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10日目

私は迷っていた。陽さんはきっとお人好しで私のことを慰めようと、抱きしめてくれたり優しい言葉をかけてくれるんだ。

でも、なんで人質の私に優しくしてくれるのか。

もちろん過去の経験から私に同情した部分もあるんだろう。

好きって言わなければまた違ったのかな。



昨日の出来事を私は忘れられるはずもなく、朝になってしまった。

「おはよう」

陽さんはいつも通り私に話しかけてきて、フッと笑った。

「おはようございます」

だから私もいつも通り返す。でもどこか迷いが混じるように。

「今日は何聞くんだ?っていうかそんなに聞くことあるか?」

「あ、ありますよ」

本当は思いついていなかった。普通のことは。

一つだけあったけど、こんなこと聞いたら私のこの生活が壊れるかもしれない。

もう優しくしてくれないかもしれない。好きってなんだっけ。

「好きってなんだと思いますか」

私は考えていたことを無意識に口にしていた。もうわからない。この10日楽しくて嬉しくて離れ難いのに、こんなに苦しい。苦しい。

「て、哲学か何かか?」

陽さんは戸惑ったように悩んだ。

「自分の気持ちが分からない瞬間ってありませんか。分からないことが分からないみたいな」

何を言っているのか分からないけど、日本語はこれしか思いつかなかった。

「あ、あるけどよ、お前の悩みはそういうことじゃないんじゃないか?」

「え?」

余計分からなくなった。

「お前が聞きたいことはそういう哲学的なことをじゃなくて、きっと核心的なことに蓋をするために俺に変なことを話しているんじゃないのか?」

「え…」

虚を衝かれた気がした。その証拠に心臓の中からグサッという音がした。

「お前が何に悩んでいるか分からないが、お前が悩んだり泣いたりするのを見ると…俺が参る…だから、その…話すことで解決されずとも楽にはなるかもしれない」

「…」

歯を食いしばった。私は泣きそうになっていた。自分が考えていること、考えすぎていること、それらに押しつぶされそうになっていた。

恋をした。愛した。恋されたい。愛されたい。

「私は誰かに愛されたかった…のかもしれません」

あなたに。でも無理かもしれない、なのにどんどん薪はくべられる。燃え上がる。もう消火できないほどに。

また自分の言いたいことに蓋をした。

「家族は普通だし、なんの変哲もないけど生きててよかったって思ってます。でも…」

愛されたかった。他でもないあなたに。

「友達が欲しかった…」

違う。違うのに。自分の口は嘘が上手になってしまった。そういうことが言いたいんじゃない。

「そうか…」

陽さんはしばらく黙った。頭をかいた。

「じゃ、じゃあ俺が友達になってやるよ…仮でな」

「友達…?」

「言っておくが人質には変わりないからな、仮だぞ」

「あ、ありがとうございます…」

関係性の階段を一段登ったのか、降りたのか。

「それと、仮だが友達だ。敬語はなしな」

「分かり、分かった」

陽さんは満足げに目を細めて笑った。

「友達なんだから、悩み事とか気軽に話せばいいし、もっと自分の気持ちをさらけ出していい。いいな?」

「は、うん。ありがとう」

私はぎこちなくタメ口を使った。ある意味では一歩陽さんに近づけたのかもしれない。

そう思ったらスッとさっきの悩みは消え、少しだけ晴れた気がする。

「じゃ、じゃあ聞くけど、友達ってハグしたりするもんなの?」

あ。軽くなったら口が滑りやすくなってしまった。

「え、え?い、いやするんじゃないか?俺もあんまりその辺は詳しくない…多分…」

なんでか陽さんの顔をみるみる紅潮していき、辿々しく目をそらした。らしくないなと思った。

「ご、ごめん。変なこと聞いちゃった…友達ってこういうんじゃなかったか…」

よかった。こっちも悩んでいたが違うことを口にしなくて。小さくため息をつく。

「い、いやいい。少しずつ慣れようか…」

「そう、だね」

私がタメ口になっただけで、前より関係がぎこちなくなったようなそんな感じがした。でも友達になりたてってきっとこういう慣れない感じから仲良くなっていくんだろう。

頑張ろう。関係の名前が前進しただけでもいい事だ。

そして各々寝転がり、寝た。

高揚感を頑張って抑えながら。

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