一石二鳥
「コントラン、クロードの学園の様子を見てみたくないか」
「無理です」
「即答か」
「当たり前です。仕事が溜まってますよ」
「はあ、学園は楽しそうだよな」
「で・ん・か」
「わ、わかっている」
クロードが学園に行っているのに殿下は無理と分かっている事を言う。
クロードは良い子だ。あの平凡で気遣いの出来るところが仕事で疲れている時に癒されるのはわかる。
だが、こう毎日同じ事ばかり言われると腹が立つ。
自分も学園生活は楽しかった。クロードにも楽しんでもらいたい。
学園の話が聞ければ良いのか。
私がシャーリンに聞く?
ないな。
『そうか』
私は思い付いた案をユリウスとタイロンに相談するため部屋を出た。
昼食時、殿下に午後の予定を告げる。
「本日、夕方にクラリッサ・ハイダミオ公爵令嬢がいらっしゃいます」
「何をしに?」
「婚約者候補として殿下と話を、お茶をするためです」
「急にどうした。婚約者などまだ決めなくて良いだろう」
「何を言っているんですか。何処の令嬢とも会おうとしないで。私達がどれほど宰相や大臣達に苦言されているかわかってますか。お茶だけでもして下さい」
「しかしなぁ」
「ハイダミオ公爵令嬢が今日いらっしゃるのは決定です」
「はぁ。話が合うかなぁ」
「大丈夫です。ハイダミオ公爵令嬢は学園で今日もクロードと昼食を食べているはずですから」
「そうか、クロードの学園の話が聞けるのか」
「そうです」
「わかった。クラリッサ・ハイダミオ公爵令嬢とお茶会をしよう」
『よしっ』
先程、この案を思いついてからユリウス、タイロンの三人で話し合った。
以前から宰相(ユリウスの父)や大臣達(私の父もその一人)から殿下と婚約者候補の令嬢達とのお茶会をする様に言われていた。
殿下はのらりくらりと交わし、なかなか実行されていなかった。
今日の話は宰相や大臣だけで無く陛下にも話がしてある。ハイダミオ公爵家に連絡しなければならないからだ。宰相がハイダミオ公爵家に連絡をしてくれた。クラリッサ嬢は学園の帰りに直接王宮に来る予定だ。
宰相や大臣の苦言も殿下の煩い文句もこれで解決だ。一石二鳥だな。
殿下とクラリッサ嬢は王宮の温室にいる。私は付かず離れずの場所にいるので何を話しているかははっきりわからないが時々笑い声が聞こえるから楽しんでいるのだろう。
クラリッサはハイダミオ公爵家次女。ハイダミオ公爵家は長女キャサリンにタイロンの弟マーカスが婿入りした。以前のハイダミオ公爵は王族との縁戚を望んでいたがキャサリンのマーカスへの想いを知って二人の婚姻を許可した。
クラリッサは姉がマーカスを慕っていたのを知っていた。姉は父に逆らう事なくイーサン殿下との婚約を受け入れようとしていたのを見ていたため、姉の気持ちを思い遣る事も無く自分の願望を押し付ける父とは確執ができていた。
サファイア王女のおかげで姉は義兄マーカスと婚姻出来た。この時父だけでなく母もサファイア王女と話し合いをしたようだ。どんな話し合いがあったかはしらないが、両親の考え方が変わったのは確かだ。
クラリッサがイーサン殿下の婚約者候補と騒がれていても両親は
「正式に連絡がない限りお前の好きなようにして良い」
と言われていた。クラリッサ本人の意思を尊重してくれている。
クラリッサは貴族として政略結婚となっても姉夫婦のようにお互いを想い会える相手を見つけたかった。
「それでは次を楽しみにしている」
「はい。イーサン殿下。私もです」
イーサン殿下とクラリッサ嬢がこちらに歩いてきているが、お二人は次の約束もしたようだ。
殿下が執務室に戻る。
「殿下、如何でしたか」
早速ユリウスが殿下に聞く。
「とても有意義な時間だった。初めはクロードの話をしていたのだが、クラリッサ嬢は福祉に感心があるようで孤児院とか病院の話になったな。時間が足りなく感じた」
「そうですか」
「それで、明後日学園の帰りに王宮に来てもらう事にした」
「「明後日ですか」」
「はやいですね」
ユリウスと声が揃ってしまった。明後日とは。普通はもっと間を開けるだろう。
「今日の話の続きがしたいからね。明後日の夕方は予定がはいってなかったよな」
「はあ。大丈夫ですよ。しかし、こんな事になるとは思いませんでしたよ」
ユリウスも呆れている。
「クラリッサ嬢は他の令嬢と違って推しが強く無い。あの自分を押し付けて来る令嬢は勘弁してほしいからな。もう少し話をしてみたいと思った」
「妹のシャーリンのような令嬢ですね」
「あぁ、まあな。それにクロードの話も聞けるから丁度良いんだ」
その後、イーサンとクラリッサは週に一度合うほど親しくなった。




