王都
姉上が婚約して2年過ぎ、結婚式まで後一月になった今日、僕は王都に着いた。
お陰様で『湯治場』は人気がでて人の出入りが多くなった。以前と比べてスロイサーナ領は賑やかで宿屋、商店、飲み屋、土産屋が増えて観光事業が上手くいっている事がわかる。
貧乏男爵領は今では今後発展が期待出来る領とされている。
両親は忙しく姉上の結婚式にも直前までこちらに来られない。
「クロード、先に王都に行って欲しい。お前も春から学園に入るからそのままアイマリクト伯爵家にお世話になれるようお願いしよう」
両親に言われてサントン商会の馬車に同乗して王都にきた。
アイマリクト伯爵家は母上の実家だ。王都の屋敷にはお爺様、お婆様、春から外務大臣になり王都に戻った伯父のアイマリクト伯爵と夫人、そして伯爵家の養女になった姉上が住んでいる。学園はここから通う。
姉上は義兄上に嫁ぐためアイマリクト伯爵家の養女になった。スタイジェイル公爵家へ男爵家から嫁ぐの
では姉上が肩身が狭い思いがするからだそうだ。
貴族の派閥やら思惑があるから大変だ。
姉上は姉上だし、僕は少しの間でもまた一緒に暮らす事が出来て嬉しい。
王都に来て5日経った。伯爵家の皆様も使用人の皆さんもとても良くしてくれる。
姉上は結婚式の準備と公爵夫人の勉強で忙しく、晩餐後に話すぐらいだ。忙しい姉上が僕の為に時間を割いてくれ、申し訳なく思っていたら
「私の良い息抜きになっているのよ」
と。やはり姉上は優しい。
屋敷の中も忙しなく僕が少し暇を持て余して居たら
義兄上がアイマリクト伯爵家を訪れた。
「義兄上、姉上はスタイジェイル公爵家へ行っております」
「知っている。今日はクロードに用事があってな」
「僕ですか」
「今、時間はあるか。晩餐までには戻るつもりだが」
今は昼過ぎだ所だ。先程昼食を食べた。
「はい、大丈夫です」
「そうか、では私の仕事を手伝って貰いたい」
「えっ、僕に出来る事でしたら」
義兄上は王太子殿下の側近だ。僕に手伝える仕事があるのかな。
「よし、直ぐに準備してくれ。馬車を待たしている」
「はい。わかりました。あ、義兄上、食事はされましたか」
「まだだが、いつも食べないから問題ない」
それはダメだ。食事はきちんとしないと。
僕は準備に行く途中侍女さんに馬車の中で食べれるものを頼んで部屋に戻った。
大急ぎで着替えて玄関へ向かう途中侍女さんから野菜の挟んだパンの入ったバスケットを受け取る。
義兄上と馬車に乗り王宮へ向かう。
「義兄上、昼食を作って貰いました。少しでも召し上がってください」
バスケットを義兄上へ差し出す。
「クロード、私の為に作ってくれたのか」
「僕は頼んだだけです」
「良い子だな」
義兄上は僕の頭を撫でる。義兄上は初めて会った時から時々僕の頭を撫でてくれる。もう14歳なのでちょっと恥ずかしいけれど、義兄上に褒められていると思うと嬉しい。
「沢山あるから持っていって皆んなで食べるよ」
義兄上はバスケットを椅子の上に置いた。
窓から外を見ると王宮が見えた。
「義兄上、王宮が見えます。大きいですね」
義兄上はクスクスと笑っている。
「クロードは初めてなのかい」
「はい。義兄上や叔父上もあの中で働いているのですね」
僕は感嘆した。
門に着くと門番と御者が話をしていたと思ったら直ぐに馬車が動き出す。
僕が驚いていると、
「スタイジェイル公爵家の馬車だからね。確認だけで通れるんだよ」
「はあ、凄いですね」
また義兄上に頭を撫でられた。
馬車を降りて王宮に入る。バスケットを持った義兄上の後について廊下を歩いて行く。
美男はバスケットを持っていても絵になるんだなぁなんて思っていたら、義兄上は後ろを振り向いた。
「歩くのが速いか?」
「大丈夫です。義兄上、バスケットを持って頂いてすみません」
「食べるのが楽しみだな」
義兄上は微笑んでまた僕の頭を撫でた。廊下には文官や侍女さんが沢山歩いているので恥ずかしい。俯いてしまった。
「行くぞ」
義兄上が歩き出した。
「はい」
僕が顔を上げたら、廊下にいた人達がこちらを見ていた。驚いたような顔をしている?
やっぱり14歳にもなって頭を撫でられるのは可笑しいんだ。ちょっと顔が赤くなってしまう。
義兄上が進んでいるので急いで追いかけた。
…廊下にいた人々…
「氷の貴公子ユリウス様が笑ったわよ」
「あの男の子の頭を撫でていた」
「歩く速さを気にしていたわよ」
「あの男の子は誰だ」
「ユリウス様に物怖じせずに喋っていたな」
「義兄上って言ってなかったか」
「「「「「あにうえぇぇ」」」」」
廊下が煩かったと苦情があったとか。