少年(しょうねん)のさがしものは
町いちばんの大木の枝をふるわせて、地面にしりもちをついた少年がおりました。お鼻も頬っぺたも真っ赤になってしまうほど寒い、ある冬の朝のことです。
「イテテ……失敗したなあ。こんな木じゃなくて、もっとマトモな場所に降りるんだった」
ジンジンと痛む腰をさすり、少年は憎らしそうに折れてしまった木の枝をみつめました。けっこうな高さから落下しましたが、少年にけがはなかったようです。
それからしばらく辺りをキョロキョロと散策していますと、レンガでできた歩道や建物がだんだんと見えてきました。迷路の森を抜けられてうれしくなった少年は鼻歌しながらはずむように町を駆けていきます。途中、すれちがった大人たちはおどろいてこの少年をふりかえりましたが、夢を見たと思い、そのまま歩いてゆきました。
いろんなひとの背中を追いかけていくうち、今度はおおきなお店が少年の目いっぱいに飛び込んできました。中におもちゃ屋さんや服屋さん、花屋さんに食べ物屋さんもある、二階建てのとてもよくばりなお店屋さんです。
「ここなら、いっぱい役立つ話が聞けるかもしれない! チョットだけ入ってみよう」
そう言うが否や、家族連れの後ろに続いて行ってしまいました。ひとりではなかなか開いてくれない扉もだれかの背中にぴったりついてゆけば楽々通れてしまうのよ、そうアドバイスしてくれたのはさっき森で出会ったノラネコの親子です。教えてくれたことに感謝しながら少年は奥のほうに進んでいきました。
店内は赤や黄、緑でかざりつけられ楽しい音楽と笑う声でたいへんにぎわっておりました。もうすぐクリスマス。店のまんなかではモミの木がどっしりとかまえ、わきにはサンタを描いたこどもたちの絵がたくさん壁にかけてありました。
「あれ、ぼくが描いたんだ。サンタさんだけじゃさびしいからトナカイもいるよ」
「わたしはえんとつにハマったサンタさん描いた」
めいめいに自分の描いた絵を指して得意げなこどもたち。見ていて少年も思わず笑顔になります。
「雪いっぱい降るといいね」
「なあ、積もったらみんなでさ、雪合戦しようぜ」
「クリスマス会でみんな何の出し物するの?」
「オレんとこは合唱。サンタも落っこちるくらいデカい歌声、響かせてみせるぜ」
「ぼくは星の精になってくるくるおどる役。イエス様の劇やるんだ」
(………………みんなサンタさんもクリスマスも大好きなんだ。やっぱりきてみてよかったな)
あちこち話しこんでいるひとたちの横を通っては耳をそばだてますが、本当にクリスマスを心待ちにしているひとばかりで、少年は胸をドキドキさせて店を出ていきました。
大通りを横切り、十字路をつっきり、一本道を走り抜けて。少年は、また、あのおおきな大木の前に立っていました。
「ああ、もういちどこれに乗らなきゃいけない……」
よいしょ、と幹にかじりつき慎重に上を目指して登ってゆきます。
「わっ!」
上にいくほど枝も細く鋭利になって気を緩めると落ちそうになるので、いったい何度ヒヤヒヤしたことか。
登っているといつのまにか森の動物たちが少年を見物しようと木の周りを囲んでいました。
「おーい、おーい!」
それに気づいた少年は片手を振って、勇気づけられたように、またよじ登り始めました。頂上まであとすこしです。
***
「……ふう。やっとついたぞ。迎えはどこにいるんだろう」
大木のてっぺんは、いちばんおおきいだけあって、そこから見る眺めもかくべつです。迎えをさがそうとした少年もついついみほれてしまいました。冬はすぐ日が暮れてしまうので、今目にうつっているこのみかん色した景色も十分と経たずにむらさき色の中に沈んでしまうでしょう。
「――これ、これ。探しまわったぞ、トナカイや。もう気はすんだかの」
ぼーっとしていた少年でしたが、シャンシャンシャン……と鈴の鳴る音が聞こえるとハッとなり声の主を見つけて自慢の赤鼻をピカピカ光らせ喜びました。
「ウンと遠くまで足をのばしたのでちょっとおそくなっちゃいました……でもみんな、クリスマスもおじいさんのことも、とっても大好きだって言ってましたよ。おじいさん、きらわれてなんかいなかったんですよ!」
「そうか、それを知りたくて下界に降りたがったのだね。わしのために、ありがとうよ……」
ソリに飛びうつったトナカイの少年は、おじいさんのニコニコ顔を見ると安心してしっぽをゆらゆら振りました。
だっておじいさんときたら………………! 十二月に入った途端、急に自信を失くしてしょんぼりしていたのです。というのも、ほかの町担当のサンタさんがおじいさんのぽてっとした体をからかっていったからです。おじいさんは悲しくなって、もう今年はプレゼントまわりに行けない、とつぶやいていました。そばで見守っていた少年は、何とかおじいさんを元気づけたい一心でこの日までいっしょうけんめい考えていたのです。
「今日からおまえもいっしょにプレゼントの用意とふくろづめを手伝っておくれ、トナカイ」
「! ……はい、喜んで!」
残り一週間、ひとりと一匹はあわただしく夜の町を駆けまわってクリスマスの準備を終わらせ、今年も無事によいこのみんなのもとにプレゼントを届けられたのでした。
***
クリスマス間近の夜は空を見上げてみましょう。ひょっとすると、準備に大忙しのサンタさんたちを見つけられるかもしれませんよ。
HAPPY CHRISTMAS!