90:リヴェン包囲網Ⅹ
「なななな、なんてことを!
お前!お前!お前!
それがどれだけの代物か知っているんですか!」
「知らん!
どれがなんやろうと、わての仲間を傷つけようとしたら、それはブラザーの信念に反すんねん!」
「物の価値も分からぬ猿が!」
「猿ちゃうわ!」
要らぬ問答をしているとガストが女性の頭が入った培養液カプセルを触っていた。
ウィンは自分達のスキルで身体能力と身に着けている武器防具の硬度を上げ、更にはガストの持つ認識阻害のスキルを付与してもらい、戦闘の達人の骸骨銀甲冑に気付かれずに一撃を入れられた。
普通の人間や魔遺物であれば大ダメージを与えられていただろう。
つまり有効打になってはいない。
吹き飛ばされた骸骨銀甲冑はダメージなどなく立ち上がる。
「気を付けてください、それは勇者一行が持ち帰った古代遺物です!
生半可な攻撃は通用しません!」
全力でドロップキックをしたのにも関わらず側頭部に凹みさえもないのを確認してウォンはモンドが言っているのが真実だと判断する。
骸骨銀甲冑の視線はこの中で一番戦闘力が高いウォンを捉える。
骸骨銀化中のスキル見物威嚇は視界に入った自分との力量に差がある生物を委縮させる。
それはこの場の誰もに適応されている。
「私のスキルはどんな者に対しても実行されます。
たとえそれが神だとしてもね」
閃光が倉庫内を照らし出して突入する前にガストはウォンにそう言った。
ガストのスキル認識阻害は何に対しても発動する。
信千代の存在遮断よりは性能は劣り相手の目のデッドスポットにスキル対象者を映し出せている――なので相手からすれば消えているように見えている。
ガストはこれを自身が作った仮面にも付与している。
手元を離れた時性能は落ち、相手の顔を覚えられないくらいになる。
見ようとすれば見えなくなり、捉えたはずのウォンは消える。
ウォンは少しだけ心配していたが骸骨銀甲冑が目を泳がせているのを見て駆け出す。
ヴィーゼル兄弟の武器は円月輪である。
しかしそれは対普通の人間や遺物人間に対しての時の武器である。
魔術師や自分より力量を超えた相手にはキヤナ・アウトバーンと共に過ごした時に習った魔術を使う。
ウォンの型は腕を交差させて人差し指と親指を立て、交差させた腕を顔の手前に持っていき、横へ開く型。
「空!」
骸骨銀甲冑の懐へとスライディングで入り込んで右足の裏で蹴って空中へと飛ばし上げる。
「首!」
両腕の力だけで身体を持ち上げて飛び上がり骸骨銀甲冑の首に脚を巻き付ける。
「火落!」
魔力を解放して自身の表面に火を放ち、回転し、火車となって骸骨銀甲冑を頭から地面へと叩きつける。
倉庫内に大きな振動が起きて、叩きつけられた床は凹みひび割れていた。
キヤナよりも威力は劣るが師範代一歩手前の威力を持つ魔術と強化された肉体と装備の合わせ技。 それでもなお骸骨銀甲冑本体には傷一つ無かった。
「嘘やろ」
渾身の技とは言わないがそれなりにダメージを与えるであろうと予測して撃った技が通用していないことに絶望の言葉を洩らす。
相手を視認できないのであれば掴まれている時点で存在はしているのを理解した骸骨銀甲冑はウォンの脚を握り潰すかのような握力で握り、片腕で投げ捨てる。
「ぐげっ!」
カエルが引きつぶされたような声を上げアマネと飛ばされてきたウォンがぶつかった。
「いつつ、クリハンさん!私まで巻き込まないで貰えますか!
まだ最終調整も終わっていないのに、こんなところで暴れてもしも起動ボタンを押したらどうなるか分かっているんですか!
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・?」
アマネは精一杯ウォンを避けた際に自分の手が首無し騎士の魔遺物の起動ボタンを押してしまっている事に気が付いた。
幸い骸骨銀甲冑に目が行っていて、この場で蔑ろにされているアマネの行動は誰もが気づいていないようなのでそっと手を離す。
「よくやりました。
私ではどれが起動ボタンかは分かりませんでしたからね」
アマネの耳元で囁かれる。
ガストの甘々低音ボイスに脳がくらっとするも平静を保ちつつ言葉を返す。
「いや暴走しちゃいますよ!街一つ滅茶苦茶になりますよ!」
他の誰にも自分のミスを気づかれたくないので小声で叫ぶように言うも、
「街一つで取り戻せるなら安いでしょう」
と、ガストは言うだけであった。
アマネからすれば何言ってんだこの変態仮面と言った感想であった。
ガストの目的は三百年前に生き別れとなった首無し騎士のパミュラ・ゼ・フォービドゥン・ロックティハナ・マリエル・サスタシア・キュレイサム・レナセリス・ジャンヌを取り戻すことである。
三百年前、ライト・エヴァ・グリスティンと対峙した時、逃げるを選択したガストは強く後悔していた。
もしも、もしも最後のあの気休めな言葉通り、巡り合えることが出来るならば、今度は違う選択をすると覚悟の準備は完了していた。
ガストはアマネに対してスキル運命操作をし、起動ボタンを確率的に押させた。
押せなかったとしても、どれが起動ボタンかを質問すれば判明するのだが、丁度手っ取り早いアクシデントが起きたのが幸運と言えただろう。
「魔術師・・・?
