76:インディアンポーカー
「じゃあ今度はインディアンポーカーにダウトの要素を入れたゲームをしよう」
今度の勝負の相手であるリヴェン・ゾディアックはそう言った。
「と言うと?」
「使うカードはジョーカーを覗く十三枚。
親となった人がまずカードを引いて子に見せるように額につける。
次に子もカードを同じようにカードを額につける。
お互いのカードを確認したところで、親が掛け金を決める。
持ち金は百から始めよう。そうだね、この報酬コインを使おうか。
最初のレートが十から開始して、子が同意または降りる判断をしたら親は次の内から行動を選べる。
まずはそのまま勝負する。
次に掛け金を上乗せして勝負する。
第三にレート釣り上げて再び子に同意または降りるかを選択させる。
そして最後に子に自分のカードが何かを一度だけ質問する。
質問された子は親のカードを言うか、嘘をつくかの二通り。
親は予想してダウトか何も言わないを選択して、その子だけに対して勝負を挑むことになる。
勝負後、ダウトが成功していれば質問相手の掛け金の倍額をせしめることができ、外れていた場合は自分の手持ち額の半分を渡すことになる。
勝負時のカードの強さはキング一番上で数字の順に下っていき、エースが最弱だ。
親は右回りに回っていく。ルール説明はこんなところかな」
「その言い方ですと、複数人でやるみたいですが?」
「そうだよ。俺とバンキッシュとネロを相手にしてもらう。
このゲームは一対一でやるよりも複数でやった方が面白いんだよ。君もその方が滾るだろう?」
まるで私の性格を知っているかの物言い。
影の魔王は噂通りどこまでも烏滸がましい存在だ。
だがその通りである。
逆境であるからこそ私は光り、逆境であるが故に愉悦を感じることができる。
「いいでしょう。その勝負お受けしましょう」
「じゃあイリヤ、もしもの時は任せたよ。絶対に勝てるから自分を信じて」
「え、あの、それは」
イリヤと言う少女は戸惑っていた。
万が一、億が一を考えて彼女に託す。
ギャンブルは勝ちが確定していない。いくら実力差があれど、運に左右されるのがギャンブルゲームと言うもの。
だが、その運を乗り越えてこそのギャンブラー。
他人など信じるな、自分だけを信じろ。それが私のギャンブル道。
「ではこちらの未開封のトランプから十三枚、余った報酬コインを分配し、こちらのテーブルへと置きましょう。
どうぞ、好きな席におかけになってください」
「じゃあ俺はここ」
「私はここで」
「私はこの席にします」
リヴェンは真っ先に座り、その両隣、左にバンキッシュ、右にネロが座る。
誰がどう座ろうがこのゲームのルール上関係ないが、意思疎通を取られるのが厄介だろう。
「カードの確認をしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ構いませんよ」
黒いドレスを着たバンキッシュが私の手を取ってカードを拝借する。
裏表を見た後にカードを嗅いでから。
「不正はないようですね」
「私は一切不正行為をしていませんよ」
ただ自分に備わっているスキルを使っているに過ぎないのだから。
ギャンブルのイカサマ技術に気が付けなければ、それはイカサマではなく技術。
バレればお手付き以上のペナルティ。これもまたギャンブルと言えましょう。
「ま、念には念をね」
「では親を決めるのはどうしましょうか?」
「親は君からでいいよ。ずっと勝ち続けている特権だよ」
「よろしいのですか?一試合で終わってしまうかもしれませんよ?」
「誰に勝負を仕掛けてもそうはならないよ。さぁ、始めようか」
こうして私とリヴェンとの勝負が始まった。
全員が額に相手にカードを見せつけるように掲げる。
リヴェンが九でバンキッシュが十一でネロが四。
これは確率であると私が不利である。ネロにダウトを仕掛けるのが丸い行動だろう。
バンキッシュとネロは表情筋が死んでいるのか全く動かない。
リヴェンに至っては楽しそうに私の額を見つめている。
阿保め、瞳に反射して私のカードが映っている。私のカードは八。なんとも仕掛け難い数字である。
「金額を三十に上げましょう」
強気にいき、相手の持ちカードが弱いと示す。
「おります」
するとバンキッシュが降りた。
「継続で」
「私も、ご主人と同じで」
残ったのは二人。一試合で終わらせてしまおう。
そうすれば彼らの魂を奪うことができる。
そして私が魔王よりも、影の魔王よりも最後に生き残った者だと証明して見せよう。さすればパミュラも・・・。
「では五十に釣り上げます」
「継続で」
「おります」
ここで降りてリヴェンとの一騎打ち。
強気に出過ぎたか?そもそも高カードが出ているから一戦目で降りない時点で警戒するべきであったか?
乗せられたのか?瞳に反射させたのもワザとか?
小癪な。
「ではリヴェン様に質問を致します。私のカードは幾つですか?」
「八」
即答で返される。
考える間を作ってから、私は何も言わないを選択する。
「じゃあ勝負だね」
「そうですね」
一戦目は私の負けであった。
金額を五十持っていかれて手持ちはいきなり半分になってしまう。
初手から仕掛けてくる。
リヴェンは私にスキルを使わそうとしているのであろう。
そんなにも見たいならいいでしょう。私の運勢操作スキルを見せてあげましょう。
私がスキルを使ってからは常に十以上のカードが私に回り、最初の五十は取り戻し、全員から六十の金額を巻き上げた。
リヴェンも小手先の技術でなんとか私に食らいついていたが、喉元には届かず仕舞いであった。
試合中盤バンキッシュが「全て降りる」と宣下してから居眠りを始め、最終盤に目を覚ましてから、バンキッシュの親でリヴェンへとダウトを仕掛けて、全額を突っ込み試合は終わった。
げに呆気ない終わり方で肩透かしであった。
まさかの仲間の自爆での終幕。
「情けないですね。足を引っ張る仲間がいるのは本当に情けない」
過去の自分に言い聞かせるように言うと、リヴェンではない者が怒気を放った。
「そう思うなら君はこのお姫様には勝てないよ」
怒気を放つのは少女イリヤで眉を吊り上げていた。
そんなイリヤの肩に手を置いてリヴェンは笑顔でそう言うのであった。
「私が?イリヤ様に?」
「そうさ。君の未来はイリヤに負ける事が確定している。
しかもイリヤは俺を馬鹿にしたことに腹を立てているからね」
「や、リヴェンさんの為に怒っている訳じゃないです」
「と、まぁ、怒っているらしいよ」
「ふっ、貴方がそんなのだから、この世の中になってしまったのでしょうね」
そう私が言い残してリヴェンとネロとバンキッシュを人形へ変化させる。
「・・・訂正してください」
「足を引っ張る仲間と言った事ですか?」
「そちらもそうですが、リヴェンさんを悪く言った今の言葉も訂正してください」
このイリヤの怒気は、嫌な怒気である。
こんな少女に胆を冷やしてしまう。だから大人げない事を言ってしまった。
「・・・嫌です。事実ですからね。
訂正させたいのでしたら、私との勝負で勝てばいいではないですか?」
「分かりました。では勝負です。
私が勝ったら皆さんを戻してもらい、仕事を請けてもらい、リヴェンさん達に謝ってもらいます」
「いいでしょう。ではサイコロゲームで勝負しましょうか」
私は選択を間違えていなかった。
長期的な、あの時逃げた選択以外は間違ってはいない。
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