか行けないようになっていた。
私達は、礼拝堂の先の神官達の講義室まで入ることが許された。これは、魔法学院の生徒だけの特別な扱いだった。本来は、平民は入れない場所だった。
「キリ姉、凄いね。」
「ここまで入ったことないものね。」
暫くして、私達は、神官達が待つ講義室に入っていった。
「ようこそ、魔法学院の生徒さん達。教師の皆さんも、今日はよろしく。」
一番の年長者が軽く挨拶をした。
「生憎、神官長は所用で、参加することが出来ませんが、宜しくとのことです。」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」
学院長が、改まった挨拶をした。
今日は、神官達に光魔法を使った実演を見せて貰う予定だ。
「それでは、始めましょうか。」
先ほどの神官が声を掛けると、他の神官達が慌ただしく動き始めた。ある者は、椅子やベッドを用意し、ある者は、カーテンの付いた仕切りを用意した。そして、ドアが開き、数名の怪我をした兵士が入って来た。
どうやら、ここで、光魔法による治療の実演を行うようだ。
「準備が出来たようですね。生徒の皆さんは、もっと前に来て、しっかりと、見て学んでくだい。」
私達は言われたように、兵士と神官の様子がよく見える様に移動した。
「では、始めてください。」
すると、あちらこちらで、詠唱が始まり、それと共に、薄っすらと光るのが見えた。光が消えて元の部屋の状態に戻ると共に、兵士の傷が癒えて、傷口が塞がっていった。
神官達の光魔法によって、すべての兵士が癒された。
「素晴らしい。」
学院長が、神官達に謝辞を述べて、神殿での演習は終わった。その後、暫くは、質疑応答を行った。
「キリ姉、光魔法を使える人は稀だと聞いていたのに、結構人数がいたね。」
「キリ、よく見ていた?」
「えっ、どういうこと?」
「さっきの神官達は、兵士の傷を癒したけど、皆、神具を使っていたのよ。」
キリ姉は、急に小さな声で、私にだけ聞こえる様に答えた。
「そうなの。わからなかったよ。」
「だから、大きな声を出したらだめよ。」
「はい、わかった。」
今日の演習には、神官長が出席しなかったと同時に上位神官も参加していなかったのかもしれない。私達は少しガッカリしながら、帰路についた。
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最近、また、勇者が各地のダンジョンを潰し始めたと噂されている。そういえば、ダンジョンが不安定になったという情報も、複数の街から得られていた。多分、勇者がダンジョンを潰し始めたという噂は、事実だろう。
暫く、動いていなかったのに、なぜ、急に動き出したのか、しかも、他の国での活動が中心のようだ。ダンジョンが不安定になるので、本格的に調査する必要がありそうだ。
勇者は、パーティーを組んでいないという噂が流れている。実際に、何人もの冒険者達がダンジョンに入っていく勇者達を見ているのだが、勇者を先頭に、後ろから数名の近衛兵がついて入っているようだ。近衛兵以外には、随行していないようだ。
また、勇者の近くで、神官達を見かけたという情報もある。どうも、勇者の監視を神官達が行っているようだ。
私が召喚された時、神官達がガッカリして、このウディーア王国に転生されてしまったのだが、その後に召喚されたということは、若いということだろうな、ちょっと、嫉妬してしまう。
今後の事を考えると、もっと、勇者についての情報を集めておいた方が良さそうだ。
私達3人は、午後からの図書館での勉強を中止して、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドのスカールが、受付にいた。
「スカール、勇者について、何か知らない?」
「勇者って、ザーセン王国で召喚されたっていう青年の事?」
「青年なの?よく分からないけど、ザーセン王国の勇者であっているわ。」
「キリ姉、何故、知りたいの?」
「これは、内緒よ。」
と、小声で、スカールに話した。
「分かっているわ。誰にも言わないよ。」
「実は、将来、勇者パーティに参加したいと思っているの。」
「へぇ、本気?」
スカールは、目をクルクル動かし、両手で、口を押えた。
「今はまだ力不足だけど、Sクラスになったら、勇者に会おうと思っているの。」
「そうなんだ。私も、そんなに知っているわけではないけど、いい?」
「どんな事でもいいわよ。教えて。」
「まず、勇者は、召喚された若い男性だということ。」
「うん、それは知っている。」
「勇者はまだパーティを作っていない、ソロで活動しているということ。」
「それって、確か?」
「勇者でも、冒険者ギルドに登録しないといけないから、パーティを組めば、どこの冒険者ギルドでも分かるって訳。」
「そうなの。」
キリ姉は、嬉しそうに、笑った。
「それじゃ、私も望みがあるってことね。」
「そうね、キリ姉も可能性0ではないね。」
「それから、勇者は、神殿の中で生活しているらしいよ。いつも、数人の神官がくっついているって。」
「そうか。やっぱり、噂は本当だったのね。」
その後、キリ姉は、スカールと暫く雑談をしてから、私の所にやって来た。