独学ではなさそうですが、わたしの作品の前では無力にも等しいですね。
さぁやってしまいなさい。蹂躙し、リヴェン・ゾディアックを捕縛するのです!」
二度目の命令に従い骸骨銀甲冑は再び動き出す。
ワイジャックの声、魔力反応、そして念術で骸骨銀甲冑は動く様に設定されている。
声質を真似したとしても、起動時の魔力が同じでなければ反応はしない。
念術はワイジャックが掛けている眼鏡から送られている。
この場で最も力を持つ骸骨銀甲冑が動き出すのに対してモンド、ウォン、ガストが次の攻撃をする態勢を取ろうとしたその時だった。
ヴォン!
と、駆動音が倉庫内に響き渡る。
音が鳴った場所は布がかけられて鎖が雁字搦めに巻き付けられている魔遺物から。
鎖が魔遺物の駆動音と共にブルブルと振動し金属音を鳴らす。
ワイジャックは睨めつけるようにアマネに視線を合わせると、逃げるように視線を逸らした。
口では「ワザとじゃないんですよ、事故なんですよ」と何度も呟いているが、ワイジャックには伝わらない。
雁字搦めだった鎖が勝手に外れていき、ヴォン!ともう一度鳴った瞬間にかけられていた布が吹き飛んで、駆動音を鳴らす魔遺物が正体を現す。
それは魔力を燃料とする二輪駆動車であった。
ジャンルはスーパースポーツ型であり、排熱管が六本もある。
それだけでこの二輪駆動車のパワーが底知れないものだと決定付けていた。
元々はパミュラの眷属であった六脚馬、ヴィヴィアンだったのだが、魂だけを残してこんな姿になってしまった。
アクセルが勝手に回り前輪を上げてパミュラの頭がある培養カプセルを叩き割る。
ヴィヴィアンのシートの上に頭が落ちる。
骸骨銀甲冑でさえも行動を見守っているだけであった。
骸骨銀甲冑はこの場で最も強い者の設定を変える。
ヴィヴィアンではなく、パミュラの甲冑であった。
ヴィヴィアンが起動し、パミュラの頭が培養カプセルの中から解放され、パミュラ自身も起動した。
目は閉じているが内蔵されたチップ程度の基盤で黒甲冑を動かし、指示された通りの動きを始める。
「生存者発見。直ちに殺害します」
指示された設定はリヴェン・ゾディアックの殺害及び捕獲。
であったのだが、最終調整を終えていないせいでパミュラに内蔵されているチップにエラーが起きた。
「はえ?」
予想外の言葉にアマネが息を吐いた途端に戦闘は開始された。
ヴィヴィアンが前進して骸骨銀甲冑を轢きにかかるも、剣を捨て、両手で前輪を持って止めた。
ズン!
騎士なのに剣を手放したのが仇となった。
骸骨銀甲冑は大太刀で縦に一刀両断され、崩れ落ちる。
ウォンの攻撃でさえ無傷であった骸骨銀甲冑が一振りで縦に割られた事実。
誰もがパミュラに用心する。
ただ一人を除いて。
「なっ、何をしているんです!?
私の作品を破壊するなんて・・・
素晴らしい!素晴らしい強さ、これぞ魔術を超えた力ですね!
さぁ!排除なさい」
ワイジャックの持つ眼鏡から指示を飛ばす。
「生存者、複数確認。続けて殺害します」
「伏せや!」
自分の頭をあるべき場所に乗せて大太刀を横一回転に薙ぎ払う。
予備動作でどんな攻撃が来るか予測したウォンが叫び、おとぼけているアマネと共に伏せ、ガストとモンドも伏せた。
その瞬間に倉庫が横一辺に斬られ、支柱も斬られ支えを失い、壁が崩れ、天井が落ちてくる。
「フハハハハ、この強さ!この強靭さ!まさに災害級!フハハハハ!」
隠れていた信千代に助けられたワイジャックの高笑いと共に天井が落ちて八番倉庫は瓦礫と化したのであった。
感想、評価等々お待ちしております。生きる糧になります。
ブックマークして頂けると励みになります。
何卒宜しくお願いいたします。




