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8.魔法学院での生活

少しでもお楽しみいただければ幸いです。

 入学が許可された私達は、宿屋を引き払い、魔法学院の寮に入った。一緒に合格した2人も同じく寮に入ってきた。少女はエルフ族のエルミアで、少年は人間族のクルドだった。


 貴族も、基本寮で生活するのだけど、魔法学院の宿泊棟は2か所ある。というのも、魔法学院の立っている場所は、貴族エリアと平民エリアの両方にまたがっているからだ。


 貴族の宿泊する寮は貴族エリアにあり、私達が宿泊する寮は平民エリアにある。それぞれに1つずつ寮の入っている宿泊棟がある。魔法学院の教職員も同様に2つに振り分けられている。


 普通、教師は貴族なので、貴族エリアに宿泊している。一方、職員と普通の教師は平民エリアに宿泊している。職員というのは、食堂や魔法学院内の商店や掃除など、様々な雑用を処理している。職員に貴族はいない。貴族が雑用をすることはないので、これは当然だ。


 そして、貴族エリアが近衛兵に守られているのと同じように、魔法学院の中にも門があり、そこは近衛兵によって、守られている。それによって、平民が簡単に貴族エリアに侵入できないようにしている。私達と職員は同じ平民エリアで生活しているので、すぐに仲良くなった。


 食堂は、バイキング形式で、好きな物をいくらでも食べることができる。でも、種類が少ない。味はまずまずだ。


 寮の部屋は一人に1部屋ずつ与えられている。これは、特別枠で入学した私達も同じだ。


 「コン、コン。キリ、もう寝たの?」


 「はい。ちょっと待ってね。

 どうぞ、キリ姉。入って。」


 「一人一部屋あるのはいいけど、寝るときは少し寂しいね。」


 「キリ姉は、本当に一人だから。私はパープルがいるので、大丈夫よ。」


 パープルが呼ばれたと思って、私の腕に絡みついてきた。思わず、頭を撫でてあげた。パープルの尻尾はモフモフなので、すぐに触りたくなる。


 「食堂の食べ物は、どう?気に入っている?」


 「いっぱい食べれるので、パープルは喜んでいるよ。でも、私は飽きてきたかな。」


 「そうね。量は多く、味もそこそこだけど、いつも同じような料理だから飽きてくるよね。」


 「スープだけだね。毎日、変わるのは。」


 「たまには街で何か食べたいね。」


 「キリ姉、今度の土曜日は何か予定ある?」


 「特にないよ。街に行こうか?」


 「はい、行きたい。」


 「それじゃあ、予定入れとくね。」


 「早く土曜日にならないかなぁ。今から、楽しみで、今日は寝れそうにないよ。」


 「まだ、今日は水曜日だよ。キリは、気が早いね。でも、私も楽しみ。」


 魔法学院の授業は、実習が中心で、講義はわずかだった。新入生に対しては、文字の読み書きや計算の授業が中心で、貴族といえども、読み書きすらできない者が多いということが分かった。


 「キリ、これはどう読むの?」


と、エルフのエルミアが尋ねてくる。私は、時々エルミアに読み書きを教えている。そのせいで、すっかり仲良しになった。


 「これはね。〇〇だよ。」


 「そうか。〇〇かぁ。じゃぁ、これは?」


 エルミアは、見た目は若いけど、本当の歳はよくわからない。いつも歳のことになると、はぐらかされた。もう一人の同級生のクルドは、いつも怒っているような表情で、迂闊に話しかけれない。パープルも、用心して、近づかない。でも、いつも勉強していて、頑張り屋さんだ。それは、評価しないとね。


 魔法学院の授業は、月曜日・火曜日・金曜日が実習・演習の日で、木曜日だけが講義だった。そして、教師による実習・演習は、午前中だけで、午後からは各自の自主的な活動に任されていた。