「キリ、噂どおりよ。」
「うん。少し聞こえたよ。」
「それから、これは極秘だけど、職業は勇者だけど、土魔法・光魔法・闇魔法は使えないって。それに、剣士で、魔法は得意じゃないって。」
「えぇっ、そんなことまで、教えてくれたの。」
「そうよ、これは極秘よ。」
「それから、スキルのついては、記載がないから、よく分からないって。」
私達は、スカールから、かなりの情報を得た。
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サンライズ商店の活動も順調で、特に問題もなく、アイテムボックスと赤のポーションの販売を続けている。各街で独占販売の状態なので、収入の方も、かなりの額になっている。
帝国は、89の街・村を持っているので、私達の店は、まだまだ浸透しているとは言えない状態だ。現在、主な街に店をそれぞれ出している。以前の店をそのままの状態で、経営権だけを買い取った形だ。今後は、名前を全面的に出す形で、残りの街・村に店を出そうと思っている。
まずは、サンライズ商店の名前を普及させていきたい。王都の近隣の街で、私達の店がまだない所を選んで、サンライズ商店の支店を出すことにした。支店第1号だ。誰か人を雇って店を任せてもいいが、管理が大変になるし、サンライズ商店長は仕事をしないので、自律型土人形に店長を任せることにした。取り敢えず、No.4:キャンサーにした。
支店を増やしていきたいのだが、自律型土人形を作りすぎると、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。というのも、何があったのかを定期的に共有しているのだけど、どの内容が、どの場所のことか、分からなくなってしまうからだ。なにか、別の方法を考えないと、そろそろ、限界になりそうだ。
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最近、図書館で読んだ本に思念伝達魔法が書いてあった。これは、テレパシーと同じなので、すぐにイメージすることが出来た。何度か魔法を起動する練習をして、ようやく思念伝達魔法が、使える様になった。これは、闇魔法で、準備が必要だが、どれだけ離れている場所であっても、魔力量が許せば、頭の中だけで相手と会話ができるというものだ。予め思念伝達したい対象に、思念伝達感受性向上魔法をかけておく。そうすると、いつでも思念伝達魔法を起動することができ、相手を選択して声を出さずに会話ができる。しかも、他の者に盗聴されることもない。会話内容が、暗号化されており、普通は解読されないからだ。
複数の相手を選択して、グループで会話することも可能だ。これも、魔力次第だが、何人とも同時に会話することができる。必要な魔力はすべて、最初に魔法を起動させた者から取られる。
つまり、魔力量が少ない者がこの思念伝達魔法を起動しても、魔力が消滅するだけで、会話すら成立しないこともあるということだ。そして、便利なのは、思念伝達感受性向上魔法は、誰がかけていても、他者がそれを利用できるということだ。
せっかく新しい魔法が使えるので、すべての自律型土人形に、この思念伝達感受性向上魔法をかけておいた。当然だが、キリ姉にも、パープルにもかけておいた。更に、アリエス達には、ルーチンワーク以外は報告するように指示をした。報告は、思念伝達魔法で行うことにした。
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寮の部屋に戻った私は、これまでの実験の続きを行うことにした。
今回は、電気を使う代わりに、マナを利用する回路の抵抗に相当する素材を作ることにする。
魔法陣自体は、何で描いても問題なく動作する。例えば、地面に木の棒で、描いても、魔法陣としての機能は果たせる。つまり、どのような材質であってもマナは流れるということだ。しかも、材質の影響を受けない。ということは、描かれている魔法陣は、マイコンカーのトレースと同じということだ。つまり、魔法陣の線の中をマナが流れるのではなく、魔法陣の線に沿って、マナが流れるということだ。従って、電気回路における銅線のような物は不要だということだ。
マシリコンを使って、マナオードを作った。今回は、マナオードを使って、回路を作っていく。私は、AND回路、OR回路、NOT回路、NAND回路と、順番に作っていった。それから、半加算器、全加算器と、どんどん作っていった。
出来上がった回路自体は、前世における電気回路とはくらべものにならないほど大きなものになった。しかし、全く、問題にならなかった。というのも、アイテムボックスを使えるからだ。
私は、アイテムボックスをうまく使い4回路程度の単純なICを作った。これで、複雑な制御ができる。
また、オリハルコンを材料に闇魔法で作ったバリアは、メモリーとしての働きも持っていた。これを私は、マナモリーと名付けた。マナモリーは、魔法陣を記録させる機器の素材として使うことができた。
これで、コンピュータを作成するためのパーツがほぼそろった。次回は、これらのパーツを使って、簡単なマナ回路を組み立ててみるつもりだ。




