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 私の名前はリリア。ファミリーネームは分からない。

母は下級地区に住んでいたが、容姿は上流地区にいる女性に負けず劣らず美しかった。

私の顔はそんな母に似た綺麗なもので目の色も母譲りの漆黒だった。父の顔は知らない。

母からは教えてもらえなかったが、母の周りにいた男性達が言うには「有名な遊び人の貴族」ということと私と同じ赤い髪だったということだ。


 母は父に会えないことで私の髪を見ては父の面影を感じていたのだと思う。毎日髪を触ってくる母を嬉しさより恐怖に感じたのは母の目が笑っていないように幼心に感じたからだ。母のことは好きだったが、母の仕事が嫌いだった。毎日のように知らない男と過ごす母を見たくなかったからだ。今ならこの地区で生活する為に必要なことだったと気づけたのに。


 最後に飲んだホットミルクはしばらく飲めなくなった。中に睡眠薬でも入っていたのだろう。滅多に出でこないものだったから嬉しくて何の疑いもなく飲んだことを後悔した。







目が覚めた時には森の中にいた。暗闇の中で木々だけが揺れている。


驚きと絶望が一気に襲い、瞬きをすることを忘れ、息が荒くなる。



「ママ!ママ!」


 声を出すが自分の声も森の中に吸い込まれていく。前に進んでもここがどこかわからない。涙があふれ出し大きな声を出して泣いた。それでも何も答えてくれない。動物でもいるのか奇妙な羽根の音や鳴き声だけが聞こえ、手足の震えが止まらなかった。


 誰もいない。暗闇で何も分からない場所。恐怖で倒れてしまいそうだった。


 時間としてどれくらい経っただろうか。木に背を向け体を丸めて泣いていた。どうすることもできなかったからだ。


「おい、どうした?」


声が聞こえ、顔を上げると大柄の白いひげを生やした男性が大きな斧を担いで声をかけてきた。大きくて怖くて更に泣いてしまう。


「どうした?こんな所で何してるんだ?泣くな大丈夫だから、な?」


その男性は困ってはいたが優しく私に話しかけてくれた。人に会えたことで安心してそこでも泣いて緊張が切れたのか気絶した。







「気がついたか!どうしたどこか痛むか?」


目を覚ますと先ほど見た男性が心配そうな顔をして私を見ている。木のにおいのする家だ。自分の住んでいた家よりもふかふかの布団に寝ていた。木でできた家は暖かく、自分の住んでいた石の家に比べるとすごく落ち着いた。


 「痛くない。」


と一言だけ返せば、男は安堵したようで


 「そうか良かった。」


と大きな目が細くなり口をニッと笑ってくれた。


「ここは?」

「ここは俺の家だ。自分で作った家だからよ、あんまり立派なものじゃねえけどな。お前さんは何でこんな夜に森にいたんだ。」


質問をされ、名前と自分がさっきまでママといたことを話す。


「お前さんのママがなんでそんなことをしたかわかんねえが、下級地区だったらすぐ近くだし送れねえことはないが。」


私の表情をみて言葉を選んでくれている。私は前々から思っていたことがあった。


「たぶんママに捨てられたと思う。」

「…。」


分かっていたのだ。私は母にとって父が帰ってくるかもしれない可能性の為に残された存在。帰ってこないと分かれば娼婦の仕事に子持ちは面倒なものだ。切り捨てるタイミングが今日だっただけである。

