91:リヴェン包囲網Ⅺ
「リヴェンさん!」
ギルド員を巻いてやっと八番倉庫に辿り着くと、イリヤが出迎えてくれた。
誰かの指示で外に待機させていたのだろう。あの中だと恐らくモンドと予想する。
俺がイリヤに近づこうとした時に胸の辺りを風が通った。
視界が前面へと傾き、自分の脚が視界に入る。
ようやく自分が胸から斬られたのだと理解して、再生する。
今の斬撃はイリヤの頭一つ分上だったので突然斬られた俺に驚いていた。
八番倉庫は音を立てて崩れ落ち、粉塵と共に小石や瓦礫が飛んできたので反射板を使いイリヤを守る。
「え・・・皆・・・さん・・・は?」
崩れた八番倉庫の煙の中から出てきたのは唯一人、バイクに跨って大太刀を携えた黒い甲冑を着た金髪女性。
推測するにデュラハンか。
魔力反応が起動時の俺と同じくらいに大きい。
成程、こんな魔力反応をしていたら誰もが大慌てになる訳だ。
目の前のデュラハンはバイクのアクセルを回してエンジンを吹かす。
その度に内蔵が揺れ、この揺れが治まった時に相手が動き出すのを予測させる。
「イリヤ、ちょっと守りながら戦うのは厳しいかも」
「わ、わかりました。
私もいつまでも守られている訳にはいきません。
このラーゼフォンで自分の身を守ります」
改良され、どのラーゼフォンよりも性能が良いのを護身用に取り出す。
しかしその取り出した手は言葉とは裏腹に震えていた。
「生体反応を北西に大多数確認。引き続き殺害します」
ブオン!
後輪が地面を削り、デュラハンはこちらへと突進してくる。
行かせてはならない。
別に人間を守る理由はないだろう。
放っておけばこのデュラハンが言葉通りに殺戮を行い、止める手立てもなくエルゴンの街は壊滅する。このデュラハンの魂を汚した人間への罪と言えよう。
チートスキルを与えられた勇者が勝つのが常で、悪の魔王は対峙されるのが常だ。
そこに事情があろうとも、結末はやってくる。
それと同じ。
だが、それはこの街の人間には値しないのだ。
罪とは犯した個が負うものであり、無関係の者が罰を受けるのは理不尽である。
俺は理不尽と向き合い、理不尽と戦い、理不尽にも奪われた。
歴史は繰り返すだろう。
そうであろう。
それが世界の理だと神が決めているからだ。
いいや罪も罰も俺が背負ってやろう。
この騒動の引き金は俺なのだから。
それに大切な友達であるイリヤは見殺しを望まないからね。
極大集中魔光線砲。
これは三角形で真ん中にコアが埋め込まれていた魔遺物のスキル。
発動すれば右腕は未来的な大砲へと変化する。
本来は濃縮した魔光を放つ光線砲を生み出す代物なのだが、俺がスキルへと変えた事により、腕に取りける形になった。
剛力が備わった俺でもそこそこ重さを感じる。
撃てば反動で吹き飛ぶ可能性もあるらしいが、構ってはいられない。
駆動音が断続的に内臓を揺らすのを止め、持続的に揺らし始める。
デュラハンはアクセル全開で大太刀を抜いて突進をしてくる。
右腕に魔力を充填完了し、最大値よりも半分の力で魔光線を放つ。
銃口の前に小さな円形の魔光ができ、それが膨張していき、一定の大きさになった時にぷっくりと銃口先の方角へと突起が現れた瞬間、現代世界のロボット物のアニメで見た事しかない持続的な魔光が放たれる。
余りにもの衝撃に左手で右腕を押さえて踏ん張るも、身体は地面を抉り削りながら背後へと後進していく。
そんな馬鹿な威力の攻撃でもデュラハンは大太刀を縦に振るって受け止めた。
ネロから威力はかなりの代物と聞いていたので、精々傷がつければいいな程度で放ったが、まさか受け止められるとは思いもしなかった。
俺を相手にしてきた人達はこんな気持ちだったのかな。
持続的な魔光を受け止めながら、今度は斬ってしまい、後方の八番倉庫だったものを消し炭にしてしまうので、角度を上げて逸らした。
魔光は空にある雲を貫いて細くなって消えていく。
デュラハンに与えた成果は進行を止めただけ。
バイクを左に傾けて片足だけで支え、こちらを見据えている。
「上位敵性存在を確認。第一指令を更新。
・・・・が・・・逃げて・・・。
生存者殺害を第二指令にし、上位敵性存在を殺害に第一指令を変更完了。
指令を実行します」
機械的な発言の中に一瞬だけデュラハンの意思があった。
彼女の意思はまだあるのか。
あるのだとすれば、なんだ?