 私達は木曜日の講義は、事前テストに合格したので、授業は免除されている。エルミアは、だめだった。


 魔法学院への入学の目的は、魔法の基礎をしっかりと勉強するためだったので、キリ姉と一緒に授業のない水曜日と木曜日は、図書館で勉強をすることにした。


 「キリ、凄い数の本だね。私は、本を見るのが初めてよ。」


 「そうなの。魔法の本があればいいね。」


 私は、前世での経験を隠して、キリ姉に話を合わせた。


 初級魔法の本や中級魔法の本があったので、少し読んでみたが、あまり役に立たなかった。


色々な魔法の詠唱の文言が載っているだけで解説らしきものは皆無だった。


 「キリ姉、魔法の本には詠唱の事しかないね。」


 「そうね。私やキリは詠唱しないから、何か変な感じね。」


 「そういえば、皆詠唱しているよ。すごく短い子もいるけど、詠唱していない子はいないね。」


 「私達も小さな声で詠唱していると思っているのかな?」


 「そうかも。実習の時は、少しゆっくり魔法を放った方がいいかもね。特にキリは、注意した方がいいね。」


 「はい、わかった。」


 魔法陣の本は、古いものしか見当たらなかった。どうも、最近は魔法陣を扱える魔術師がほとんどいないようだ。そのため、新しい本が出来ないらしい。仕方がないので、古い埃まみれの本を取り出して、読んでみた。読むと言っても、文字で解説しているわけではなく、魔法陣の図が描かれており、その横に申し訳程度に機能・作用について書かれているだけであった。それでも、私にとっては初めての魔法陣であり、新鮮だった。


 本を借りだすことができないので、特徴的な魔法陣と機能を羊皮紙に書き写していった。


 その中に転移魔法の魔法陣があった。色々と便利そうなので、一度、使ってみよう。


 「お早う!キリ、起きてる?」


 「はい、起きてるよ。」


 「それじゃ、行こうか。」


 今日は、土曜日。キリ姉と一緒に街に出かける。魔法学院に入学して、毎日バタバタして落ち着かなかったが、最近、生活のリズムが安定してきた。少し、気持ちの上で余裕が出来てきた。


