77:孤独のアマネ
リヴェン達がガストのギャンブルゲームに挑み始めた時、のっそりと宿屋のベッドから起き上がり、寝惚け目を擦っている最中に唐突にきた吐き気に襲われ、洗面所の前で吐くアマネの姿があった。
「なんで誰もいないんですか?
この二日間は夢?いや、お金あるし、ここはエルゴンだし、夢じゃない。
皆さんどこへ?なにか話していた気がしますが、あーダメダメ思い出そうとするだけで頭痛い」
備え付けのコップに水を淹れて一気に飲み干す。
すると少しはシャッキとした表情になってアマネは千鳥足のまま替えのシスター服に着替えて宿屋の一階へと降りる。
リヴェン達が利用している宿屋はエルゴンでも有名な高品質の宿屋である。
一階の大広間にはビュッフェがあり、いつでも飲み食いが出来るようになっている。
そこで遅めの昼食をとアマネは赴いたのだ。
ピーク時の昼も過ぎて人も少なくなっていたので、鼻歌を歌いながら皿を手に取って、野菜増し増しで盛っていく。
複数のドレッシングを小さな皿に入れ、麦酒が入った魔遺物のサーバーにジョッキを当てて目一杯注いでから、空いている席に着く。
疎らにいた他の客がシスターなのに昼間から酒を飲んでいるのを目の当たりにして自分達の目を疑っていた。
ゴクリゴクリとアマネの喉を通っていく麦酒。
「ぷはー!やっぱりこれが無いと始まりませんよね。
ふふ、アマネちゃんは天才なので、このガンザンニンジンにガーリックケチャップとピュリファイ産マスタードを合わせて食べるのです」
フォークに刺した茹でられたガンザンニンジンを口に入れて頬張り、よく噛んで飲み込む。
「うまっ!やっぱこれがベストマッチなんですよね~、しかもこうすると麦酒のアルコールが中和されて酔う心配もない。
アマネちゃん直伝二日酔い時の美味しいお酒の飲み方なのだ!わはは」
誰に言うまでもない酔っ払いの大きな独り言。
そんな信じられない独り言を試したくなった者たちが少しいた。
「ほんとでありまするか!よし私めも試してみるであります」
少年の様な見た目をした男子が麦酒サーバーの前へ行って注ごうとするとビーッと音が鳴って従業員が駆けてくる。
「すみません。そちらのお飲み物は年齢制限がありまして」
「どうしてでありまするか!私は三十四歳でありまするよ!」
どうみても三十四歳には見えない男子が嘯いているのを、隣にいた可憐な男性が窘める。
「まぁまぁ、僕が淹れますから」
しかし男性が淹れようとするも、ビーッと音がなってコップに注がれることは無かった。
「え、僕も年齢制限に引っ掛かるんですか!?」
アマネの目から見てもその男性は酒が飲める年齢は超えているように見える。
あの魔遺物のサーバーが故障しているのではなかろうとか考えるのであった。
しかし自分の時は普通に淹れられたので、壊れているはずが・・・そんなに老けて見えているのだろうか?と落ち込みつつニンジンを頬張る。
「壊れているのではありませぬか?」
「す、すみません。ただいま係りの者が席を外しておりまして。
私ではどうにもできることができません」
「仕方ないですよ。また今度の機会にしましょう」
「今試さねば、いつ試さぬと言うのでありましょうか。
あの壮麗なシスター殿が発言したことが真か嘘かを確かめねばなりませぬ。
根菜を食べて生きてきたのに、まさかアルコールを中和させる機能があるなど知りも知らなかったのですよ。
正に正規の大発見!それを今確かめずに死ねるかでありますよ!」
「そんな大袈裟な・・・」
二人が困っているようなのでアマネは席から立ち上がり、シスター服の中に常備していある魔遺物解体用のドライバーを手に収めながら近づく。
「従業員さん、私、免許持っているので中を見てもよろしいです?」
中央遺物協会員ならば誰もが持っている魔遺物の解体免許の証であるペラペラのカードを見せると、従業員は渋々了承した。
「あー、成程ですね。
生体認証キーが誤作動を起こしていますね。
えーっと・・・ん?年齢不詳・・・?まぁ偶に見るエラーですから、別に壊れている訳じゃありませんね。
一応この記録だけ消せば正常に戻ると思いますが、よろしいですかね?」
「は、はい」
「じゃあ消しちゃいますね。
ほいっと、これで治ったはずです。試しにそちらのお兄さんが淹れてみてください」
アマネは開いた魔遺物を元通りに戻してから可憐な男性に指示する。
指示された通りに可憐な男性がサーバーにコップを当てると麦酒が注がれた。
「お客様、なんとお礼を言ったらいいか。ありがとうございます!」
「いやいや困っている人を見ると助けたくなる性質でして。
お礼なんて、ねぇ」
実際はお礼を催促しているので、その意が伝わったのか、従業員から大銀貨一枚を手渡され。
儲けものと心の中でほくそ笑むアマネであった。
「そいじゃ私はこれで」
「あのご一緒させてもらってもよろしいですか?」
アマネが席に戻ろうとした背中に可憐な男性が声をかけた。
実はアマネはこの可憐な男性の顔が好みであり、こうなることを予期していた。
だから打算的に助けたのであった。
「いいですよ。私の席で一緒に呑みましょう!
あ、私アマネ・ラーゼフォンと言います!お兄さん達は?」
「僕はモンドです」
「私は信千代でありまする」
その好みの男性が女性であり、更には自分の雇い主の仲間でもある事を知らずに酒を飲み交わすのであった。
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