74:続スロットマシーン
カッと目を見開いてレート十のコインを入れる。
勝負に出たのは出た、だがそれは露骨なスキルを使った不正ギリギリの勝負であった。
リールの一つ一つが石になって止まり、ガキン!ガキン!ガキン!と壊れそうな音を立てて止まった。
役はベルの絵柄で止まった。
「リールには触っていませんわ!スキルでしてよ!」
不正じゃない証に報酬コインが流れ出てくる。
「えぇ。承知の上ですよ。
ミストルティアナ様に魔眼のスキルがあることは存じ上げておりますから」
反発せずにガストは淡々と回し続ける。
そんな態度に悪役風な言いまわしでミストルティアナは挑発する。
「その態度がいつまで続くか見ものですわね!
私の魔眼は見抜いた物は絶対に石になるのですよ!」
高レートのコインを投入して、クローバー以上の役を、魔眼を使って揃えていくミストルティアナ。
ただ一番レートの高いコインに手をつけないのが気になった。
「おやおや、またベルマークですよ」
十のレートコインでベルマークを出したガストは抑揚なく喜びを表現する。
「ふっ、おあがきになさっているようですが、差は歴然としていますわ。
このまま私の勝利で終わらせていただきますわ!」
もうミストルティアナが悪役にしか見えない。
「スロットゲームにお疎いリヴェンさんにご説明致しましょう。
この初期的なリール式スロットゲームは役が出ない程、一定の確率で役が出やすくなる回があります。
奇数、偶数、素数。
役が出るまでこの三つのパターンで確率が上がり、最終的には絶対何かの役が揃うことが確約されています。
競技性がある今回の場合では最初の試遊でお互いの台がどのパターンを見極めるのがスタートダッシュのコツでもありますね」
「へぇ、そうなんだ。教えてくれて有難う」
「いえいえ。観戦者も納得がいかないといけませんからね」
「ゴネたりはしないけどね。
そもそもミストルティアナが負けるとも思っていない」
「きゅん!心がきゅん!となりましたわ!
任せてくださいまし、必ず大勝をしてみせますとも!
ほらほら、どうですか!ガストさん!私との差は開いて行く一方ですことよ!」
ミストルティアナに対していいカンフル剤になったようで、更に高額のレートを叩きだす。
「そうですか。ではこれでどうでしょうか?」
「んなっ!」
ガストのリールの絵柄は数字の七を表示しており、報酬コインはレートが五十のコインであった。
まだミストルティアナとは差があるものの、差はそこそこ詰められてしまった。
「これで追いつきましたかね」
またもやガストは同じ最高報酬額を叩きだしていた。
これである。こちらが優位に立っていると、ガストは逆転していくのだ。
ウォンに関しては技術だったとは思うが、あそこまでピッタリと出せるのはまぐれとは言い難い。 今回もまぐれと片付けるのは難しい。
「まだ!ですわ!」
目を開けすぎて充血した瞳でミストルティアナは叫ぶ。
五十レートのコインを使ってベルマークで止めてみせる。
差は開いた。が、ミストルティアナの目から血の涙が流れだした。
「ミストルティアナさん!」
「心配ご無用と言いましたわ・・・
これは生理反応のようなものですわ。必ず、勝てますわ」
高性能のスキルを連続で使うと、身体に負担がかかり、反動として返ってくる。
スキルは授かりものだ。神託で神から貰う。
元々は神のものなので、使い過ぎると身体に負担が返ってくるというわけだ。
ミストルティアナの決意を見て、止めろと言える訳もなく、俺はミストルティアナを見守る。
「ミストルティアナ様、お体をご自愛下さい」
完全に首をミストルティアナに向けて言いつつ、三回低レートのコインで回してから数字の七の役を揃え、五十コインで最高報酬額を出すガスト。
これでミストルティアナの報酬額を抜いてガストの方が、報酬額が高くなった。
「む?」
ガストが差を離す為に続けてレバーを引こうとしたがレバーの根元部分が石になって引けなくなっていた。
「どうやらそれも反則ではないようですわね。
このまま私が制限時間一杯当て続ければ逆転ですわ。
これが私のこのゲームの必勝法ですわ!」
イリヤが応援はしてやりたいのだろうが、勝つための手段が姑息を通り越して卑怯なので、どうしたらいいのか困っていた。
「まぁ私はこのままミストルティアナ様の結果を拝見いたしましょう」
「ふふん、プレッシャーをかけたところで手元も目線も狂いませんわ!」
「えぇ私はそこを弄るつもりはありません」
「どういう意味かは分かりませんが、負け犬の遠吠えは恥ずかしいですことよ!」
血の涙を頬が伝うのも拭いもせずにミストルティアナは後半戦に差し掛かった勝負に意気込む。
しかし何枚入れても当たりが出ることはなかった。
スキルを使い過ぎたのか、それとも疲労か、絵柄を揃えられずにただただコインと時間を消費していく。
その現実にミストルティアナは表情を歪める。
ガストが何をしているのかを少しずつ理解してきた。
「ど、どうしてですの!?タイミングは合っているはずですのに!」
「運が大変よろしいはずですのに、おかしなこともあるようですね?」
ガストは自分、他人の運を操作している。
じゃんけん、チキンレース、スロットゲームどのゲームも運を操作し、自分の結果を著しく良くしている。
今回もそれを使っていたが、ゲーム自体を中断させられたので、ミストルティアナに対して運を操作している。
そう仮定すれば、納得は出来る。
「ふふふ、己の運を試してみては如何です?そうすれば当たる可能性もあるんじゃないですか?」
「私の運?そうですわね。私は私を信じます。
だから!このまま続行して当てさせていただきますわ!」
ガストから落胆する息遣いが聞えた。
まるでその息遣いは先見の明があったかのようであった。
制限時間まで回したミストルティアナは結局ガストの総報酬額には追いつけなかった。
「嘘ですわ・・・どうしてですの?」
お互いに不正は一切なかった。
正々堂々とは言えない勝負であったが、最終的の勝敗を決めたのは運であった。
「ミストルティアナ様は運を手放したのですよ。
あのまま運に身を任せておけば、勝機はもしかしたらありましたかもしれませんのに。
ですがエクスタシーを感じましたよ。また、やりましょう」
「申し訳ありませんわ。
酷い失態です・・・リヴェン様・・・お許しくださいまし」
ガストの声はミストルティアナには聞こえておらず、血の涙と、本当の涙を流しながら俺達に謝罪をした。
その謝罪の言葉を残して人形になってしまった。
「さて、お次はどなたが楽しませてくれるのでしょうか?」
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