78:新たな依頼
「で?なんであーしらはまた集められている訳?」
エルゴンのギルド商会支部長室に再び召集されたワワ・ゲイザー、宝田肇、ジュリ・カンロヅキが空いた支部長席を見つめながら質問する。
「さぁな。リヴェンの事は危険性無しとギルドは判断したようだが、この面子だからリヴェン関連だろうな。
しかも支部長が呼び出して席にいないとなると、まぁ嫌な予感しかしないよな」
「こ、今回は魔窟調査じゃないですよ。確証はあります」
「でしょうね。他の有能な調査員は在中しているし」
「そ、そういうことです・・・」
「あんた、自虐しておいて落ち込むのは流石に情けなさすぎるわ」
ワワ達はリヴェンの調査を危険性無しと報告したが、キュプレイナは信用しなかった。
それはカイの御墨付だからである。カイ・マンダイン・フェルナンデス・ゴフェルアーキマンが口にすることは信用に値しない。
なぜならカイは自分の面白さの基準で発言するからである。
報告の場では良しとしたキュプレイナにはワワが酒の席で本当の成り行きを告げていた。
カツカツカツとヒール音が廊下に鳴り渡り、三人はキュプレイナがイライラしている時の歩き方だと理解し、ジュリはため息をついた。
バン!と力強く扉が開けられて、怒り肩で三人の隣を通り過ぎて行き、キュプレイナは支部長席に座る。
「いいか?」
鋭い目つきで煙草を吸っていいか問い、駄目だと言えない三人は了承する。
その後に煙草に火をつけて、大きく吸い、煙を吐き出した。
ストレス緩和剤である煙草を吸引したおかげでキュプレイナは少し落ち着きを取り戻した。
「だいぶ荒れているな」
「冬のガリア海よりはマシだ」
「漁師の生まれの見立てとしては同じぐらいだな」
キュプレイナがここまで怒るのはカイと会話した時くらいなので、その怒りを緩和させるためにワワは日常会話をしている。
が、それでもキュプレイナの怒りは収まることは無く、また大きく煙草を吸い、ジジジと煙草を焦がしていく。
「俺達を呼んだ理由は、荒れている理由と関係はあるんだよな?」
再び大きく息をついて、いつの間にか少しだけ乱れた髪の毛を整えてから言う。
「大いにある。バルディリス連邦支部が絡んできた」
「えーマジ?ロクなことないじゃん」
「そうだ。ロクな依頼じゃない。そもそも依頼として成り立っていない。
お前達には半場強制的にバルディリス連邦の奴等と仕事をしてもらうことになった」
「えぇ・・・」
滅多に人前で嫌悪感を表さないハジメも言葉に出してしまう。
バルディリス連邦との単語はギルド商会内では厄介者と同義であり、聞いただけで誰もがため息をつきたくなる。
「顔ぶれで解っていると思うが、先日のリヴェン・ゾディアックの件で関わったからだ。
あちらの言い分ではお前達がリヴェン・ゾディアックに懐柔されているとのこと。
だから三人全員に監視をつける。その監視役と共に、再びリヴェン・ゾディアックと邂逅し、捕縛せよとのことだ」
「はぁ!?あーしらが洗脳されてるって言いたいわけ!んな訳ないじゃん!
つーかなに!監視!?あーしら犯罪者か何か?
しかもあーしらを出しにしてあいつを捕縛するなんて、やっぱいけ好かないわ!」
「そういうやり口だからな。うまいことつけ込まれた私に非がある。すまない」
「そ、そんな謝らなくても・・・こういう扱い慣れてますから!」
「ふっ、そうか、そう言ってもらえると有難いな」
キュプレイナが儚げな声で言うと褒められたと思ってハジメは愛想笑いをする。
ジュリは罵倒をしようと思ったが、それは最も子供らしい行為だと思って口を噤んだ。
ワワもキュプレイナ自身がギルド商会員を蔑ろにする性格じゃないことを知っているので、精一杯交渉した結果、こうなった。これが最善の譲歩であったと理解しているから何も言わなかった。
キュプレイナ自身は責められた方が、まだ心が楽になる心境であった。
「つーか他の支部があーしらの支部に口出ししてくんなって話」
「中央遺物協会直属の依頼状だ」
机の上に捨てるよう依頼状を置くと、ジュリは黙った。
ギルド商会は各国に支部を置いており、メラディシアン王国支部はギルド商会の中でも五本指に入る発言力がある。
しかしバルディリス連邦を拠点としている中央遺物協会の前では発言力は落ちるのである。
「まぁ、なんだ。リヴェンと出会えばいいんだろう?」
組んでいた腕を解いてワワは依頼状を読み終えた後に言った。
「出会って、捕縛だ」
「失敗してもいい訳だ」
「っ・・・ギルド商会としては、失敗は許さん」
「そうか。なら気張らねばな、相手は手強いぞ。
なんせハクザ・ウォーカーを一対一で倒した男なのだからな!」
ガハハハと快活に笑いながらワワは依頼状を机の上に置く。
「あー、そゆことね。
だったらあーしらは洗脳されていないって証明して依頼を熟せばいいんだ」
「うん?え?どういうことです?」
「自分の頭で考えたら?」
ジュリが理解していないハジメを冷たく突き放したのを見て、キュプレイナは少しだけ頬を緩める。
「では依頼は自動的に受注された。
君らはロビーにいるバルディリス連邦支部の者達と合流しリヴェン・ゾディアックの捕縛に行ってもらう。
では、健闘を祈る。解散」
キュプレイナの解散の合図で三人が支部長室から出ていくのと入れ替わりで支部長補佐であるサラリとした銀髪と目元のクマが特徴的なエノン・フィージャが沢山の書類を大きな胸に抱えながら入室した。
「例の件ですか?」
「あぁ、それでだがな、エノン」
キュプレイナがエノンに頼みごとをする前にエノンが依頼状を潰すかの如く机の上に持っていた書類の山を置いた。
「これを代わりにやっていただけるならばお受けしますよ?」
「お前は顔が可愛いだけの悪魔だよ」
「何を仰いますか、私じゃなければお姉様の方がよっぽど悪魔だと愚痴っていますよ」
「かもね」
一本目の煙草を吸い終えたので、二本目の煙草に火を付ける。
「流石のお姉様も傷心ですか?キスでもしましょうか?」
「若い女の精気を吸うようになっていたら、なお私は悪魔だろうね。あ、おい」
エノンはキュプレイナが吸っていた煙草を取り上げて、自分が口に咥える。
そのまま一服もせずに踵を返して扉の前で軽く手を振って別れの挨拶を告げるのであった。
「では、行ってまいりますね。書類全て片付けてくださいね」
「歩き煙草厳禁だぞ」
そう閉まる扉に投げかけても声は返ってこなかった。
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