義兄上
よろしくお願いします
姉上スージー・スロイサーナの結婚が決まった。相手は宰相を務めるスタイジェイル公爵家嫡男ユリウス様。学園の同級生だ。
僕クロード・スロイサーナは辺境の貧乏男爵家な嫡男。こんな貧乏男爵令嬢の姉上とユリウス様は釣り合わないと周りから散々言われたけれど気持ちは変わらず、特にユリウス様は譲らなかった。
学園3年の夏休暇に、ユリウス様は姉上とスロイサーナ領へ、姉上の家族、両親と僕に会うために訪れた。初めてユリウス様と対面した時僕は一瞬『凄い美人』と思ってしまった。
淡々とした話し方は少し冷たく感じたけれど時々姉上を見て優しく微笑んでいるのを見ると姉上をとても大事に思ってくれているのだとわかった。
僕は姉上が大好きだけれどユリウス様なら姉上を大切にしてくれると思った。
「義兄上と呼んで欲しい」
と言われ
「はい、…義兄上」
と少し大きな声で返事をしたら優しく頭を撫でられ、
「よろしくね」
と、見惚れてしまう微笑みが返ってきた。
顔が赤くなってしまったよ。
我が家に5日滞在した義兄上は剣の稽古や、勉強も見てくれた。小さく見る所も少ないスロイサーナ領の案内もした。
夜、家族で寛いでいると義兄上から提案があった。
『スロイサーナ領に湯治場を作りましょう』
両親も僕も意味がわからず呆けてしまう。
「ユリウス様、言葉が足りません」
姉上が強めに義兄上に言う。
姉上は義兄上にずばずば意見を言う。
公爵家の方にそんな口を…
と、何度も思ったけれど義兄上は姉上が何をしても何を言っても嬉しそうに受け止めているから皆何も言わない。
「ユリウス様は毒舌なのよ」
と母上に言っていたけれどとてもそんなふうには見えない。
姉上も僕も外見も中身も平均的だと思う。
「義兄上の決断に周りの人達は驚いたのでは?」
と聞くと、
「家族も含め、親しくしている者はスージーを勧めていたぐらいだから大丈夫だ。
それに、スージーと婚姻出来なかったら私は生涯独身だろうな。
私は面倒くさい男だから」
との返事。
ベタ惚れですね。
最後はよくわからなかったけれど。
スロイサーナ領に『湯治場』を作る事になった。
義兄上に領内を案内した時、領民が使うお湯の出る泉へ行った。ここは領の少し奥にあるけれど領民の憩いの場だ。
子供頃は領の子供達とここで遊んだ。
猟や畑を手伝える頃になると休憩中に手や足を入れながら領民といろいろな話をした。
そういえばここでの情報は助かったものが多かった。
今年は雨が少ないとか最近獣が増えたとか気温が低い時に植えた方が良い作物とか
知らない事を教えてもらった。
あれって、今思えば領主として重要な情報だった。
父上が食事の時に僕の話を真剣に聞いてくれたのはそう言う事だったのか。
義兄上はこれは『温泉』だから『湯治場』を作ればスロイサーナ領の特産、観光資源になると言い、資金不足、運営知識不足など何もかも不足しているスロイサーナ男爵領を助けるためにスタイジェイル公爵が共同経営者になってくれると言う。
義兄上は凄い。
僕が何の気無しに話した事のその先を読む。
『湯治場』も僕達が領民とよく話をする所なんです。お湯が出てるので皆んな自然と集まるんですよ。
なんて、軽く言っただけだったのに、スロイサーナ領の特産まで考え出してくれた。
『湯治場』は年明けに出来上がった。
義兄上からの指示書や設計図が届き、スタイジェイル公爵から依頼された大勢の職人がスロイサーナ領にやってきた。
義兄上から宿屋を作っておくようにと言われていたので宿屋は不足する事無く、その為に領民の仕事も出来た。
宿屋も貴族用、裕福な平民用、普通の平民用を用意してた。順調に人が集まれば人を雇うけれど、取り敢えずは領民と知り合いに頼み、貴族用には義兄上に紹介してもらった。
ダメだった時のために慎重に勧めないとね。
スロイサーナ領で揃わないものはスタンジェイル公爵に揃えてもらい、恙無く工事も進んだ。
僕の住む領主の館もちょっと大きな田舎の館から領主の屋敷に建て替えられた。
義兄上から高位の貴族はこちらに滞在しても良いようにしておく必要がある。と指示を受けてからだが、
高位の貴族はスタイジェイル公爵しか知らないからそんな事な無いと思う。
話を聞いた商人のサントンさんが一店、店を出した。こんな辺境でどうなるかわからない『湯治場』に来てくれて嬉しい。
サントンさんは義兄上と姉上の王都での知り合いで中堅の商店の次男のため自分で行商をしていた。義兄上から話を聞いて
「必ず流行る」
と、スロイサーナに来てくれた。奥さんは王都で食堂をやっていたそうでスロイサーナでも食堂を開く。
道も整備されて何も無かったスロイサーナの街並みも貧乏領地から少し脱却したと思う。
全て義兄上のおかげだ。
文武両道で優しい義兄上を僕はとても尊敬している。




