9-1.商人キリ現る
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
ようやく、魔道具であるアイテムボックスを作る準備が完成した。
アイテムボックスは、革袋で作るより、土魔法で作った石箱を硬化で、薄く頑丈にした物の方が性能が良かった。
闇魔法の「空間圧縮魔法」と「時間遅延魔法」を「魔法の魔法陣化」でそれぞれを魔法陣にした。つぎに、石箱を土魔法で作成し、硬化してから、2つの魔法陣を刻印した。
出来上がった石箱に魔法陣を刻印し、魔力を流し込んで、自動的に魔法が発動し続けるようにする。最後に、刻印された魔法陣が簡単に傷つけられないように、薄い石の膜で覆う。更に、魔法陣が傷つかないように表面を光魔法でコーティングし、保護した。ラップをかけるような感じかな。
今回製作したアイテムボックスは、魔石を組み込んだだけの従来のアイテムボックスより、より多くの物を入れることができる。また、従来のアイテムボックスでは、普通に劣化するのだが、通常の10倍まで、時間を遅延させているので、1週間程度の旅行であれば、問題なく新鮮な物をいつでも食べることが出来る。今回は、商店で売ってもらう予定なので、空間圧縮に関しては、荷馬車1台分に留めることにした。
取り敢えず、見本として1個作り、サンライズ商店に持っていくことにした。
「すみません。店長はいますか?」
「これは、キリさん。今日は、どのような用件ですか?」
と、店員のロックが声を掛けてきた。パープルは男性が苦手なので、私の後ろに隠れて、尻尾を振っている。
「見本のアイテムボックスが出来たので、確認してもらおうと思って、来ました。」
「えっ、もう出来たのですか?打合せしてから、まだ、1日ですよ。」
「以前から、作る準備をしていたので。」
「そうですか。それでは、こちらへどうぞ。」
と言われ、いつもの応接室に案内された。暫くすると、店長のギルバートがやってきた。
「お待たせしました。早速、見せて貰えますか。」
と、部屋に入るなり、ギルバートは、待ちきれないように言った。
「はい、これです。今回は石箱で作っているので、頑丈です。機能としては、荷台1台分のアイテムを収納できます。また、1週間程度であれば、食べ物でも、ほとんど痛みません。」
「それは、凄いですね。劣化しないアイテムボックスは貴重です。」
「いえ、いえ。劣化はしますよ。痛みにくいだけです。」
と、ちょっと訂正しておいた。後で、クレームが出ないようにしておかないと。
「はい。わかりました。それでは、1個金貨50枚では、どうでしょうか。」
「金額の方は、ギルバートさんに一任します。よろしく、お願いいたします。」
「1度に何個ぐらいだったら、引き取って貰えますか?」
「そうですね。最初は、20個でお願いいたします。その後は、売れ行きを見て決めるということでいいですか?」
「はい、それで結構です。取り敢えず、明日20個持ってきますね。」
「そんなに簡単に作れるのですか?無理しないでくださいね。」
「はい、大丈夫です。私、無理しないので。」
無事、商談も済み、気分良く帰路ついた。
せっかく、商店街に来たので、パープルと一緒に店を見て回ることにした。パープルに可愛い服も買ってあげたし、美味しい物も食べたいし。
「パープル、キリ姉には内緒だよ。」
「ウン、ウン。」
パープルに口止めして、服を見たり、甘いものを食べたりして、寮の部屋に帰ってきた。
私は、すぐにアイテムボックスの製作に取り掛かった。まず、石箱を20個つくった。これは、初級の土魔法なので、簡単に作れた。次に、それぞれの石箱に硬化魔法を掛ける。
これも、範囲魔法を使えば、時間がかからない。
続いて、魔法陣の刻印だ。これは、一つずつ慎重に行わないといけないので、時間が掛かった。
次に、魔力の流入だ。私は、総魔力量が半端ないので、まったく問題ない。
最後に、それぞれの箱をコーティングして完成だ。何とか、夕食までに、20個作ることが出来た。
念のためスキル鑑定で、出来上がったアイテムボックスの検査を行った。
すべて問題なく、予定の性能があることが確認できた。
「そうだ、ついでにパープルと私の分も作っておこうっと。」
急いで追加の2個のアイテムボックスを作り、検査をした後、パープルに1個あげた。
「前のアイテムボックスの代わりに使ってね。」
「ウン、ウン。」
と、パープルは、尻尾を振りながら、私の頬を舐めてきた。私はパープルを抱きかかえて、頭を撫でてあげた。パープルは、喜んで、モフモフの尻尾を振っている。
アイテムボックスの販売も軌道に乗ってきた。ただ、1度買うとめったに買いなおしはないので、一定量が売れると、後はそんなに売れないと思う。
そこで、常時売れる物を取引することにした。そう、ポーションだ。これなら、消耗品なので、常に売れ続ける。でも、誰でも作ることが出来るので、私達は上級と特級の赤のポーションを売ることにした。これなら、誰でも作るという訳にはいかないから。
せっかくだから、大量生産できる方法を考えることにした。
