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第十一話

バーブル 主人公 ティムールの末裔 12歳で父の跡を継いでフェルガーナの王になる


カースィム・ベグ バーブルの家臣 カウチンという武家の出 バーブルの家臣でありよき理解者



「本当に大丈夫なのでしょうか、バーブル様……」


小姓のハージーとサンガクは僕にカマルグ式の重鎧を着せつけながら不安そうな面持ちだ

ただでさえまだ不慣れな作業だというのに、気が散ってしまっていては手元もおろそかになりがちだ


「こうなってしまってはこうするより仕方ないし……

敵わなかったら敵わないで逃げ戻ってまた籠城を続ければよい」


僕の方はなんだか変な風に覚悟が決まってしまったような気がする

口にする言葉がまだあやふやなのには自覚はあるが、考えの方は一本筋が通った…… と言ったら言い過ぎかもしれないけれど、目先の困難だけに一喜一憂するのではなく、その先にある何かに目を向けるという選択肢もあるんだということに気付きつつあった


「そんな心配はいいから作業に集中してくれよ

いざ戦場に出て流れ矢でもくらった時に、鎧をつけ損ねていたせいで致命傷になりました。とか洒落にもならんからな」


そう言われてもまだ二人の憂慮は晴れず、ああでもないこうでもないと連ねるばかりだった


「お、やっとりますな。ほほう、一端にみえますぞ」


カースィムがさも面白い物を見たと言いたげな面持ちでやってきた

手には僕の佩刀を持っている


「主君に対して一端とか言うんじゃない

それよりなんでお前が僕の刀を持っているんだ?さっさとよこせ」


先ほどからの鬱憤もあったことで、かなり強い口調になってしまった

だが、なぜだか彼は余計に嬉しそうな顔をして見せ、恭しく僕に刀を差しだした

引っ込みがつかなくなった僕は、ひったくるようにしてそれを手に取り


「ん?なんだかやけに軽くないか、これ。

中身入ってるのか?」


「さすがバーブル様、慧眼でございます。

おっしゃる通りで刃を抜いてありますので。それ。」


相も変わらずとんでもないことを事も無げに言うやつである


「はぁぁぁ!?これから戦場に出るんだぞ!刃の付いてない刀を持ってくやつがどこにいるんだ!

さっさと付け直して…… 付け直す時間なんてないから、代わりの刀を持ってこい!」


「恐れながら申し上げる!この度の戦にて」


言いながら彼はぐぐいと僕の眼前ににじり寄ってくる。圧が鬱陶しい。僕は思わずのけ反る態勢になってしまった


「絶っ対に刀を抜こうとしないで下さい。例え敵に斬りかかられようとも。」


「そんな馬鹿な話があるか!

確かに敵を一刀だに斬り伏せることまでは無理であろうが、相手の矛を弾くことくらいは……」


「無理です。槍携えた武者が馬ごと突っ込んで来るんですよ?

今のバーブル様がそれを弾くだなんて、とてもとても」


彼はなんとも形容しがたい、あえて言うならばとても腹立たしい顔つきをしながら顔の前で手を左右に振った


「半端に刀を抜いたところで、絶対にろくなことにはなりませぬ

そんなことをする暇があるのならば、少しでも遠くに逃げてください

もちろんそのような状況になる前に、我らがお導きするつもりではございますが、何があるのかわからないのが戦場です故」


あり得るのか?こんなことって。

昨日今日君主になったばかりの僕には判断がつかない

しかしそれを言うならこいつだって仕える主君はまだ二人目なのだし、言ってることが正しいだなんて保証はどこにもない


「例え軍が崩れたとしても、御身に何もなければ立て直すことは出来るのです

もし万が一敵の刃が襲い掛かって来るようなことがございましたら、兵も我らも見捨ててよいのでお逃げ下され

それが君主としての務めでありますれば」


これだけはなんとしてでも通そうという強い気迫を感じる

僕はそれに押し負けたわけではないのだけれども、既に口論を続ける気持ちはどこかに消え去っていた


「わかった、そうする。

だがくれぐれもお前の主君にそのような真似をさせるんじゃないぞ。いいな?」


彼は言葉を発せず、ただ拝謁をすると背を翻して部屋から出て行った




音を立てて門が開き、濠に跳ね橋が降ろされる

最後に城外に出たのは半月以上前のことだ。次に出る時は兵を率いてのことだろう。などといった考えは頭になかったはずだ


「出陣は敵正面のミールザー門からではなく、横手にある職人街門からにしてもらいます」


僕は橋を渡りながら先生の言っていた言葉を思い出す


「戦場を広く使われてしまっては我らに勝機はありません

どのみち敵が応じてくるのは間違いないことですので、せめて場所はこちらで決めさせてもらいましょう」


「職人門から城外に出、右手に城壁を見つつ敵を正面から待ち構えます

左手すぐに果樹園が広がるこの地点、敵も一斉にはかかってこられません」


果樹園と用水路と。どうせこの地に詳しい兵も案内人もいくらでもいるのだろうけれど、それでもうかつに右から迂回しようもんなら迷路のように入り組んだ地形に分断されるはずだ。とのこと


「あるいは左翼を広げて進んでくるかもしれませんが、それはこちらとしては好都合

城壁に配した弓兵の斉射を浴びせることが出来ます。やすやすとは前進させません」


先生は城内に残った射手を率いながら僕の行軍を見守っているはずだ

芳しくない状況下で、打てる手は打ったはずだ

後は神に祈って、神を信じて最初の激突を待つしかない


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