70:天才
アマネは語る。
魔遺物について語る。
魔遺物とは魔族の魂を基盤とした魔術展開物である。
魔族の魂の中に基盤となる無垢なる遺物を取り入れる事で、魔遺物へと変貌を遂げる。
それはツィグバーツカ家の誰もが行ったのと同じらしい。
ミストルティアナは父を失った失望感で一時的に記憶を失い、正確にどうやって魔遺物に変化するのかを今、初めて知り、涙ぐんでいた。
イリヤのようなただの一般人には魔遺物は魔力が込められた遺物であると説明されているが、それは知っての通り表向きであり。
中央遺物協会員であれば、魔遺物がどうやって作られているかを知っている。
魔遺物の起源は勇者にあり、勇者が自身のスキルで作り上げた遺物を最初の実験体となった魔族に使った事で魔遺物は出来上がった。
最初の魔遺物とは魔力分配器であり、それがどの魔族の魂で出来上がったのかは未だに不明であるようだ。
アマネは末端の中央遺物協会員ではなく、バルディリス連邦の中枢で働く身であったにも関わらず、そこは知らないらしい。
現在作られた魔族は中央遺物協会員が管理しており、殆どの魔族は培養液の中で生まれ、魔遺物になって死んでいくようだ。
基盤となる遺物に魔術を書き込み、その基盤と同調できる魔族の魂と融合させたのが、核と呼ばれるもの。
よく魔力を注入すると光っている玉が核のようで、魔遺物を簡単に停止させたいなら核を破壊すればいい。
高価な魔遺物程核は中に隠れているらしい。
俺達が魔族である事もあるので、培養液の中から解放しても意思はないので、解放するだけ無駄と言われた。
大層な命令口調だったので、ミストルティアナに絞殺されそうになったのを俺が止めておいた。
生きる屍と化している魔族を導くのは確かに難しい。
だが、それでいいのだろうか?
それをあいつが許すのだろうか?と考えてしまう。
実際ウィンとウォンやモンドの祖先のように逃げ延びて暮らしている魔族がいるのだ。
まずはそちらから手を回す方が魔族を導く目的は達成しやすい。
俺はそう思う。
だが・・・やはり俺の中のもう一つの感情がそうさせてくれない。
この体になってから、あいつの思考が混ざったかのようだ。
俺の核はネロの方にある。
となると俺は何なんだ?
何故俺の意思があり、魔遺物として存在出来ているのだろうか?との哲学的な疑問は接続しているネロが答えてくれた。
分かってはいるが、俺とネロは一心同体であり、意志感情共に二人にあるのはリーチファルトの魔力と魔術の影響であるようだ。
一心同体なので核は一つで、核はチューブを通して俺からネロへ、ネロから俺へと移動することも可能のようだ。
まぁ今は動けるようになったネロに核を持っていてもらう方がいいだろう。
俺は何かと戦闘に巻き込まれるからね。
話を総括すると、魔族は人工的に生まれ、そこから魔遺物が生まれている。
そしてその生んでいる場所は各地にあるが、モンドが言っていた通りに、殆どがバルティリス連邦から輸出されている。
「嫌な話やな。つまりわいらのミキサーも誰かの魂っちゅうわけや」
「知らず知らずに同族の魂を使っていたってっちゅう訳か・・・」
「これが当たり前の世の中で情報統制されているんだし、仕方ないよ。
彼等を解放できないのなら、彼らの魂を侮辱しない為に存分に使うべきだ。
嫌なら、俺が食べてあげるよ。そうすれば同化したとも言えるでしょ」
石化から戻ったウィンと操縦しているウォンは声に覇気なく言うので俺が慰める。
「ふっ、弱きになったんちゃうねんで、驚いただけや。
魔遺物が何でもわいらはそれと付き合っていく」
「せやな。
魔遺物を使ってブラザーを手助けするんや。
そう決めたからな」
どうやら気を使わなくても良かったようだ。
「もしかして私も魔遺物になれば永久にリヴェン様と一つになれるのでは?
それって永遠の愛ではなくて?
エンゲージリングに自分の骨を使うって妄想もしていましたが、こちらの方が現実的ではなくて?」
「俺は肉体があるミストルティアナと一緒にいたいけどね」
「あうっ、それってつまり夜伽のお誘いですわよね!?ですわよね!?
あっ、貧血」
目を血走らせながら、興奮しすぎて鼻血を出してしまい、貧血になり、俺の膝へと倒れ伏せるミストルティアナ。
服が血で汚れていくが、いつでも治せるから気にしない。
「バンキッシュは何か思うところでもあった?」
黙っているバンキッシュに話を振ると、小さく首を振られた。
何か思うところがあったようで、ズケズケと訊いたら教えてくれそうだが、今度にしておこう。
「あのぉラージフォンは魔遺物なんですよね?
見たところ核が一つなんですが、どうやって複数の魔術を出しているんです?」
「あぁ、それね。
ラージフォンは魔遺物とは言っているけど、魔族を媒体としていない魔遺物なのよ。
ちょっと待ってね、ここをこうして開いて、んで、この配線を弄って、ボルトを緩めて、ほい取れた」
アマネが取り出したのは鮭の卵程の小さい球体であった。
「これがラージフォンの核なのね。
媒体は遺物なんですけど、この中に凝縮されているのは血なんですよ。
しかも人間のです。
沢山の人間の血が凝固しているんです。
それでこの配線や基盤を使って、指定したボタンを押して魔力をこの核へと送ると、指定された血だけが融解して魔術が発動されるって仕組みなんですよ。
凄くないですか!?
ねぇ!私天才じゃないですか!?
なのにあのくそったれの七三分けは魔遺物の概念が壊れるとか抜かしたんですよ。
それで中央遺物協会員の称号を剥奪するとかあっていい話ですか!?
