93:私の番です
「パミュラ、何を言っているのです!元に戻――」
ガストの背中から胸にかけて大太刀が貫く。
アマネにかまけているおかげで投擲された大太刀を弾くことが出来なかった。
「パミュラ・・・」
ガストはパミュラを腕で抱く。
抱いたことでもがもがとパミュラが唸っている。
「全員でガストが持っている頭を死守してアマネに渡すこと!」
「えぇ!やるんですか!やるんですか!?」
「大丈夫ですよ、アマネさん!私も手伝います!」
終わったと思ってコッソリと俺の側にまで近づいてきていたイリヤがラーゼフォンを見せつけながら言う。
「いやいやイリヤちゃんは護られる側では!?
ぐぐぐぐ、こんな少女でさえやる気になっているのに・・・
やります!やりますとも!頭持ってきてください!」
やけっぱちな言い方で腹をくくったアマネ。
アマネとガストの距離は近い、だがそこへ行くまでに胴体やバイクが邪魔をしてくるだろう。
予想通りにバイクが最初に突進をしてくる。
俺がバイクを止めるよりも胴体を止めた方がいい、ウォンとガストも俺と胴体の戦いっを見てはいなかったけど、実力差を見分けられるようで、そう判断した。
だがしかし先に何かと対峙していたせいか、魔力、体力共に消費しており、思うように身体が動いていなかった。
それもありバイクを受け止められずに弾き飛ばされる。
「わい!ようやく到着!」
「この魔遺物は私達が押さえておきますので、どうぞ安心して戦ってください」
代わりにウィンとバンキッシュが遅れて到着して、ウィンが蹴っ飛ばして上に向かせた前輪をか細い腕にも関わらずバンキッシュが持ってバイクを抑え込む。
「任せたよ」
俺は大太刀を取り戻そうとしている胴体に向かって新しく手に入れた魔遺物の中で使っていなかったものを起動する。
楕円形のバックル型の魔遺物の正体は刀。
刀鍛冶師だった魔族が己の魂を刀にした一本。
名前は匡影。
使用者が人間だと恨み辛みが溢れ出し、病に陥る曰く付きの代物のせいで実用化はされずに博物館に保管されていた。
妖刀匡影顕現。
バックルはどうやら鍔であり、そこから刀が出現する。
刀身は返しまで真っ黒で見慣れている刀とは全く違った。
柄からはうにょうにょと黒い触手のようなものがうねっている。
それが俺の腕に巻き付き、腕の中に入って血管と融合してガッチリと固定される。
動かそうとしても妖刀の意思なのか腕が動かせなかった。
ほんの一瞬で俺の魔力で魔族だと理解してくれたのか、刀の自由が効くようになった。
そして俺は刀を振り下ろす。
ガ!
が、白刃取り受け止められる。
胴体の装甲が開いて空筒が二つ現れる。
中身すっからかんじゃないのね。
空筒の中が赤黒く光って、反射板が間に合わずに腕が千切れて俺の身体は大きく後方へと吹き飛ばされる。
遅れて二発の轟音が耳に響いてきた。
このまま彼方まで吹き飛ばされるのは拙いので千切れた腕の方へと再生をして硬直状態へと戻る。
「あ、オプションとして胸、肩、腰、脚、足全てに兵器級の魔遺物が搭載されていますよ。
ぎゃん!物を投げないでくださいよ!
私が備え付けたんじゃありませんよ!あの七三分けですよ!
今から基盤取り除くので、揺らさないでくださいね!」
俺が内心で苛っとしたせいか、触手が勝手に小石をアマネに投擲していた。
「ガストさん、パミュラさんを救いましょう!」
「本当に貴方が治せるのですね?」
「賭けになりますがね。てか身体貫かれていますが大丈夫なんですかね?」
「賭けは私の領分です。
私の本体はこの仮面です。肉体など依り代でしかありません。託しますよ」
ガストがアマネに運命操作を付与してパミュラの頭を渡した。
アマネは暴れない様にパミュラの口に布を巻いた後に頭を固定した。
匡影を折ろうと横に力を入れる胴体、同じ方向へと力を向けて折られるのを阻止する。
この刀が折られた時の修復魔力量が相当なもので、俺の身体を十体作り上げるのと変わりない。
魔窟で魔力を大量に補給したとしてもここ数日で魔力を使い過ぎている。
このまま同じ勢いで使い続ければ魔力枯渇状態に逆戻りである。
俺の身体が左に傾くと同時に膝が顔面に直撃して、爆発した。
ハクザの爆発よりも効きはしなかったが、眩暈との後遺症が残ってしまう。
眩暈状態でも刀を折らせない為に更に身体を左へと傾ける。
今度は鳩尾に対して前蹴りがもろに入る。
それは人間に対してなら酸素供給がなくなり、戦いは決着していただろう。
だが対峙しているのは魔遺物である。痛みは克服できないが、慣れているし、野生解放のおかげで緩和されている。
何が来ようと、何を貰おうとも刀は腕と融合しているので離れなず、これは諸刃の剣だな。
使い方が下手なのでは?