 「キリ姉、何処へ行く?」


 「キリは、何処へ行きたい?」


 「取り敢えず、何か美味しいものを食べたいな。パープルもそうでしょ。」


 「ウン、ウン。」


と、パープルも頷いている。


 「そうね、何か、甘いものでもたべようか。」


 「はい。任せます。」


 キリ姉を先頭に3人は、街の食べ物店が集まっている通りにやってきた。


 「ここが、最近はやっている所よ。ふんわりした、あまいパンケーキが食べれるよ。」


 「へぇ、そんなものがあるの。私は、このフルーツをトッピングしたものがいい。」


 「ウン、ウン。」


と、パープルも頷いている。どうも、同じものが欲しいようだ。


 「それじゃ、3人分頼むね。」


 「すみません。このフルーツをトッピングしたパンケーキを3人分、お願いいたします。」


と、キリ姉が店員に注文した。


 「はい。分かりました。飲み物はどうしますか?」


 「そうね。私は紅茶がいいけど、キリはどうする?」


 「私も同じでいいよ。でも、パープルは、熱いものはだめだから、冷やしてもらって。」


 「わかりました。紅茶が3人分で、そのうち1つを冷やしてくるのですね。」


 「「お願いいたします。」」


 暫くすると、3人分のパンケーキと紅茶が運ばれてきた。3人は、久しぶりの甘味に舌鼓を打って、楽しいひと時を過ごした。


 「キリ姉、せっかくだから、アンティークを置いている商店を見て回ってもいい?」


 「構わないわよ。時間もあるし、ゆっくり、見て回りましょ。」


 3人は、商店街を気の向くまま覗いていった。何軒か見て回っているとき、急にパープルが吠え出した。


 「ウゥー、ウゥー。」


 「パープル、どうしたの?」


 「キリ、パープルは、どうしての?」


 「私にもよくわからないの。急に唸りだしたの。」


と言いながら、店をよく見てみると、以前に立ち寄った商店だった。キリ姉と別れて、アンティークを探していた時にパープルと一緒に入って店だ。


 「思い出した。以前、キリ姉と別れてから、入った店よ。」


 「その時、何かあったの?」


 「うーん、よく覚えていない。パープルが怖がっていたので、すぐに店を出ただけよ。」


 「パープルって、結構強い魔獣だよ。それが、怖がっていたって?」


 「そう、そう。アンティークを店員に見せて貰っていたときよ。」


 「なぜ怖がったのか。調べてみましょ。キリ、入るわよ。」


 「はい。」


 3人は、キリ姉を先頭にして、店に入っていった。


 「すみません。」


 「はい。何かお探しですか?」


 「以前にも、来たことがあるのですが、覚えていますか?」


と、私は、店員に聞いてみた。


 「ええ、覚えていますよ。何か、用途不明な物を探しているとか、言われていましたね。」


 「そうです。その時に案内にして貰った棚に、連れて行ってもらえますか?」


 「わかりました。こちらへどうぞ。」


 私達3人は、店員の後について、古ぼけた商品が並ぶ棚の前まで、行った。


 「こちらです。」


 「少し、見てもいいですか?」


 「はい、いいですよ。古いものが多くて、壊れやすいので、取り扱いには注意して下さい。」


 「はい、わかりました。」


と、キリ姉が答えてから、棚の前に行った。

 すると、パープルが急に私の後ろで、震えだした。


 「キリ姉、パープルが怯えてるよ。」


 「キリ、スキル使える?」


とキリ姉が私の耳元で囁いた。


 「うん。やってみる。」


 私は、古い商品が並べられている棚を、少し離れた場所からスキル鑑定で、調べ始めた。


 すると、棚の中に光るアイテムがあった。私は、キリ姉にそのアイテムを教えた。


 キリ姉は、そのアイテムに近づき、両手で持ち、眺めている。特に、何事も起こらないけど、相変わらず、パープルが震えている。


 私も、もう一度、スキル鑑定で感知してみる。でも、何も、表示されない。


 「キリ、光魔法を使って、解呪魔法をかけてみない。」


と、キリ姉が小声で言ってきた。


 「はい、やってみます。」


 「店員の注意をそらすから、その間にやってね。」


と言いながら、キリ姉は、店員に声を掛けて、別の商品の説明を求めていた。


 店員が、こちらを見ていないことを確認してから、キリ姉の言うように、呪縛を解くイメージで、光魔法を古びたアイテムに掛けてみた。


 特に、何も変化がなかった。私は、キリ姉の近くへ行って、小声で、


 「何も変化がないよ。」


と、伝えた。


 「そう。店員さん、私がさっき持っていたアイテムは、いくらするの?」


 「ああ、あれですか。古くて、飾りにもならないので、いくらでもいいですよ。」


 「どれじゃ、金貨1枚でどうかしら?」


 「ええ、構いません。」


 「それじゃ、頂くわ。」


 キリ姉は、そのよくわからないアイテムを包んでもらってから、アイテムボックスに入れた。


 「キリ、他に見たいものはない?」


 「特にありません。」


 「それじゃ、帰ろうか。」


 「はい。」


 3人は、寮に帰った。寮の部屋に入ると、


 「キリ姉、もう一度、先ほどのアイテムを見せて。」


 「これね。」


 キリ姉は、アイテムボックスから、古ぼけたアイテムを出し、包みから中身を取り出し、机の上に置いた。


 「もう一度、調べるね。」


 私は、もう一度、スキル鑑定を実行してみた。すると、ぼんやりと、何か表示された。でも、何が表示されたか、よくわからない。


 「だめね。何か、わからないわ。」


 「もう一度、解呪魔法をかけてみたらどうかしら?」


 「ひょっとしたら、かなり強い呪縛魔法が懸けられているのかも。やってみます。」


 先ほどより、多くのマナを使って、解呪魔法をかけて見た。そして、その状態を暫く持続することにした。すると、古ぼけたアイテムから、黒い靄のようなものが出てきた。そして、それがアイテム全体を覆い、もう、直接はアイテムが見えないぐらいになった。しばらくすると、今度は、淡い青色の光が黒い靄の間から漏れてきた。そして、それが、大きくなり、黒い靄のようなものが消えていった。


 黒い靄のようなものが消え去ったのを確認してから、スキル鑑定を行った。すると、今度は表示された内容がはっきりと読み取ることができた。

 

 【魔導書

   等級:Ex

   種類:闇魔法 

   機能:想像した5つの魔法を扱えるようになる。

      ただし、5つの魔法を実現すると消去される。】


 私は、表示された内容をキリ姉に伝えた。

 キリ姉は、驚いて、飛び上がった。


 「なんと、闇魔法。」


 「だから、パープルが怖がっていたのね。」


 私は、怯えていたパープルの頭を撫でて、安心させてあげた。

 「キリ、どうするの?」


 「取り敢えず、キリ姉の王級のアイテムボックスに入れて貰える。」


 「いいわよ。」


 キリ姉は、私から魔導書を預かると、王級のアイテムボックスに入れた。


 「キリ姉、魔法学院の図書館で、闇魔法について、調べてみるわ。」


 「そうね、すぐに対処しなくても大丈夫だから、しっかり調べて、決めようね。」


 「はい、そうします。」


 暫くして、私は特殊な闇魔法として、「魂の複製」「魂の刻印」「空間圧縮魔法」「時間遅延魔法」「魔法の魔法陣化」を考えた。


 「キリ姉、やっと考えがまとまったから、魔導書を貸して。」


 「はい、これよ。」


と、キリ姉がアイテムボックスから魔導書を取り出して、私に渡してくれた。


 私は、魔導書を手に持ちながら、「魂の複製」「魂の刻印」「空間圧縮魔法」「時間遅延魔法」「魔法の魔法陣化」を1つずつ順番にイメージしていった。


 すると、魔導書が消えてなくなってしまった。


 実技演習の時間も、興味のあるものはなく、初級・中級の魔法を教師の手本を真似ながら実行するだけだ。特に新しい魔法もないので、退屈していた。でも、黒魔導士グレン先生の創作魔術はちょっと興味を持った。


