4.プレゼントを君に
「おはようございますご主人様、朝ご飯が出来てますよ」
あれから10日。
朝起きたら、猫耳幼女がそこにいる。
ちなみに部屋は俺が見たことがないくらい、片付いていた。
「君、キャッツなんとかの王女なんでしょ」
「はい」
「ご飯作ったりする立場じゃないんじゃないの?」
「ご主人様に喜んでいただくためなら、なんでもしますので」
俺好みの家庭料理を作る技術はどこで身につけたんだろう。
今のところ、猫耳幼女にできないことが見当たらない。
「いかがですか?」
「うまい」
ミーシャは黙って朝ご飯を食べる俺を見て、うれしそうに尻尾をゆらゆらさせている。
「今日のお夕飯は、鶏肉のなめこおろし煮にとろろ昆布のお味噌汁、小松菜の和え物をおつけしますね」
タ○タ食堂かよ。
おかげでこのところ、すこぶる体の調子がいい。
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
笑顔で送り出されることにも慣れた。
正直、ちょっと、いや、かなり癒やされてるかもしれない。
拾ったのは俺だが、世話を焼いてくれるミーシャには感謝してる。
「……なんか、買ってやるかな」
感謝の気持ちを形に表すなら、喜ばれるプレゼントだろう。
早めに仕事を切り上げて、閉店前のペットショップに滑り込んだ。
猫のコーナーに足を向ける。
「猫じゃらし……」
興味をそそられたが、これはプレゼントとは言えないな。
猫用の洋服なんかもあるけど、あいつ人間の姿だし。
猫用のおやつ?
高価なキャットフード?
いや、あいつ普通に人間のもの食えるし。
「うーん……」
迷って迷って。
結局自分が贈りたいものを買って帰った。
「おかえりなさい、ご主人様!」
「ん、ただいま」
笑顔で出迎えてくれる女の子……いや、猫がいるっていいかもしれない。
「ミーシャ、これ」
簡易な紙袋に入ったプレゼントを渡した。
「なんですか?」
「プレゼント。開けてみて」
チリン、と小さな音とともに出てきたのは、赤い首輪。
三毛の毛色に似合いそうだと思ったんだけど。
「……」
あれ? なんか様子が変だ。
「ミーシャ?」
待てよ。
普通に考えて、ただの猫ならともかく見た目9割以上が人型の猫に首輪っておかしくないか?
これがプレゼントってドン引き不可避だよな。
なんかのプレイとか独占欲強い変態じゃない限り、あり得ない品だ。
やっちまった……
「あ、その、な。ミーシャ。嫌なら別に……」
「ご主人様」
「はい」
「つけてください」
ツケテクダサイ。
嫌じゃなかったのか?
俺はミーシャの細い首に、赤いベルトを巻いた。
なんだこれ。犯罪臭がするぞ? 指が震える。
俺はどうしてもっとちゃんとこの状況をシミュレートしてから買わなかったんだ神様ごめんなさい。
首輪をつけ終わったミーシャは、うるんだ大きな瞳で俺を見上げると、笑った。
「ご主人様、とってもとってもうれしいです」
「――そう」
そう、じゃねえだろ俺。