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83:全快

 十分な療養期間を終えたハクザ・ウォーカーはベッドから足を出して立ち上がる。

 村の医者からは全治三ヵ月と診断されていたのにも関わらずに僅か一週間で完治してしまったのは魔術師範の中でも繊細な魔力移動を使い、体内にある魔力を体力回復へと当てたからでもあるが、殆どは執念でもあった。


 祖母、ディアンナ・ウォーカーが倒せなかったとされている唯一の魔族リヴェン・ゾディアックを破壊する。

 それだけの為に立ち上がった。


 ペコリソに適当に巻かれた包帯を筋肉に力を入れて千切る。


 体調は万全、なんならば一週間前よりも絶好調。

 魔力の流れも一週間集中していたおかげでスムーズに移動できる。

 頭の中でリヴェンをどう破壊するかを模擬訓練し続けた。

 しかし勝てる見通しは無かった。


 全ての模擬訓練で敗北を喫した。


 まだ自分に欠けているものを見出せないハクザは、直ぐにでも破壊しにいきたい衝動を抑えて息を整える。


「いかはらへんの?」


 備え付けられた丸椅子に座りながら魔術教会の服装に手を加えているキヤナが、包帯が解けて逞しく傷が無い背中に向けて言った。


「今ではない。君はいかないのか?」


「奇遇やね。うちも今やあらへんと思います」


「君の眼鏡には敵わなかった訳ではないのだろう?」


 ハクザはキヤナ達がリヴェンと接触したことを知らない。

 伝える意味もない上にゾウンの沽券にも関わるので黙っていた。

 それに近くにいると知れば暴走気味に飛び出して破壊行動をするとキヤナとペコリソはそう踏んでいたからだ。


 予想は外れ、起き上がったハクザは妙に落ち着いていた。


「・・・どうしてそう思いますの?」


 針を服に通す手を止めずにキヤナは問う。


「君の瞳の中にある炎が燃えているから・・・とでも言っておこうか」


「あら珍しくロマンチックな言い方。そんなウォーカーさんも素敵やわ」


「鳥肌の立つことを言わないでくれ、身体に障る」


「先に言わはったんはウォーカーさんやで?」


 キヤナがはぐらかすのには慣れているハクザは、ため息さえもつかずに次の話題に変える。


「・・・他の二人はどうしている?もう追っているのだろう?」


「ラリリンちゃんとダイガインさんはリヴェン・ゾディアックの脅威を報告する為に一度ユクタムに戻りました。

 他の人等もウォーカーさんがやられたーって言うたら浮足立ってくれましたから安心どす」


「私は何も心配などしていない」


「嘘つきさん」


「それは君だろう」


 実際には嘘をついているのはキヤナだけである。

 ペコリソは大怪我をしたダイガインの側について看護をしており、他の師範はまだ功績を得る為にリヴェンを探している。

 キヤナはリヴェンとの約束を守る為に一応は根回しをしているが、魔術教会はキヤナの一言二言で止まるような一枚岩ではない。


 キヤナ自身もやれることはやる性格なだけで、自分の行動が抑止力になるとは思っていなかった。 ただハクザが指示するよりも信頼度があるので、事態を少しは混乱させていた。


「あ、そやそや、さっき鳩さんが手紙持ってきはったんよ。

 もう返信したから言伝で堪忍な。バルディリス連邦の人等がきはったみたいよ?」


 魔術教会と中央遺物協会は水と油。液体と分類すれば同じだが、決して交わることは無い。

 中央遺物協会は元々魔術教会の流派イントロディスタントであった。

 その流派を潰したのは青年期のハクザである。


 ハクザが魔遺物を嫌う理由の根源は中央遺物協会の体内に魔遺物を埋め込む下法たる所業を目の当たりにしたからであり、それが人間の進化を遅らせ、更には退化させると信じているからでもある。


 文明の利器を使った人間は堕落する。

 そうならない為に人類は己の力で魔法使いに至らなければならない。口を酸っぱくして修行者に言ってきた理念。


「愚者共が来ようが関係ない」


「あら素っ気ない。先に倒されてしまうかもしれへんよ?」


「そうだとすれば、それまでのことだろう。愚者共が奴を鹵獲できるとは思えないがな」


「なんや随分とリヴェンはんを買ってはるんやね」


「買ってなどいない。魔遺物を破壊するのは私だ。

 魔遺物同士で破壊し合うなど馬鹿な話があってたまるか」


「ほんまに素直やないんやから。はい完成」


 白い指で糸をなぞると糸ははらりと切れる。

 解けない様に魔力を込めて結び、ハクザへと寄って服を手渡す。


「ほいで、どこいかはるん?」


「鍛錬だ」


「ウチと手合わせでもどうどす?」


「君との手合わせは少々熱くなりすぎる――だが私の新たな魔術をくらってみたくはないか?」


「今日のウォーカーさんはなんや魅力的やわ」


 ハクザは手渡された服を着てからキヤナの戯言を聞き流して部屋を出る。


 キヤナは自身の中に沸々と燃え始めている炎に感情の薪をくべながらハクザから数歩距離を離して付いて行くのであった。


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