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69:ここが神がかっています

「ということがあったんだよ」


 エルゴンへ向かう馬車内で昨日の話をあの場にいなかった者たちにする。


「災難でしたね。師範と戦って息災で何よりです」


「リヴェン様が負けるはずないですわ!

 今度そいつらが私の目の間に現れたらぎったんぎったんにしてやりますわ!」


「ミスティは燃やされてかば焼きになってまうで」


「んな!貴方も焼けば同じですわよ!ご理解なさって!」


 俺の隣にべったりといるミストルティアナは御者席にいるウォンへと長い舌を出して元気よく反論していた。

 ミストルティアナの反対隣りにはスリープモードのネロを膝に乗せたバンキッシュが座っていて、窮屈であった。

 特にミストルティアナの下半身が太いので窮屈差が大きい。


 対面にはイリヤとウィンが座っていて、イリヤはウィンから手信号を教えてもらっていたのだが、馬車の後方から聞こえる声に流石に心配になってきたのか、チラチラと気にしていた。


 馬車の後方で外へと顔を出してえずいている者が一人。


「おええええええ。

 なんですか、二日酔いにこの揺れは反則ですよ。

 それに金切り声が頭に響くんですよ。

 何なんですか、拷問ですかこれ。

 いや拷問されたことないですけど、それ程の仕打ちですよ。

 うっぷ、おえええええええ」


 アマネ・ラーゼフォンがシスター服姿で道に胃液をぶちまけていた。


 俺達が合流地点に辿り着き、荷物の中身を確認していると、何故かアマネが荷物の間に挟まって寝ていた。

 一向に擦っても、叩いても起きなかったので連れてきてしまった。


 村へ帰ってキヤナ達と鉢合わせしたら、せっかくの決闘が台無しになる。

 その場に放置はイリヤが許してくれないし、起きるまで乗せて、近くの村へ捨てるという意見で合致した。


 が、アマネが起きたのは近く村をニ、三個過ぎた昼過ぎであった。

 しかも起きてからはずっとこの調子である。


「あの、お水です」


「あ、ありがとう。イリヤちゃん」


 見かねたイリヤはラージフォンを使ってコップに水を出して、背中を擦すりながら渡した。


 アマネは受け取って一気に飲み干した。

 二日酔いを治してやってもいいが、イリヤに高値で意味の分からない物を売りつけた事を根に持っているので治してやらない。


「あー幾分か中和される~身体に染み渡る~」


 胃液か水か分からない口から垂れる液体を服の袖でゴシゴシと拭いてから、ウィンの隣へと腰を落とした。


「で、なんで私ここにいるんですかね?」


「知りませんわよ!

 貴女が太々しくも積み荷の間で寝こけていたんですわよ!?

 この風呂敷を持って!」


 ミストルティアナはアマネが大事に抱きしめて寝ていた風呂敷を突き出すと、中からラージフォンが幾つも落ちてきた。

 確かこれ一つしかないとか言っていたよな?


「え?なんで脚が蛇なんですか?怖っ!?

 え?え?半獣?いやいや、魔族!?えぇ!どうして外に魔族が!?」


 風呂敷をミストルティアナから受け取る前にラージフォンを拾い、下を向いたところで下半身が蛇である事に気付いた。

 むしろ今まで気が付かなかったのかと言ってやりたいが、アマネとは他の皆にやり取りさせておこう。


「魔族で何が悪いんですの、石にしますわよ」


「ひぃ!止めて食べないで!酒に浸された肉ですよ、美味しくないですよ」


 人間の肉は酒に浸して食べるのが魔族間では普通なのを知っての発言だろうか。


「まぁまぁミスティ。

 ミスティは黙ってたら綺麗やから黙っとき。わいに任・・・」


 ウィンが喋っている途中で石になった。


「今のは兄ちゃんが悪いわ。身内として謝るわ。

 ミスティ、ごめんな」


「いいのですわ。暫くは凝り固まって貰いますけど」


「ギャアアア!人が!石に!私も!石に!される!?

 あばばばばば、逃げないと。今すぐこの場から脱出しないと殺される!

 てか隣にいるのバンキッシュ・フォン・キャスタインじゃない?うええ?死んだって?え?幽霊?怖い!幽霊怖い!オーレ様助けて、三角十字毎日きるから助けて!