絶対嫉妬ですよね!私の発想に嫉妬したんですよ!
あぁ!思い出しただけが腹が立ちますよ!
・・・って皆さんどうされたんですか?
あ、もしかして共感してくれました?ですよね、糞上司ですよね」
そこじゃない。
このアマネ・ラーゼフォン今何と言った?
血だと言ったな。しかもそれが魔族の血ではなく、人間の血だと言った。
「貴女は何人を犠牲にしたんですか?」
「犠牲?あ、いえいえいえいえ、誰も犠牲にしていないですよ。
この中にある血は全て献血にご協力くださいと嘘をついて魔術師の方々に頂いたものですから。
いやぁ皆さんお優しい方々でしたよ。
私が元中央協会員だと知った瞬間に石を投げられたりしましたけどね・・・
あれ?おかしいな、何で涙が・・・」
「つまり君は魔術師の血を使って、新たに魔遺物を創造したってことかい?」
「そうなりますね。
魔族×遺物ではなく、人族×遺物ですので人遺物とかになるんですかね?なんか語呂悪いですね。 でもでもこれを認めてもらえなかったんですよ。
イリヤちゃんはこれの凄さが分かりますよね!?ね!?」
「す、凄いってものじゃないですよ!
どうやったんですか!どうやって血から魔術を生成しているんですか!?
どうやって血の中にある魔術の成分を見分けているんですか!
どうやって固定の魔術だけを呼び出せるんですか!?」
「うぉぉ、凄い熱量での食いつきよう。
まず魔族を育てる培養液を盗さ――複製したんですね。
その培養液に人間の血液を付けると、何かしらの反応が起こるようにしたんです。
例えば、火のような魔術を使うなら赤色に変わるとか。
それでどんな魔術が使えるかを判断する訳なのですよ。
魔獣の血の中に魔力があることから、人間の血の中にも魔力があることは分り切っている事です。 ここは正直専門的な話になるので割愛して、天才の私が作り出したこの魔術を分析し、特定の信号で融解と凝固をする基盤、それとこの魔術を排出するための配線。
あとは市販の魔力容量器をちょちょいっと改造して取り付けるだけで完成!
てな感じです」
認めよう。アマネは天才だ。
物作りに関しては天才だと言えよう。
ただ純粋に自分の興味があるものを作り出しただけだ。
だが、その作り上げた物はアマネの元上司とやらが言うように、世界の在り方を変えてしまう代物だ。
俺はこの女から魔遺物に関して全て吐き出させるだけでよかったが、イリヤのおかげで思わぬ収穫を得られた。だから掌を返したように営業笑顔を作り上げる。
「君は凄い。どうして認められないのか俺には甚だ理解できないね」
俺は拍手をしながらアマネを褒める。
するとアマネは調子に乗って満面の笑みになる。
「ですよね!ですよね!
世間様は私を馬鹿にするんですよ。
やれお高いだとか、やれ粗大ゴミだとか、やれ働けとか、やれ神を侮辱するなとか。
もう本当に何だって言うんですかね」
「そうだね。俺は認めるよ。
君の行いも全てね。だからさ、俺達の手伝いをしない?」
「お手伝いですか?え?それって犯罪とかですか?いや無理ですよ。
私ができるのはグレーなところまでです」
どの口がグレーまでと言っているのかは知らないが、ツッコミを入れずに続ける。
「じゃあ大丈夫だ。真っ白だからさ。ちゃんと報酬は払うよ」
アマネの手をそっととり、手に金貨十枚を握らせる。
「これはほんの一部。
仕事に見合った報酬は必ず渡す。
魔遺物の部品が足りないなら援助もする。
君が魔術師に狙われるなら保護もする。
君の創りたいものを創ればいい」
「いいんで――」
「但し、創ったものは俺達に譲渡し、製作工程は全て機密にしてもらう。
もちろん俺達の事もね。
もしもそれが守れない場合は、口で言わなくてもいいかな?あまり言いたくないんだ、そういうこと」
バンキッシュに目配せすると、アマネはその視線を追って、背筋を凍り付かせた。
一番人を目線だけで殺せそうなのがバンキッシュだったので、視線移動させたんだけど、俺の考えを推察してくれたのか、殺気が宿った目つきを向けていた。
「は、はひ。ぜ、是非お手伝いさせていただきまふ」
目で射殺されたか、震えた口で返事をしてくれた。
これで口頭での契約は成立だろう。アマネは俺達との契約者となり、保護対象となった。
「もう!どうしてそう脅して勝手に決めるんですか!」
「イリヤはアマネと仲良くなりたくないの?」
「もっとお話が聞きたいですけど、良くないです!
もっと相手を尊重しないと駄目です!アマネさんは天才なんですよ!」
「それは俺も認めているよ。
ただこういうのは立場をハッキリさせておかないといけないんだよ。
イリヤも覚えておいた方がいい」
「そ、そういうものなんです?」
「そ、そうだよイリヤちゃん。
社会って言うのは残酷なんだよ。
それに私は大丈夫だよ。初めて私を認めてくれた人達が目の前にいるんですもの。
甘言だと言われようが、私の作った物の良さを分かち合える人がいるんですよ。
その人達を蔑ろには流石にできません。出来ませんよ!」
「ア、アマネさん・・・」
力強く拳を握って俺達の手伝いを快諾してくれたアマネに感銘を受けるイリヤ。
だがアマネの本性は下卑たるものだということは、俺は初めからつくづく理解していた。
「ですので、お祝いにお酒を貰えませんか?」
「おぉ!ええな!鼻血ぶー子のミスティ!酒!」
宿を取る為の村に着くまで、ウィンとアマネは石になったままであった。
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