「赤のポーションを取引したいのだけど。キリ姉は、どう思う?」
と、キリ姉に声を掛けた。
「そうね、アイテムボックスは高価で、1個当たりの収益も多きいけれど、そろそろ限界かな?」
「そうでしょ。だから、赤のポーションがいいと思うの。できれば、上級と特級だけを。」
「初級だと、作れる人が多いからね。でも、上級とかだと、普通の冒険者は買えないよ。」
「だから、大量に作って売れば、値段を下げれるでしょ。キリ姉も作るの手伝って。」
「手伝うのはいいけど、私は光魔法が使えないよ。」
とキリ姉はしょんぼりした。
「うん。キリ姉に手伝ってもらうのは、ポーション製造の管理と販売管理なの。」
「そうね。キリは、管理能力に問題があるから。いいわよ。」
と言われると、素直に喜べない。
「まず、工場だね。どこか、空き地がないかな?」
「えっ、どれだけ作るつもりなの。」
キリ姉に呆れられたが、薬草を栽培する所から始めたいので、少し広めの土地が欲しい。
青のポーションを作るのには、ダンジョンの中で栽培しないといけないけど、赤のポーションであれば、普通の土地でも栽培が出来る。
赤のポーションを作るのには、ベースハーブとブラッディハーブが必要なので、少なくとも、ベースハーブは、工場の近くで栽培をしたいと考えた。
ブラッディハーブは、森の近くでないと生息していないけど、工夫すれば、ベースハーブと一緒に栽培できそうだと思っている。
工場と農園用の土地の購入は、サンライズ商店長に任せておいた。
数日後、サンライズ商店長から連絡があり、候補地をいくつか見せて貰った。その中から、キリ姉と相談して購入する物件を決めた。その土地は、街の北の端で、森やダンジョンに最も近い場所だった。
私は、まず、土魔法で、購入した土地を取り囲むように石壁を作った。そして、南側の壁に扉を1つ作った。それから、工場用の建物を作った。これは、2階建て、地下4階にした。外から見られても目立たないように考えた。
次に農園だ。薬草畑を工場の建物の横に作ることにした。今回は、ポーション用にベースハーブの苗を薬草畑一面に植えていった。収穫できるまでは、森やダンジョンまで行って必要なハーブを確保しないといけないが、まずは、大量生産の拠点が出来上がった。
キリ姉に一度ポーション作成に必要な薬草を採りに行きたいと、お願いした。
「そうねぇ。早い方がいいよね。今日、このまま行っちゃう?」
「はい。」
私達3人は、そろって、ダンジョンに入っていった。必要な薬草はすぐに見つかった。場所を指示すると、パープルが素早く採取してくれる。最近は、慣れてきて、私が指示する前に取りに行っている。
「そろそろ、パープル一人に任せていいかも。」
私が、キリ姉に聞いてみると、
「もう一人で、大丈夫みたいね。」
「薬草採取はパープルに任せて、これからの事、相談しない?」
「はい、キリ姉。どこで?」
「特に危険な階層でもないし、パープルが採取しているのが見えるし、ここでいいんじゃない?」
「じゃぁ、ここで。」
「魔法学院は、卒業まで、3年掛かってしまうけど、今のままでは、残る意味がないね。」
「はい、今は図書館で勉強しているだけで、教師の授業はあまり役に立っていません。」
「そうよね。魔法の基礎を勉強したいと思っていたけど、教師後について、詠唱しているだけ。」
「キリ姉も、私も、詠唱がいらないしね。どうして、魔法学院の人は皆詠唱をするのかな?」
「たぶん、それぞれの魔法の機能を理解してないから、今自分が実行しようとしている魔法のイメージをマナに込めれていないからじゃないかな。」
「でも、皆実行しようとしている魔法はすでに知っているでしょう。だったら、イメージもできるのじゃ。」
「そうね、イメージはできそうね。それじゃ、キリは、どうしてだと思う。」
「詠唱しないといけないと、先入観があるのでは?」
「どういうこと?」
「キリ姉は、誰かに魔法を習ったことがないでしょ。いつの間にか魔法を使っていたって。」
「そうよ。魔法を使っている人を遠くから眺めていただけ。あんな風に魔法が使えたらと思って、やってみたら出来たの。」
「魔法を最初に見たときに詠唱しているって分からなかったのじゃない。それに、もし聞こえていても、あんな古臭い言葉、小さい子には、マネできないもの。」
「そうね、キリの言うとおりかも。」
「そうすると、誰でも、無詠唱で、魔法が使えるってことじゃない。」
「キリ姉、私も、そう思う。」
「でも、詠唱って、魔法陣と同じで、イメージが曖昧でも実行できるから。」
「まぁ、人それぞれかもしれないね。」
「やりたい人だけが、無詠唱をすればいいって。」
「そういうことね。」
いつの間にか、この階層の薬草を取り終えたパープルが私の横で、寝転がっていた。
「あっ、もう終わったの。お利口ね。」
と言いながら、私はパープルの頭を撫でてあげた。それに合わせて、パープルは、フサフサの尻尾を振っている。
「薬草も十分に集まったみたいね。」
「これだけあれば、暫くは大丈夫ね。」
サンライズ商店に納品するポーションだけであれば、1カ月は持つ量になっていた。




