王太子殿下
義兄上がどんどん王宮の奥へ歩いて行く。
「義兄上」
「どうした」
「僕のような者がこんなに王宮の奥まで来て良いのですか」
「私の仕事の手伝いだと説明しなかったか」
「聞いていますが、この奥は重要な場所ではないですか。僕は不相応だと思います」
「大丈夫だ。クロードは私の義弟だし、仕事も書類を運んだり揃えてたりしてもらうつもりだ。今忙しいからそういった雑用をしてもらえると助かるんだ」
「そうなのですね。わかりました。でも…」
「まだ心配か」
「いえ、王太子殿下とお会いするのでしょうか」
「まあ、そうなるな」
「僕、礼儀作法が心配です。父上に聞いてはいますがきちんと出来ないと思います」
「あぁ、なるほどな。まあ細かいことは気にしてないから大丈夫だ」
「はい」
義兄上がまた頭を撫でる。
やっぱり廊下にいる皆さんが驚いている。14歳になっても子供のように頭を撫でられているのは可笑しいんだろう。
騎士が左右に立つ豪華な扉の前に着いた義兄上は騎士に指示して中に入っていく。
「クロード」
呼ばれて僕も騎士の方々にペコリと頭を下げて扉に入った。騎士の方々は微笑んでくれたので入っても怒られないだろう。義兄上もいるしね。
「イーサン殿下、今日から私の手伝いをしてもらう義弟のクロードです」
義兄上が僕を呼ぶ。
「クロードこちらへ来て殿下に挨拶をして」
「はい、義兄上」
義兄上が微笑んでくれたので緊張が少し和らいだ。
腕を胸にあて片膝をつく。
「スロイサーナ男爵嫡男クロードと申します。義兄の「待て待て待て」」
挨拶の途中で殿下がこちらに来て挨拶を止められた。
何かいけなかったのだろうか。
義兄上に確認しようと義兄上を見ると殿下を睨んで?見ていた。
僕の視線に気がついて大丈夫と言うように優しく微笑んで頭を撫でる。
「殿下、どうされました。クロードが気に入らないのですか」
なんだか義兄上の声が低くなっている。
「ち、ちがう」
王太子殿下はもっと威厳があって怖い人かと思っていたけれど何だかあわあわと慌てているのを見ると親近感が湧いてしまう。不敬になるかな。
「クロード、ユリウスの義弟でスロイサーナという事はスージーの弟だね。私はイーサンだ。仕事は王太子だよ」
「えっ」
ここは笑うところなのだろうか
「ハハハ。緊張しなくていいよ。話し方も普通にしてくれればいいから」
イーサン殿下はとても気やすい方だった。
義兄上を見ると頷いてくれたので
「よろしくお願いいたします」
と頭を下げた。
「先程はごめんね。少しユリウスに驚いてしまったんだよ」
殿下が僕に微笑みながら仰っだけれど僕は意味が分からなかったから返事が出来なかった。
殿下の執務室にはマキアリア侯爵嫡男コントラン様もいた。義兄上と一緒に殿下の側近をされている。
義兄上がバスケットを見せて休憩にしようと言うと、コントラン様が侍女さんにお茶を頼んで、殿下とコントラン様、その対面に義兄上と僕が座った。
すぐにお茶が届いた。
「置いて下がるように」
義兄上が言うと侍女さんは部屋から出て行った。部屋には四人だけだ。
「クロード、お茶を入れてくれるか」
「はい。義兄上」
僕は貴族だけれど自分の事は自分でできる。貧乏で使用人が少なかったから必然的に何でも出来るようになった。
その中でも紅茶を入れるのは僕の役目だったので、入れ方の勉強もして中々上手に出来ていると思う。
以前義兄上にも美味しいと言ってもらえたしね。
テーブルにお茶を出しバスケットから野菜を挟んだパンをだして皿に乗せる。アイマリクト伯爵家の侍女さんは義兄上はどれだけ食べると思ったんだろう。10個も入っていた。
「昼食をきちんと食べるのは久しぶりだな」
「いつもは仕事しながら摘む程度だからな」
殿下とコントラン様は嬉しそうにパンを食べている。殿下、それ、3個目ですね。
「クロード、相変わらずお茶が美味しいよ」
義兄上はまた、頭を撫でて褒めてくれる。
「なあ、ユリウス」
「なんですか、殿下」
「お前、クロードに対する態度が普段と違うよなぁ」
「何の事だかわかりませんが」
「いや、お前、クロードに微笑んで頭を撫でているぞ。」
「それが?」
義兄上が殿下から僕の事で何か言われている?
「あの、殿下、恐れながら、義兄上はいつもと変わりません。いつも通りです」
「いつも通り?」
コントラン様が驚いている。
「はい。僕は14歳なのに義兄上に褒められるのが嬉しいので…義兄上は頭を撫でてくれるのです。すみません」
僕は頭を下げた。恥ずかしくて顔が赤くなる。
「これは、ユリウスの気持ちがわかるな」
「いやぁ、構いたくなるよなぁ」
殿下とコントラン様が二人で呟いている。
「クロード、気にするな」
義兄上は言ってくれた。
「良いんですか」
「いいぞ」
「勿論だ」
「このままで」
義兄上、殿下、コントラン様が順番に頭を撫でてくれた。