5.育ってる(いろいろと)
ミーシャが家に来てから1か月が経った。
「うう」
重い。
朝、目を開けると俺の上にミーシャが丸まって寝ている。
ソファーで寝ているはずなのに、さみしくなるのかこうして布団に潜り込んでくるのだ。
じっと寝顔を眺めてみた。
結婚したこともないけど娘がいたらこんな感じなのか。
かわいい。
すごくかわいい。
茶色がかった、ふわふわな黒髪がくすぐったい。
耳の後ろを撫でてやると、うれしそうにノドを鳴らした。
* * *
「見た感じ育ってるのに、その服小さくならないよね」
「変化魔法で大きさ自由自在なんです」
ミーシャの身長は、最初100cmくらいしかない気がしていたが、今や140cmくらいありそうだ。
人間で言うと、小学校高学年くらいか。
今日は休日。
家でだらける俺を邪魔することもなく、相変わらずメイド服で掃除をするミーシャ。かわいい。
「そういえばなんでメイド服なの」
「アラサーで独り身のご主人様にお仕えするにはこの服装が最適と学びました」
「どこで学んだのか聞きたいけど知りたくない」
「他にもご希望の服装があればなんなりとお申し付けください」
「拾ったのが俺で良かったね」
ミーシャは発言が危ない。
すくすくと成長している姿を見ると、余計にそう思う。
とんでもない変態とかが保護しなくて本当に良かった。
なんとなく疲れた気分で、ソファーに転がったままテーブルに手を伸ばす。
雑誌を取り損ねて床に落とした瞬間、チリッとした痛みが走った。
「あ、いてっ」
「ご主人様?」
ミーシャが軽い身のこなしで俺の前にひざをつく。
「指から血が……」
「あー、紙で切っただけ。大丈……」
言い終わらないうちに、ミーシャはがしっと俺の手を掴んだ。
そして信じられないことに、傷口を舐めた。
ザラリとした感触が指から伝わってきて、本気で固まる。
「……ま、待て待て待て待てなにしてんの」
「傷を治そうと」
「いや、舐めちゃダメ。いけません」
「でも治るんです」
「良い子はそういうことしちゃいけません」
急激に上がった体温を気取られてはいけない。
俺はノーマルだ。
幼女にも少女にも興味はない。
手を取り返して、指先を見て驚いた。
「……治った」
「死にかけた人も治せます」
「普通にチートじゃん」
拾った猫は、どうやら治癒魔法も使えたらしい。