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たらこのホラー小説作品集

イケメンの幽霊が耳元で「好きだ」とささやき続けるけど単純にウザい

掲載日:2022/08/14

 不動産屋から紹介された訳ありワンルーム。


 最寄り駅から徒歩五分。

 都内へのアクセスもよく、治安も悪くない。

 近隣の商業施設も充実していて、よい雰囲気の街だ。


 ユニットバスで手狭なキッチン。

 ロフト付きだが居住スペースはあまり広くない。

 でも、防音設備はしっかりとしていて、セキュリティは万全。


 この条件にも関わらず、家賃はなんと1万5千円。

 理由はもうお分かりだろう。


 事故物件なのだ。


 前の入居者が室内で自殺。

 腐乱死体として発見された。


 当然、人が住めるように工事をしたわけだけども、それでも事故物件であることには変わりなく。

 不動産屋からは繰り返し説明された。


『正直、あまりお勧めはできないですね』


 案内してくれた中年の男性が、苦い顔をして言ったのを覚えている。


 部屋にはお札ではなく大量の芳香剤が置いてあった。

 定期的に換気をしても、匂いが取れないのだとか。


 確かに最初は匂いに違和感があったが、住んでるうちに気にならなくなるだろうと思って契約。

 住めば都とはよく言ったもので、私の新生活はこの物件のお陰で順調な滑り出しで幕を開けた。



 と――思っていたのだけど。



 ある時から、少しずつ。

 部屋の中に別の存在がいることに気づき始めた。


 真夜中に窓が勝手に開く。

 エアコンがひとりでに起動。

 スマホの画面に謎の指紋。


 最初は「ついにきたか」と身構えていたのだが、特に実害はないので放っておいた。ただひたすらにウザかったけど。


 謎の存在の行動は次第にエスカレート。


 私がPCに向かって作業をしていると、ぼそぼそと耳元でささやく声が聞こえる。

 最初は何を言っているか分からなかったのだけれど、次第に耳が慣れて聞き取れるようになった。



「好きだ」



 部屋に潜む謎の存在はそう言っている。


 謎の存在から向けられた突然の好意。

 恐怖よりも困惑感が勝る。


 しかし、どうしようもないので放っておいた。

 だって私まだ生きてるし。


 彼からのアプローチは続く。


 風呂上がりに鏡を見ると、ハートマークが書かれていた。

 シンクにたまった水滴でもハートマーク。

 窓の結露にもハートマーク。



 ……ワンパターンすぎるだろ。



 スマホのファイルには見知らぬイケメン男性の写真。

 最近の幽霊はハッキングもできるらしい。

 おまけに私の写真とコラージュしてツーショットに改変までしていた。


 勝手にSNSにアップロードされたら困るので、見つけ次第、削除、削除。


 一方的に思いを募らせたくせに、私が全くなびかないと知ると、今度は泣き落としにかかる。

 PCで仕事用のファイルを開くと『相手をしてくれないのなら死んでやる』といかにもメンヘラなメッセージが挿入されていたのだ。


「お前、もう死んでんだよ」


 冷たく独り言をつぶやいてみると「それでもやっぱり好き」と耳元でボソリ。

 いい加減にしてほしい。


 ここだけの話、私はケモナーである。


 人間の男性には魅力を感じない。

 ケモノ感が無いとどうしても性的に興奮できないのだ。


 ケモナーと言っても、ケモミミが付いてるだけじゃだめだぞ。

 身体の半分以上がケモノ的な体毛に覆われ、骨格や顔もケモノに近いタイプじゃないとイヤだ。


 ぱっと見が人間判定なのは守備範囲外。

 私にとってイケメンなのはケモノフェイスに限るのだ。


 謎の存在も私の趣味嗜好を察したようで、少しずつアプローチが減っていった。

 どんなに求愛しても振り向いてもらえないと理解したのだろう。


 残念だが、相手が悪かったな。

 普通の人間には興味がないのだよ。


 そんなこんなで数か月。

 日に日に謎の存在からの接触は減り、ついには完全に消え去ってしまった。

 これで穏やかな日常が満喫できると思っていたら、突然の来訪者が現れる。



 ぴんぽーん。



 チャイムの音。


 ア〇ゾンもウー〇ーも頼んでいないので、一体誰だろうと思い扉を開く。

 するとそこには……。



「君のためにこの身体を手に入れたんだ。

 僕のことを愛してくれるかな?」



 彼がいた。

 あれだけしつこくスマホにデータを強制挿入されていたので、顔は完全に記憶している。

 見間違うはずもない。


 童顔の彼はウルウルとした瞳で、私を見上げている。

 嬉しそうにしっぽを振りながら。


 そう……彼が手に入れたのは犬の胴体(トイプードル

 人間の顔が犬にくっついている。


 ケモナーの私を振り向かせようと、苦労して身体を乗っ取ったらしい。


 でもね……。



「逆だ逆うううううううううううううううううううう!」



 私が欲しかったのはケモノ顔の獣人。

 胴体はある程度人に近くてもいいけど、顔はケモノじゃないとダメなんだよ!


「その身体、とっとと飼い主の元へ返して来いボケェ!」

「きゃいん! きゃいん!」


 私が怒鳴りつけると、イケ面犬は逃げ帰って行った。


 奴が憑依を解除すればトイプも元の姿に戻れるはず。

 飼い主に見つけてもらえるだろう。




 こうして、短いようで長かった謎の存在(死んでも幽霊とは言わない)との共同生活は終わりを告げた。

 彼が無事に成仏することを願うばかりである。


 しかし……頭を挿げ替えるのが可能なら、逆パターンも可能ってことだよな?


 思いついてからというもの、私は動物の地縛霊を探し求めて、休日には『いわくつき』の土地へ遠征するようになった。

 動物の幽霊を人間に憑依させれば、私の理想の男性を顕現させることができるのだ。


 ああ……あと、人間の身体も用意しておかないと。


 できるだけ若いのが良い。

 顔はどうでもいい。


 そう――顔はどうでもいいのだ。



















 インターホンは誰が押したのだろう?


 トイプードルがどんなに頑張って飛び跳ねても届かない高さだと思う。

 棒とかも落ちてなかったし、道具を使った形跡はない。


 もしかして飼い主が代わりに押したのだろうか?

 それとも別の誰かが――


 正体不明の協力者は今も身近に潜んでいる。


 そう思うと、少しだけ怖くなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「誰もいないはずなのに音が鳴る」は怪談あるあるなので、きっと幽霊パワーでどうにかインターホンを鳴らしたのでしょう(震え声)
[良い点] ケモナーじゃしょうがない。 人選を間違えたね。このイケメン幽霊は。
[良い点] 主人公は危険な考えに及び終わると思いきや、 さらにラストのオチが待っていましたね。 先が読めず面白かったです。
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