一を取るのか万を取るのか。
魔族を救うのか、人間を救うのか。
お前はどっちなのだ?
誰かが俺に問う。
俺が自問自答しているだけのようにも聞こえる。
人間よりも魔族を救う。
俺が受け継いだ意志だ。
それでいい。
野生解放。
ブレスレット型の魔遺物は肉体解放のスキルを持った代物であった。
肉体の限界の上限値を上げて、上がった上限値の最大まで肉体を強化することが出来るスキル。
それが狼人化と合わさり、野生解放と成った。
狼人から更に自分の肉体が強化されているのが伝わる。
二の腕や脚の筋肉が筋張って藁に入った納豆みたいな形になっている。
自分の肉体じゃないようで(狼人の肉体だから違うんだけども)気持ち悪い。
ギャリギャリギャリ!
地面に散らばった瓦礫をタイヤで粉々にして半回転して、再度こちらへと突進してくる。
反射板と極大集中魔光線砲を発動して放つ。
野生解放のおかげで反動は一切受け付けずに安定して撃てる。
反射板で反射して魔光線砲の着弾場所を変えていくも、デュラハンはこちらを見据えながら突っ込んでくるだけ。
無駄な動きは通用しないと。
死角になる首の裏へと狙いを定める。
死角にも関わらず魔光の線の軌道で大凡の位置を把握したデュラハンは大太刀を横にして防ごうとするが、その直前で反射板を二枚追加し、頭を撃ちぬいた。
流石に突然の軌道変更には対応できずに撃ちぬかれた頭は胴体から吹き飛び、倉庫だった瓦礫の方へと転がっていく。
いや頑丈すぎるだろ頭。
司令塔を失い甲冑はバイクから転げ落ちてしまう。
「お、終わりました?」
少し離れたところでラーゼフォンを握り締めながらイリヤが呟く。
頭を撃ちぬいたが、どうやら気を失う程度の威力になってしまったらしい。
「ぷはー!死ぬ!死ぬかと思いましたよ!
なんで砂塵塗れ程度で済んでるんですかね?
はっ!まさかこれがオーレ様の加護!?」
「いやわて等のスキルや」
「ありがとうございます。助かりました」
倉庫だった瓦礫をどかして怪我もないようでモンドとウォンとアマネが姿を現した。
彼等の安否を確認してイリヤがホッと胸を撫で下ろしていた。
誰も渦中のデュラハンの頭に近づくガストには気づきはしなかった。
俺だけがガストを認識している。
神秘的な絵が描かれた板状の魔遺物のスキル、能力耐性。
相手が俺に対して使うスキルに耐性を得る代物。
恐らくガストは運命操作の他にも何かしらスキルを所持しており、その一つを使っている。
ガストは頭を拾い上げて、同じ目線まで持っていく。
長い金髪が手を隠し、髪を優しくなぞってから、頬へと触れる。
触れられたことによりデュラハンが瞑っていた目を開けて囁く様に言う。
「ほら、また会えた」
その言葉を言われて一体ガストはどんな表情をしていたのかは、俺は予想できなかった。
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