 黒魔導士グレン先生によると、魔法陣については次のように考察できるらしい。ちょっと私なりにまとめた。


 『魔法陣は、【2つの同心円】と【円の中心の五芒星】と【円と円の間の文字・記号】に分かれている。ここで、2つの同心円は全体の形式を整えるためのもので、フレームのようなもので、魔法自体の機能・性能には影響を与えない。


 五芒星は、それぞれの頂点に火・水・風・土の属性の記号を付ける。それにより、魔法の属性が定まる。真上の頂点は、【空】つまり外界との接点で、ここからマナが形となって現れる。残りの頂点を左から、時計の逆順に1から4までの番号をつける。1が風、2が火、3が水、4が土となる。最後に真上の頂点【空】を5と考える。


 五芒星は、電気回路と見做すと2・3は直接5に接続するが、1・4は、2・3を経由しないと5に達しない。つまり、火・水の魔法はダイレクトに放出することができるが、風・土の魔法は、一旦火・水で蓄えられてから放出される。つまり、ワンテンポ遅れて放出されるということだ。


 また、五芒星を回路と見做せば、各頂点に五芒星を更に埋め込むことが可能である。つまり、五芒星の各頂点に円を描き、その中に五芒星を描くということだ。これにより、複雑な魔法陣を描くことができる。そして、同心円がフレームだと考えれば、円自体が不要となる。更にこの考えを進めると五芒星自体が不要となる。


 つまり、直接4つの属性の記号を小さな円の中に描き、それを一つの単位として、順番に接続させていけば、全体の回路のようなものができあがる。そして、それぞれの線に補助的な文字・記号で細かな制御を行うことができる。


 これで、魔法陣の分解・再合成が完成する。後は、どのように接続させていくのか、つまり、回路図が完成すればよい。』


 自作の魔法陣について、考え方の基礎ができたので、後は実際に作成し、動作させ、検証していけばよい。そして、一つの回路が完成すれば、それをパーツとして、新たな回路を作ることが容易になる。つまり、シンプルな魔法陣を沢山つくり、検証済みのものをデータベースとすれば、それを用いるとより高度な物が容易に作成できるようになる。


 そして、私の利点は、スキル鑑定が回路図に対して有効だということだ。これにより、魔法陣のデータベース化がスピードアップできる。つまり、実際に動作させなくても、検証ができるということだ。そして、特殊な魔導書によって、使える魔法を魔法陣にすることが出来る。


  今日は、私は、ちょっと変わった実験にチャレンジするつもりだ。


 魔法陣は、マナを流す回路だということは、ほぼ、間違いがない。でも、この回路は中学生レベルだ。つまり、流れるマナに対して、複雑な制御ができない。五芒星などの図形の線は、すべて、マナが流れていく、つまり、電気回路の銅線と同じだ。


 そこで、前世での私の道具、コンピュータのような機械を電流の代わりに、マナを使って構築してみようと思う。


 まず、半導体を作る必要がある。これが、できないのなら、私の夢は夢のままだ。


 半導体に必要な材料は、絶縁体だ。これは、光魔法で作れる。つまり、バリアを物体化すればいいだけだ。バリアを境にマナは遮断される。つまり、マナにとっての絶縁体となる。


 つぎに、これを半導体に変化させる。一定の条件の下で、マナが流れるようにするということだ。


 マナをよく流すものは、何だろうか?


 それは、オリハルコンやアダマンタイトになる。今回は、オリハルコンを使うことにする。


 オリハルコンを材料に、光魔法で、物質化したバリアをつくる。これが、マナを流したり、遮断したりできれば半導体の完成だ。この物質を半導体のシリコンにちなんで、マシリコンと名付ける。マシリコンの厚みが大きいと、マナを通すようになるまでに必要な外部の力が多く必要になる。そこで、少ない外部の力でマナを通しやすくなるように、厚みを薄くした。


 そとからの力はどのようにして実現したらいいのか。


 半導体であれば、電圧をかける。電圧は、電気が溜まったものと考えてもいい。そうすると、マナを貯めることができれば、電圧のような働きをさせることができる。


 光魔法で作ったマシリコンは、一方方向にしかマナを流さないことが分かった。


 「今日は、ここまでにしておこうっと。少し、見通しが出来た。」


 「キリ、ワラッテル。」


 「そうよ。嬉しいからね。」


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