匡影には真の力がある。
この異様な触手を見ても分かる通り普通ではない。
俺の魔力をこの触手でより吸い取っていく程成長していく。
匡影は進化する魔遺物である。第一段階はこの腕を取り込んだ状態。
また膝が来たので、俺も反撃して曲げた左脚を胴体目掛けて入れる。
白刃取りをしていた手甲は火花を上げてすり抜けて行き、胴体は後退る。
「がああああ!なんじゃこりゃあ!基盤が焼け焦げとる!
だから暴走してるんじゃないんですか!?
一度取り替えないといけませんね。
え?でもそうなると、これ今ある材料で治すのは無理じゃないですか?」
「そ、そうなんですか?
ラーゼフォンの材料を使えば何とかできそうにも見えますけど」
「あ」
「え?」
「そうですよ!ラーゼフォン!
この前改良した時に秘蔵の基盤を使ったんでしたよ!
でかしましたよイリヤちゃん!流石は私の弟子です!
ついでに私手を離せないので基盤を取り出して貰ってもいいです?」
「任せてください!」
どうやら二人に任せておけばいいようだ。
バイクの方もウィンとウォンがスキルでバンキッシュを強化してモンドが魔遺物で援護している。
任せると言った手前、俺も目の前の胴体を任せられているのだ。
無様な醜態を晒しておくわけにもいかないな。
匡影はようやく俺の魔力を大量に取り込んで第二段階へと移行する。
掌に唾まで入り込んで手が花の蕾のように萎み、今度は手が刀と一体化する。
野生解放のおかげで振りの威力は爆発的に上がっている。
同じように縦に振り下ろすと、先と同じように白刃取りをしようとしてくる。
二度と同じ手は食わない。振り落とす速度を上げて緩急をつける。
受け目られずに首元から切断する、つもりであったが、肩で受け止める。
ギイイイイン。
甲高い金属音が鳴り響いて、俺の胴体を振動させる。
斬れなかった。
どうやら肩には防御力を底上げするオプションとやらが備わっているようで。
形がなっていないな。
左腕に極大集中魔光線砲させる。
斬れないならば撃つべし。
息をつかせる間もなく撃ち、踏ん張りも耐えきれずに胴体は後方へと更に吹き飛んでいく。
「よし!これで基盤の取り換え、まぁ正確には治したんですけど。ともかく完了です!」
「やりましたね!後は取り外すだけですね!」
「それがですねイリヤちゃん、その作業が一番大変なんですよ。
こういった魔族本来の形を残した遺物はですね、魂となっている場所に基盤がガッチリと嵌っているんです。
それを取り外すとなれば基盤にくっついている魂をも壊しかねません。
悪ければ死や廃人化。良くて元通りです」
「そ、そうなんです?大体どのくらいの確率なのでしょうか?」
「ゼロコンマ飛んで八回ゼロがついて三%ですかね」
「ひ、低いですね」
「成功すれば奇跡ですよ」
「イリヤさんに任せますよ。
イリヤさんは私よりもツキが良い。
それにこの大太刀、抜けそうにないですからね」
大太刀が重いのか横たわりながらガストは言う。
「駄目ですよ。これはガストさんがやらなければいけないです」
「え?え?私じゃなくて?」
「ガストさん、この方、パミュラさんの為にこれまで頑張って来たんですよね?
パミュラさんがとても、とても大事な方なんですよね?
仮面で隠していても私は分かります。
私も、誰だって大切な人はいますから。
その人に関わる事なのに人任せにするのは違います」
「いやイリヤさんの方が運が――」
「運が何ですか!
確かに私は奇跡を起こせるかもしれません。
でも奇跡って思いの力でもあるんですよ!
あの時の勝負だって私の思いの力が勝敗を動かしたと思っています!
思いの力は絶大なんですよ!
パミュラさんもガストさんを待っていますよ!」
あまり人にどうこうと強く指図をしないイリヤが声を大きく張り上げて言う。
ガストも初めて見せるイリヤの表情に言葉を詰まらせていた。
正直俺もイリヤのスキルで実行すればいいと思っている。
だがイリヤの中には理屈や確率では片付けられない物事があるようで。
「一流はゲームを捨てないんですよ。知っていましたか?」
イリヤは八重歯を見せて笑って見せた。
これはガスト、君の手番が回って来たんだよ。
ガストは何かを考えながらイリヤを見てからパミュラを見る。
そして決意して立ち上がる。
「くくっ、そうでね。
一流はゲームを捨てませんね。
イリヤさん、貴女の言う通りだ。
最後は私の手でパミュラを取り戻して見せましょう!
それがギャンブラーであり、私の人生そのもの意味!」
高らかに宣言しながら大太刀を抜く。
抜いた側から霧のようなものが漏れ出す。
「頑張ってください!応援しています!」
「あ、え?滅茶苦茶無視されて、え?まぁいいや。えぇっとこれで引き抜いちゃってください。
慎重にですよ、慎重に」
「残念ながら私がギャンブルの大一番で慎重になったことはありませんよ」
ガストは渡されたピンセットのような器具で基盤を引き抜いた。
その一か八かの賭けの結果は俺達の運命も左右させた。
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