0.プロローグ
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
「ねぇ! 大丈夫? しっかりして!」
誰かが、私の肩を揺すりながら、大きな声で話しかけてくる。
「うぅ…………」
私は声にならない呻き声で答えた。
………
気が付くと、私は、こじんまりとした部屋のベッドの上にいた。天井には五芒星が描かれており、各頂点には小さな明かりが点滅していた。それぞれの頂点には、異なる色の明かりが点滅していたが、赤色だけがヤケに大きな感じだった。
「気が付いた? 3日も寝たきりだったので、心配したよ。すぐには食事はできないだろうから、白湯を持って来たよ」
と言いながら、コップの白湯を少しずつ飲ませてくれた。
「私は冒険者のキリ。あなたは、この町トレドの路地で倒れていたの。
それで、私の部屋まで運んできたよ。
神殿に連れて行っても良かったのだけど、大した手当もしてもらえないだろうから」
「はい。ありがとう」
まだ、記憶が曖昧な私は、かろうじて感謝の言葉を口にできた。
キリはまだ若く小柄なので、まるで、自分の孫のような感じだ。介抱されながら、少しずつ頭がすっきりしてきた。
転生前の私は公立高校の情報の教師で、もうすぐ定年を迎える初老の男性だった。一人暮らしで、両親にも先立たれ、親戚・兄弟もいない、天涯孤独だった。そんな私が突然現れた光る五芒星に吸い込まれ、この世界に召喚された。
召喚された先は、どこかの国の神殿だった。私を取り囲んだ神官たちは、勇者を召喚するつもりが、こんな初老の男性を召喚したミスを嘆き、王族・貴族の前で、私を他の国に転生した。
しかし、またもや、神官たちはミスをした。他の国にそのままの姿で、前世の記憶だけを消して転生するつもりが、前世の記憶はそのままに、他の国の路地裏に倒れていた幼い少女に転生させてしまった。
その少女は、暴漢者たちに襲われたため、精神を壊されていた。私が転生されなければ、脳死のような状態だった。だから、転生された私は、少女の生前の記憶はない。
「あなたのことを教えてくれる?」
「キリ、私は以前の名前は使いたくない。新しい名前をキリに着けてもらいた」
と切り出した。私が神官たちに召喚されたことを隠したかった。また、前世での生活も、なんだか思い出したくなかった。すると、
「いいよ。じゃあ、私と同じキリではどうかしら?」
「いいのですか? 迷惑ではなかったら、使わせて貰います」
「いいよ。私が、年上なので、お姉さんね。あなたは、妹ということでいいかしら」
「えっ、私の方が年下ですか? どうして、妹なのですか?」
「私の妹では厭かしら。ちょっと、この手鏡を見て!」
「あっ、本当ですね。私の方が若い。以前の記憶が曖昧で、変なことを言ってしまったみたいです」
と、思わず胡麻化して、私は妹になることを了承した。今の私は中1ぐらいの年齢だった。
「今後とも、よろしくお願いします」
「もう、あなたは私の妹なのだから、そんなに改まった言い方はしなくてもいいよ」
「はい、お姉さん。よろしく」