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89:リヴェン包囲網Ⅸ

「皆さん、こちらです」


 リヴェンを抜いた四人が先に八番倉庫へと現れたのを見てモンドは小声で手招きをする。


「えぇっと初顔合わせの方が多いですが、各自自己紹介している暇もないですからとりあえず僕はモンドと呼んでください。

 通信でもお話したとおりに八番倉庫内にアマネさんとワイジャック・ヨグ・クリハンと古代遺物級の魔遺物があります。

 あれをリヴェン様に宛がわれると厄介ですので、起動する前に破壊するか、もしくは阻止します」


「阻止でいきましょう!もしかしたらあのお首さんが生きているかもしれません!」


 ガストが破壊は無いと提案する前にイリヤが言う。

 この場でリヴェンの次に発言権と決定権があるイリヤの意志は尊重される。


「わてもそう思う」


「そうでありまするよ、壊すなんて勿体ないでありまする」


「信千代さん!?どうして貴方までいらっしゃるんですか!」


「仲間に入れてもらったでありまするよ。絶対に役に立つでありまするよ!」


「リヴェン様が良しとするならば逆らう気はありませんよ。

 では僕と信千代さんで再び中の様子を見てきます。

 中にギルド員はいないようでしたし、ワイジャック・ヨグ・クリハンを制圧する際に大きな合図をしますので、そちらのお二方が突入してください」


「了解やで」


「あの、私は何をすればいいのでしょうか?」


「イリヤちゃんはリヴェン様やバンキッシュさんがやって来た時の為の目印と、外の見張り役としてここにいてください。できますか?」


「が、頑張ります!」


 胸の前でガッツポーズを作るイリヤに頬ましく思いながら、倉庫の方を向いて潜入用のカンテラ型の魔遺物を起動する。


 このカンテラ型の魔遺物は赤い光を放っている時は念じた相手の魔力を追尾することができ、黄色い光を放っている時にカンテラの陰に入ると相手から認識されにくくなっている。


 モンドが信千代を選んだ理由は信千代自身が持っているスキル存在遮断があるからである。

 信千代が息を止めている間は自身の存在を断つことができる。

 魔力感知も逸嗅覚でも感知することはできない。もしもそこに信千代が存在して触れられたとしても、触れた人物は気づくことは無い。


 二人は潜入向きの魔遺物とスキルを使いながら八番倉庫へと入る。


「あーして、こーして、ここをこーして、あーこれは阿保の所業。

 こっちはいいじゃないですか、八十点をあげましょう。

 こちらは締めるのではなく緩めておくのですよ。

 おっと、これはいけませんね、起動時に配線がこんがらがりますよ」


 魔遺物を弄る作業になると独り言が多くなるアマネが一人甲冑の最終調整をしていた。


 先程までいたワイジャックの姿が無いので信千代が先行してスキルを解いた後にアマネの肩を叩く。


「ちょっと邪魔しないでください」


 と、言われても諦めずに信千代は肩を叩く。


「クリハンさん、その小さい脳みそで記憶してくださいよ。

 作業中の邪魔は万死に値しますよ!って信千代さんじゃないですか、どうしてここへ?」


「アマネ殿を連れ戻しに来たんでありますよ。リヴェン殿がそう決めたでござりまする」


「・・・あー・・・そう・・・です・・・か、ありがとう、ございます」


「いえいえ、では行きましょうぞ」


 なんとも歯切れの悪い礼を気にせずに信千代は笑顔を作る。


「あ、いや、でも、これを」


「それを起動したら、流石の僕もアマネさんを敵と認識しますよ?」


 辺りをくまなく確認してからカンテラを閉まってアマネに近づき警告するモンド。


「あっ・・・でも、そうじゃないと、パパが・・・酷い目に合うって・・・」


 どうしてもこの古代遺物級の魔遺物を仕上げたい。

 酒や食よりも最大級に高い欲がアマネを蝕んでいた。

 そのせいでもあり、咄嗟に在り得そうな嘘をついてしまった。


 実際にはバルディリス連邦に家族を人質に取られて研究させられている中央遺物協会員はいる。

 アマネはそんな世界に身を置いていたのをモンドは知っているので、信頼たる発言だと思わせるのも容易であった。


「では統括者を懲らしめる外ありませんね」


「わたしを懲らしめる、ですか」


 モンドが外へと合図を送ろうと手榴弾型魔遺物を起動しようとした瞬間に、ワイジャックが銀色のジュラルミンケースと思われる物を手に持ちながら倉庫の奥にあった扉の奥からやってきていた。


