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72:チキンレース

「ミストルティアナ、使わなくていい。ここは純粋にガストの提案に乗ろう」


 魔眼を使ってガストを石にしようとしていたミストルティアナを止める。


「よろしいのです?ここで石にしておけば屈服させることは出来ましてよ」


「俺を思ってくれているのは有難いけど、したくない事をさせないよ。

 これは仕事や使命じゃないからね。彼に勝てばいいだけの事さ。そうだろう?」


「えぇそうですとも。

 どんなギャンブル勝負でもお受けしましょう。

 カードゲーム、ダイスゲーム、ボードゲーム、なんでもござれですよ。

 勝てば約束はお守りします。それがこの部屋の誓約ですので」


 ガストは手の中からカードやダイスや駒を出して細長い仮面の奥で楽しそうに言う。


 まだ何か裏はあるが、それは俺に直接関係していると思う。そう直感が囁いている。


「よし、じゃあ俺がやろう」


「ちょい待って。わてにやらして」


 俺が備え付けてあった丸椅子から立ち上がろうとする前にウォンが先に立ち上がった。


「勝算がありまして?」


「まぁな。なぁレースで勝負せえへんか?」


「いいですね。使用するのは動物ですか?虫ですか?」


「いんや、これや」


 自信満々に答えて、革袋の中からウォンが取り出したのは、小さい玩具の四輪の車であった。


「これはわてらの田舎にある玩具でな。

 地面につけて、後ろへと引っ張ると中にある駆動装置に力が溜められて、離すと溜めた力が放たれて前進するって仕組みや。

 ほんでや、ある一定の場所、ここらへんやな。

 ここに線を引いて、この線を越えへんギリギリのレース勝負。所謂チキンレースで勝負や。どうや?」


 ウォンはウィンの負けを見て、対策を立てたようだった。

 ウィンとガストが使用したあの棒は恐らく魔力で表示されている。

 この部屋では魔力に関する者は自分に反転すると聞かされて納得した。


 あの棒は一度魔力を表示部分に送っているから表示されるのに遅延があった。

 それはちょっとの狂いなのだが、常人には分かり辛い。

 ならば魔力を使わないプルバック式の玩具で勝負するのは良い判断だ。


「チキンレース!いいでしょう!ではレース会場は私が用意させてもらいますね」


 元々ウォンが遊び慣れているチキンレースでガストには不利な条件だったが、快く勝負を受け入れた。


 ガストの背後から縦に長いレース会場である板が出現する。

 その板の長さは何故かウォンが指定した線までの長さと同じであった。


「ルールは一回勝負。線を玩具の前面が超えたら即負けや。

 とりあえずぶっつけ本番はあれやから、一回試走しとこか」


「よろしいのですか?」


「レース勝負は公平やないとな」


「なんと心の広いお方でしょうか。では、試しにやってみましょう」


 ガストが強く引くと、キリキリと玩具の中にあるゼンマイが音を立てて鳴り、指を離すと玩具は蓄えた力を発散して前進する。

 しかし引っ張りすぎたようで、線を越えて板から落下してしまう。


「おや、これは難しいですね」


「せやろな。わてらも慣らすまでえらい時間かかったわ」


 ウォンはガストが引っ張った手前の場所から引っ張って、板の終わりで手を離す。

 玩具は軽快な速度で発進し、徐々に速度を落として、線の少し手前で止まった。


「こんなもんか。

 さて、試走も終わったし、やろか。

 とりあえず先攻後攻決める為に、これ使わせてもらうで」


 試走でガストとの差を見せつけたウォンは自分のペースで進める。

 相手に試走をさせて余裕を与えるどころか、実力の差を見せつけるとはえげつないな。


 じゃんけんで使った棒を拾って、先攻後攻を決める二人。

 先攻はウォンで、後攻がガストになった。

 うむ、やはりあの棒は遅延がある。あれを使ったじゃんけん勝負はガストに軍配が上がるだろう。


 ウォンが俺にウィンクした。

 どうやらウォン自身もいくら自分のペースと土俵に持ち込んだとしても、ガストは一筋縄ではいかないとの思いがあるようで、次に勝負するであろう俺に相手の動向を探らせる機会を与えてくれるみたいだ。


「ほな、わてから幾で」


 クルクルとその場で何回も回転して天高く人差し指を掲げるウォン。

 成程、スキルは使えるから玩具をスキルで強化したのか。公平と言っておいて、自分はスキルを使うあたり卑怯・・・いや、勝つためには手段を択ばないのは好きだ。


 だが強化したことによって試走よりも力加減が違うんじゃないか?


 そう心配していたが杞憂に終わる。


 ウォンの走らせた玩具は軽く引いた程度でさっきと同じ速度で走り出し、そして前面を線の真ん中において停止した。


「どや?今なら降参してもええで」


「ほお!これは手厳しいですね。しかし降参はしませんよ」


 ガストが試走の時のウォンと同じ場所に玩具を置いた。

 その瞬間にウォンの顔から笑顔がこぼれる。

 相手を自分の思い通りにしてやったとの表情だ。

 試走であえて線を越えず踏まない安全な場所から発進させて、初心者であるガストに同じ行動をさせる企みか。


 ガストが板の最後まで引いてもほぼ線の手前で止まることを理解しているはずだ。


 最後まで引っ張り切って親指と人差し指を離す瞬間に中指で玩具を軽く弾いた。

 その補助効果のおかげか最高速度はウォンが放った時よりも早かった。

 これは落ちるだろうと、観戦者である俺達は思った。


 ウォンは笑顔から焦りの表情へと変わっていた。


 玩具はゆっくりと速度を緩めて、最終的に線のギリギリ、このチキンレースにおいての最高到達点で動きを止めた。


「まっじっか!ビギナーズラックにも程があるやろ!

 てか初心者で弾きの技思い付くとか才能在りすぎやろ!」


「はて?私、このチキンレースを初めてやると申し上げましたでしょうか?」


「なんやて?」


 ガストの発言に目を丸くして口を開ける。


「ウォン・ヴィーゼル様の故郷ガラサンド発祥の玩具キルキラを使ったチキンレース。

 本来のルールは二本勝負で二本行った際の最高到達点で勝負が決まるレースです。

 私が行った弾きの他にも、浮かしやら擦り付けと言った技術があり、それを行うことで勝負が様変わりするのが魅力ですね」


 ガストはチキンレースの全容はおろか、小技まで全て知っていた。

 その事にウォンは憤慨する。


「お前、騙し取ったんか!」


「騙す?勝手に騙されただけではないでしょうか?

 思い込みはギャンブルでは最も危険な行為ですよ。

 では、負債を払って抱きます」


 全ては初心者だと思い込んでしまったウォンの落ち度である。

 誰もが流れでそう思わされていたからウォンを責めることはできない。


「くっそう!後は任せたで!」


 ガストがパチンと指を鳴らすと、親指を立てていたウォンも同じように人形へと変化してしまう。


 試走の時にワザと初心者のように走らせ、ウォンの術中に嵌ったように見せかける。

 相手を思い通りに動かしている時は表情や声に現れやすいが、やはりガストはそんな隙を一切見せない。手強い相手だな。


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