春、雲を流す
あ、と呟いた時には
空はなみなみと青く
広がっていた
三月に吹く風は
薄い薫りだけを残し
ほんの少し
揺らしたスカートが
また真っ直ぐと
その形を取り戻した
だけれど
私は
慣れない速度に
佇むばかりで
春はいつだって
その形を保てずに
早送りの日々に
時折のプリズム
フィルム繋ぎが下手くそな
スライドショーのような
思い出
放っておいて、と
背けた顔に
滲む水彩の時間が
涙の輪郭すら
消し去っていく
随分と簡単に
すまされたさよならと
歩きだすよりも早く
春の名の下
送り出された背中
立ち止まる罪悪感と
ただ純なる反抗と
包んだ雲を
手に
やりきれない
伝えきれない
言葉の代わりに
流しつづけていいだろうか
ひとつ
またひとつと
かなしいくらい澄んだ空へ