「その服装からして、わたし達の遺物を奪っている怪盗という輩ですかね」


 モンドはガスト達と合流する前に仕事着へと着替えており、中枢にいる協会員ならば怪盗の存在は認知されている。


「お前、何手を止めているんです?仕上げは終わったのですか?」


「まだですけども・・・」


 上目遣いでモンドを見るもモンドは首を振る。


「アマネさんに命令しないで頂きたい」


「はっ命令ですか、そいつは命令しなくても自発的に調整していましたよ。

 酒と魔遺物に頭を支配されていますからね。

 お前達はリヴェン・ゾディアックの仲間、もしくは支配下に置かれた者共と認識でいいですね」


「僕の主はリヴェン・ゾディアック様です。

 その所有物であるアマネ・ラーゼフォンを頂きに参上しました」


「三日三晩寝ずに考えたような怪盗らしい言い回しですね。

 残念ですがそいつの所有権はわたしにあります。お前達にはありません」


「え、私物扱いですか?人間なんですけど」


 そんなアマネの呟きは聞き流されて、モンドは小指と掌の間に仕込んでおいた極小の閃光発音筒を投げる。


 弧を描いて閃光発音筒は投げ捨てられる。

 モンドは遮光性のある仮面をしているので光は効かず、更には自分達の範囲だけ音を消すことが出来る杖状の魔遺物を起動しているので無効化できる。


 そんな算段であったが、閃光発音筒は起動せずにワイジャックの足元へと転がっていく。

 コロコロと転がってコンと音を立ててワイジャックの靴先に当たったのを拾い上げる。


「こういったものもくすねているのですか、怪盗と言うよりもコソ泥ですね」


 ワイジャックが私的に所持する白衣の下に隠したペンダント型の魔遺物。

 その魔遺物の性能は魔遺物の効果を無力化する。

 ペンダントから魔力を放って魔遺物を起動するときの魔力を相対的に消去している。


 これは魔術師が使う魔力を断ち切る距の技術を応用し、ワイジャックが独自に開発した代物である。


「返しますよ」


 音のない空間で閃光発音筒が弾けて倉庫内が光に包まれる。


 モンドは得体の知れない魔遺物を見て警戒し、ワイジャックの行動を警戒していた。

 閃光発音筒を投げ返したワイジャックは余裕のある動作でケースを開ける。

 ケースの中にはまた箱があり、箱の上には掌の形が模された絵が描かれていた。


 ワイジャックはそこへ掌を乗せる。

 認証式の魔遺物は中にあるものを保護し、保管する為に使われることが多い。

 だがワイジャックの持っていたこの魔遺物は認証することで次の段階へと変貌する進化型魔遺物であった。


 ケースそのものに魔力が送られて形を変えていく。


 その姿は騎士。

 王国騎士団が戦時中の際に着る銀の甲冑をより魔力で硬化させ、俊敏性を上げた銀騎士甲冑。

 それがワイジャックの隣に現れた。


「え、それって」


 目が普通の視界へと戻った銀甲冑が何なのかを理解しているアマネが呟いた。


「骸骨銀騎士じゃ・・・」


 ライト・エヴァ・グリスティンが持ち帰り、アマネが最終調整し作り出した骸骨銀騎士の魔遺物。 銀騎士甲冑の中には元々の魔族である骸骨スケルトンが収納されており、ひとたび命令すれば動き出す。

 進化型魔遺物でもあり、自動迎撃型魔遺物でもある。


 改良に改良された骸骨銀騎士は狼人や巨人並みの怪力を持ち、更にはこの世の歴史書物を学習されており、剣術はおろか、体術までもを極めていると言っていいほど会得している。

 まさに戦闘の達人と化していた。


 モンドはアマネの言葉を聞いて骸骨銀騎士が何なのかを理解して、骸骨銀騎士と自分の力が雲泥の差であると悟る。

 信千代もスキルがあるとはいえど、戦闘系のスキルは持っていないと聞いているので当てにはならない。


 今からこの場で出来ることは逃げることしかない。

 でなければワイジャックは自分達を殺すと判断したからだ。


「そうです。

 本当はこちらと、それを同時にしようとしたのですが、仲間がいるのであればこちらを使うしか外ありません。

 わたし達の邪魔をするならば、消えてもらうしかありませんからね。

 やりなさい」


 骸骨銀騎士が剣を抜いて甲冑の奥にある黄色い瞳が輝いた。

 その瞳に射抜かれた瞬間にモンド達の身体は硬直する。


 死を意識する。


 ガシャリガシャリとゆっくりと近づいてくる。

 とてもゆっくり、動作が見える程ゆっくりと剣が振り上げられ、モンドは自身の身体が袈裟切りされる未来が見えた。


「わてのスーパーキックがアクセル全開で炸裂や!」


 剣が振り下ろされる瞬間に骸骨銀騎士の頭部をウォンのドロップキックが直撃して、骸骨銀騎士は黒い甲冑を巻き込んで吹き飛んで行った。

 

 黒い甲冑を巻き込んだことにより、冷静さを保っていたワイジャックの目が飛び出していた。


「どや?格別やろ?」


 着地してキメ顔でウォンは言った。

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