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その零
少年は、逃げる。
後ろから鈴の音をチリンチリンと鳴らして、少年の後を追いかけてくる。少年は先が見えない廊下を必死に走っても鈴の音が遠ざかることは無い。
『廊下を走ってはいけないよ』
『首なし先生に怒られちゃうよ』
日が沈み、誰もいないはずの放課後の学園。
逃げ続ける少年に対して話しかけてくる声は脳に響くように囁いてくる。だが少年は語りかけてくる言葉に耳を傾ける余裕は無かった。
チリン、チリン。
鈴の音は、徐々に近づいてきていた。
だけど、何処から鳴っている?
少年の背後から、いや、もう直ぐ近くで鳴っているのか?少年は恐怖で振り向けない。
少年はただ、終わりの見えない廊下を走るしかなかった。救いを求めて、「職員室」の扉を開けた。
『陽太くん、みーつけた。』
複数の男女の重なりあったような声に、少年の目の前は真っ暗になった。