7.別々に暮らそう
「というわけで、刺客が来たんだ」
「恐れていたことが……」
その日の夜、侍の話を聞いたミーシャは、あからさまに顔色を変えた。
「大臣側近の魔法使いは恐ろしい男です。次は殺されるかもしれません」
「そんな大げさな」
「どうしよう、いっそご主人様を拉致して王国へ戻る?」
「拉致」
心の声がもれてる。
ミーシャはハッとしたあと、両手を胸の前で組んで俺を見つめた。
「王国では爪を研ぐのに最適な壁と、猫が本当に喜ぶおもちゃ。一日三食の最高級キャットフードと、三時のおやつのちゅ~るが約束されています」
「なにその逆VIP待遇。うれしくないんだけど」
俺がミーシャに拉致される危険性はともかくとして、あの侍……じゃない魔法使いは本当に危ないようだ。
俺がいない間にミーシャが見つかったらと思うと怖いな。
想像しただけですごく怖い。
刺客が犬に弱いということは分かっている。
番犬?
だが賃貸では犬が飼えない。
俺は近所の山田さんがシベリアンハスキーを飼っているのを思いだした。
えらいコワモテだが、猫にも吠えたり襲いかかったりしないフレンドリーな犬だ。コワモテだが。
「そうだ、山田さんにお願いしよう」
「え、その方はハンターですか?」
仕留める気かよ。
「ここから100メートルほど先に住む、元農家のおばあちゃんだ」
「実は凄腕のハンターなんですか?」
「ハンターじゃないけど、犬を飼ってる。動物好きなんだ、猫もきっと喜んで飼ってくれる」
俺の言った意味が分からないのか、ミーシャはきょとんとした。
だって、あんな危ないヤツが狙ってるなら、ミーシャをここに置いておくわけにはいかないからな。
きっと仕事中、心配でなにも手につかなくなる。
「大丈夫、山田さんは良い人だし、ポチも良い犬だから」
俺は、ミーシャと別々に暮らす決心をした。