 ううん?その隣にいる男性って最近王国にでたヤバイ人では?人相書きとそっくりなんですけど?目の錯覚ですか?殺されますか?」


 酔いが醒めたか色々な事に気付き始める。

 バンキッシュが仮面をしていないのはバレても口封じする自信があるかららしい。

 幽霊よりも現実的で怖いね。


「お、落ち着いてください。誰もアマネさんを殺しませんよ。

 そんな行いは誰もしませんから、ですよね、皆さん」


 そうは言うもミストルティアナはいつでも石化できると言わんばかりにふんと鼻を鳴らし、バンキッシュは人間の屑を見るかのような冷たい瞳でアマネを見つめている。

 皆俺の事も好きだけど、イリヤの事も好きだからな。手を出した相手が悪い。


「うぅイリヤちゃん。

 イリヤちゃんがこの人達をまとめている影の頭目なんですね。

 ごめんなさい。質の悪いラージフォンを無理やり売りつけてごめんなさい。

 お詫びに改良いたしますから、見逃してください、殺さないでください」


 大の大人が惨めにも少女であるイリヤの前で跪いて頭を下げて懇願する。

 それをシスターがやっている辺り見た目のインパクトが物凄く酷い。


「これで粗悪品なんですか?

 確かに魔力供給機関が薄いですけど、それ以外は画期的で魔遺物の在り方を変える代物ですよ。自信もってください!」


「イ、イリヤちゃん、見ただけで解るの?」


「内部までは分りませんが、ここの構造と魔遺物の仕様から供給機関が薄いと判断しただけですよ。 それよりも、こことか、こことか、凄いですよ!こんな接続の仕方があるんですね!」


 ラージフォンを取り出して自分が凄いと思っている部分を指差して無邪気に笑顔でアマネを褒める。


「えぇ!凄いじゃないですか!

 じゃあここの構造とかも分かっちゃうんです!?」


「はい!ここの神がかってる構造とか、最初観た時鳥肌が立ちましたよ!

 アマネさんを師匠と呼んでいいですか!?」


「いやいや師匠だなんて、私はまだまだですよ。

 それよりもイリヤちゃんのような子が魔遺物に対して造詣が深い事に私、感動を覚えていますよ! 知りたいこと何でも聞いてください、教えますから!」


「その魔遺物が凄い事は分りましたから、どうして貴女がここにいるのか思い出したのではなくて?」


 二人の魔遺物談議に花が咲いて止まらないので、水を差そうと思っていたところでミストルティアナが発言した。

 これだけ流暢に話していて、イリヤのおかげで警戒心も解けたので記憶が戻っているはずだろう。


「は、はい。思い出しました。

 私の家系ってルドウィン教会に仕えているんですね。

 それで私も仕事を辞めてからは実家の手伝いをしていまして、しかして神に仕えるのってかなりストレスが溜まるんですね。

 だからちょっとだけお酒を飲んだり、煙草を吸ったりとしていたら、ついにパパの堪忍袋の緒が切れまして、巡業の旅へと無理矢理旅立たされたんですよ。

 それが荷物です。

 酷くないですか!?可愛い一人娘を悪鬼羅刹が有象無象といる外界へと身一つで旅立たせるんですよ!?」


「貴女の経緯は分りましたわ。それでどうして馬車内に?」


「そ、それはですね・・・

 路銀すらないので荷物として紛れ込んだんですよね・・・

 当時酔っていましたし、思考回路が鈍っていたんですよね、あはは~」


 笑って誤魔化すアマネに全員がイラつきを隠せていなかった。


「やっぱり石にして捨てません?」


 ミストルティアナの提案にはイリヤ以外頷こうとした。


「わー!すみませんすみません許してください、何でもしますから!」


 目の前で石にされたウィンがいる恐怖があるとしても、咄嗟に土下座するのは身体に沁みついているからだろうか?


「何でもするの?」


 ミストルティアナが息を吸って否定的な発言をしようとする前に俺が割って入る。


「はい!何でもします!

 掃除、炊事、洗濯、全部できませんが何でもします!」


「そこら辺は間に合っているよ」


「か、身体ですか!?

 うぅ、シスターですから清い身体ですが、勘弁願いたいです・・・」


「だぁれが貴女のような下品な女の身体をリヴェン様が求めますか!

 自意識過剰も程々になさいな!殺しますわよ!」


「ひぃ!すみません!麦酒腹の私が烏滸がましかったです!

 でも食べないでください。生かす方向で話を進めてください!」


「返答次第では生死には関わらないから、安心してよ。

 君にはちょっと聞きたいことがあるだけだから」


「は、はひ。何でも話ます」


 軽めの脅しをすると涙目で何度も頷くアマネの表情を見ていると被虐心が高まるのであった。

 それを少し抑えつつ訊ねる。


「じゃあ君が知っている魔遺物の常識について話してくれるかな?」


感想、評価等々お待ちしております。生きる糧になります。

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