82:リヴェン包囲網Ⅳ
切断面から冷気が出ていることから凍らされている。ただ冷たさも痛みも無かった。
目をやられていたのもあるが、斬られた事実さえも感じさせないベップの青龍刀捌きは常人ではない。
「ユキノシン君!」
デップがジツガイムへと目で合図する。
ジツガイムが深追いをするなと言いたげに口を開けた時にはデップは動き始めていた。
俺は両手を差し出す様に向けてワザと斬り落とされる。
落とされた左腕だけを右脚の太腿で蹴り上げ、右腕に再生する。
身体を半分だけ再生させて、再生中の右腕に小波魔動機を起動して魔力弾を発射する。
デップは青龍刀を回して魔力弾を弾く。
撃ちながら上空にある左脚へと再生を開始する。
ゾウンとの対決後、自分の身体の一部から身体の一部へと再生する特訓をコッソリとしていた。
まだ連続で違う場所へと再生しようとすると遅延が発生するも、遅延を考慮して順序良く再生すれば相手を翻弄できる段階までは修得した。
左腕への再生を終えると既にタネを知っているジツガイムが抜刀して攻撃してきていた。
それも下で確認していたので、ジツガイムの攻撃には一切対処せずに縦に一刀両断されておく。
斬られる一瞬で地面へと落とされていた右脚へとこれまでよりも一番早い再生をして紅蓮蛇腹刃で攻撃行動中の二人を捕らえる。
腕の筋肉が硬くなり、そのまま二人を地面へと引き寄せる。
自分達の力を何倍をも超える力と空中と言う身動きが聞かない空間のせいで踏ん張りも効かずに背中から地面へと激突する――寸前でジツガイムとデップが反転して俺の首と胴を斬ってから激突の衝撃を和らげる為に魔遺物を地面に思いっきり叩きつけて、受け身を取って通りへと転がっていく。
その場で斬られた傷を治して後ろを振り向き、態勢を立て直して立ち上がろうとしている二人の喉元に紅蓮刃を突きつける。
「動いたら痛いの後に何も感じなくなるよ」
そんな脅し文句を聞いても二人は魔遺物を離さない。
「強情だなぁ」
喉元につけてある紅蓮刃から魔力吸収を発動する。
魔術を使うから魔力吸収に耐性があるものだと思っていたが、直接触れた場合なら吸収できるようで、じわじわと魔力を吸収しているのが伝わってくる。
「殺人は見逃せませんよ」
エノンが俺の後頭部に照準を合わせて針のようなものを射出する魔遺物を向ける。
「いやいや、普通だったら俺が十回は命を奪われているよ?」
振り返りもせずにゆっくりと二人から魔力を奪いつつ返事をする。
「彼らは貴方を殺す許可を持っているようですからね。
貴方にはその許可はありません」
「怖い世界だね」
「私もそう思いますよ。
怖いことが起こる前に二人を離しなさい」
「それは命令かな?それともお願いかな?」
「・・・」
無言の圧力で命令だと示すエノン。
二人が脱力してきたので紅蓮刃を離して両手を上げる。
「ワワさん」
やっと反対側の大量の民衆を避難させてきたワワが俺の前まで来る。
「また迷惑をかけさせてもらうよ」
そう告げて紅蓮蛇腹刃を起動して街灯に巻き付けて飛び上がる。
エノンが攻撃してくるも、針はキンと音を立てて何かに撃ち落とされた。
高層アパートの屋根へと着地すると、そこにはバンキッシュが発砲した銃を持って待っていた。
エノンに捕まった時点で騒ぎを大きくしてバンキッシュ達がここへやってくるだろうと考えを切り替えていた。
あちらの方が仲間が到着するのが早かったので内心焦りはしたものの、こうして思い通りになった。
「早速厄介事ですか?」
「厄介事を持ち込むのはあっちから。イリヤは?」
「一人で宿へと向かってしまいました。私達も戻りま・・・」
バンキッシュは何かに気付いたようで遠くの建物の屋上を見つめている。
あそこ風下なんだけどな。
「俺を狙って来ているのはバルディリス連邦のギルドの奴等でね。少なくとも三人以上はいる」
「先にお戻り下さい。その三人目は私が相手をしますから」
「駄目・・・って言いたいところだけど、ちょっと手を見せすぎちゃったからね、任せるよ」
「任されました」
バンキッシュは敵がいるであろう屋上の方へと向かって行く。
凛とした背中を見送ってから屋根伝いに宿屋へと向かう。
どうやらエノンがこれ以上追ってくる気配は無い。仲間がいると分かったから深追いはしないか。
彼女だけがどこの位置についているかは謎なのが気掛かりだが、必要以上に攻撃してこない辺り中立のような立場だろうと位置付けておこう。
下では騒がしくなり始めていたけど、屋根に身を隠しながら移動したおかげか追撃無く宿屋へと辿り着けた。
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