男性は私の表情を見て察したのか何も言えなくなり頭を掻いている。男性はきっと裏表のない優しい男性なのだと分かった。


「自己紹介が遅れたな。俺の名前はレオナルド・カーラーだ。お前さんが良ければいたいだけここに居ても良い。ただ、あんまり良い生活じゃないかもしれねえけどな。」


レオナルドはそう言って優しく笑ってくれた。


「いいの?」

「いいさ。一人で暮らすのも二人で暮らすのも変わりはしないさ。なにお前さんにも手伝ってもらうだけさ。」

「手伝う!ありがとう!」


 ベットから飛び出しレオナルドの胸に飛び込んだ。レオナルドも慌てて抱きしめてくれる。嬉しくて大きな声で返事をしてしまった。これがレオナルドとの出会いである。


「俺のことはレオで良い。」と言われたので、レオとたくさん呼んだ。レオは私のことを嫌がらず、色々面倒を見てくれる。

レオは自給自足の生活を送っていたようで、中流地区と下流地区の間にある森の中に家を建てて生活をしていた。この森には野犬が出ると有名で誰も住めないと教えられたので驚いた。それと同時にレオに拾ってもらわなければどうなっていたか考えるだけで身震いがした。


レオの仕事は主に中流地区の家作りのようだ。初めは何もしたことがなかったから野菜の作り方、ご飯の作り方をレオに少しずつ教えてもらった。


この国には魔法が使える。私は使い方が分からなかったがレオは風魔法の使い手のようで、私の髪を見て火の魔法が使えることを指摘し魔法の使い方を教わった。火は生活で欠かせない。ご飯作りだけでなく、湯を沸かしたり便利だそうだ。

 

 しかし、魔法を使おうと火を出すと恐怖が押し寄せて上手く使えなかった。漠然と怖いと思うがそれが何でか最初は分からなかった。

 

魔法は自然に使える奴もいれば自分の中でカギを開けないと使えない奴と様々だから焦らなくていいと私の頭を優しく撫でてくれた。母に触られていた時にない安心出来る優しいものだ。


 生活が長くなるにつれレオに「家に帰らなくていいか?」と聞かれることが増えたが「帰りたくない。」と答えていた。ここの生活は落ち着くのだ。


 母との生活よりレオとの生活の方が自分が「生きている」感じがしたからだ。1日一食しか食べられない生活から味は置いといても3食食べられる生活になった。体系もやせ細ていたが、普通に骨が隠れる程度にはなっていた。


こんなに恵まれた生活を手放してまであの貧しく、恐怖を感じる母のもとに戻りたくなかった。とても薄情な娘である。


 レオと月日を共にし、共に笑い共に泣きながら生きてきた。身体も大きくなり自分の出来ることが増えた頃には14歳になっていた。レオはなんでも焼いて食べる、料理の出来ない人だった為、私が料理担当になるのはごく自然なことだった。

相変わらず火の魔法は自由には使えなかった。生活魔法に使える程度で怖いと思う気持ちは変わらなかったからだ。その代わり、珍しいと言われる、闇の魔法を持っているとレオから知り、闇の魔法は少しずつ使えるようになっていた。

 

 目の色が漆黒だったから闇魔法が使えるとレオに言われたからだ。母は闇の魔法が使えたのかと今更ながら気づく。








中流地区に買い物に行くのも慣れ、レオに買い物を任された。いつものように調味料と肉を買って何を作るか考えながら歩いていた時。


「火だ!」


誰かの大きな声で周りを見渡すと一軒の家が燃えていた。それは赤く猛々しく今にも自分のもとまで覆うように。


その火を見て動けなかった。目は燃え広がる火から目を離せず、逃げろという声が聞こえてもだ。



「ああ。ううああ!」


うめき声が出る。頭に痛さと何かがわき上がる。


火が燃える映像がどこか違う場所と重なった。


今見ている建物ではないこの国にはない建物が密集し見たことのない服を着ている女の人の姿。その人のいる周囲も火で囲まれている。


熱い。苦しい。助けを呼んでも届かない。手を伸ばしても助けられない。


女の人は私の名前を呼んでいる。


「逃げなさい!」と叫んでいた。


あれは母だ。


これはいつの記憶だ。


今ではない。前の記憶だ。


最後に母を助けれられなかった。


そう感じた時に頭に記憶が流れ込んでくる。


家族3人で暮らした家。仕事に行く黒髪の女の人。あれは私だ。

火の中に取り残された、笑い皺のあるふっくらとした女性。最後まで私を心配していた。


私の楽しみのゲームと言われる記憶。似ている。この世界に。


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