5、エピローグ
気絶していたのかどうかわからないまま、留衣は目を覚ました。透明のエレベーターの中のマッサージチェアのような椅子に彼は固定されていた。
トリップが終了した証拠に、彼の両脇に影下と貴流が宇宙から帰還した飛行士をカプセルから出すように控えていた。
影下は手際よく留衣のヘルメットとゴーグルを外し、シートベルトを緩めた。
「お帰り! どうだったかい」
と影下が屈託ない顔つきで尋ねた。
「お前、最後の方でパニクってたぞ」
貴流が案じるようなからかうような調子で言った。
「うん……」
留衣は自分がびっしょり汗をかいているのに気付いた。蒸し暑かったから実際に汗をかいたのだと思ったが、半分は恐怖の冷や汗であることは明らかだった。
「女が射殺したんだろ」
歌詞を逐一覚えている貴流が言った。
「うん……」
留衣は、今はやっとの思いで逃れてきた恐ろしい最後の場面を思い出したくなかった。
恐怖を振り切るように、努めて明るく言った。
「嗅覚、完璧です! 森の匂いや花の匂い、それに、居酒屋の揚げたてのポテトの匂い、最高でした。ただ、味覚は今いちで、ポテトは匂いほど味がしなかったですね」
「ほう。また後でじっくり話を聞かせてもらうよ。今は何か好きなドリンクでも飲んで、一息つくといい」
影下のねぎらうような言葉に、留衣はバーチャルトリップのモニター体験を無事終えたという達成感に包まれた。
ヒット曲の世界へのバーチャルトリップに貢献できたこと、それに高い報酬、すべて上首尾だった。
ただ大きな支障はないが、あの香水、シャネルの5番の香りはこれからずっとトラウマになるのだろうなと、留衣は苦笑した。
(了)