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68:スイッチ

「イリヤ、離れ――」


 ゾウンから目を離さずイリヤに声をかけた。

 目は離していなかった、バッチリと目と目が合っていた。

 大事なのは身体の反応速度であった。


 ゾウンが足元を弾力のある地面へと変え、地面が隆起して反発力と射出力が相乗し、俺の反応速度を超える速さで突進される。

 その威力は拳打や殴打とは比べ物にはならない。

 突進された一点から衝撃が波のように伝わり、半不死身のこの身体を呪いたくような鈍痛爪先から臓器全てに回りまわる。


 壊れた部位は修復するが、痛みが付きまとう。

 治せば痛みは無くなるはずだ。

 このスパイク部分はバンキッシュが使っていたあの針と同じ仕組みか。


 突進の一撃をくらって立ち上がると、イリヤ達は肉眼では点としてか捉えられない程離れていた。 幸い俺の後ろにいたイリヤはスキルの影響で避けられていた。


 熱分布望遠図で確認すると、立ち上がったせいかゾウンがこちらへと追撃を始めるところだった。


 目の前が白に染まる。


 それは攻撃されたからではなく、物凄い熱量が現れたからである。


 肉眼へと戻ると、何重もの炎の壁が俺の前に出来上がっていた。

 キヤナが時間を稼いでくれているようだが、逆に俺の視界を塞いでいる。それが目的か?


「下です!」


 精一杯声を張ったイリヤの忠告が平原に響く。

 おかげで魔力感知の間から抜けてくるゾウンの攻撃を対処できた。


 キヤナの炎の壁はゾウンの攻撃方向を制限する為か。


 地面の中からゾウンが現れて、俺の脚を掴もうとしてきたので、飛び上がって既に踵落としを繰り出している。

 ゾウンの脳天に削岩機を起動した踵落としを直撃させようとするが、伸ばした腕で防御される。


 このまま削り取ってやるとの意気込みで振り落としたものの、元の魔遺物がしょぼいので、魔術を纏った装甲を削り取るのが限界であり、下の身体までは攻撃が通らなかった。


 ゾウンが防いだ腕が薙ぎ払われて空中へと投げ出される。


 腕を振り払っただけで吹っ飛ばされるのかー、体格差って怖いなぁ。


 そこで初めてゾウンの型を確認した。

 脚を肩幅に広げて両手の拳を胸の前でくっつける型。

 両手を俺へと突き出すと、土で出来た捻じれたドリル型削岩機のような魔術が出来上がり、それを放ってきた。


 あれにあたれば身体がミンチにされるな。


「癪っすけど、責任追及されるの嫌っすから」


 紫煙が周りに湧き出して、その煙から声がしたと思えば、身体を引っ張られる。

 ドリルは直撃する軌道から逸れた、はずだったが、ゾウンが操作したのか、引っ張られた方向へと軌道を変える。


「ダイガイン先輩、こんな緻密な操作できたんす、ね!」


 ペコリソを巻き込んでドリルは俺へと直撃する。

 ペコリソがドリルの回転方向と同じように煙のまま回転して回転力と威力を軽減してくれたことによってドリルは受け止められた。


「やるっすね」


 空中でペコリソが作り上げた形ある雲のような紫煙に乗る。

 下にいるゾウンは魔術を撃つことなく、こちらを見ているだけだ。


「褒めてくれるのはいいけど、どうやって止めるかを教えてくれるかな?」


「知らないっすよ。師範が負けるなんて大会でしかないっすから」


 魔術師が秘かに開いている大会があり、その大会では自分達の研鑽の成果を披露する場のようで。 まぁどうでもいいか。


 キヤナはこっちに来る気配もないので、本当の意味で助けるつもりもないようだ。

 そもそもどうやって止めるかを言わなかったり、逃げた場合にどうなるかを言わなかったあたり、まだ俺は試されているのだ。

 何が起こるか分からない為に、逃げる訳にもいかず、結局自分で止める方法を見つけるしかないようだ。


「どうして君は直接助けてくれるんだい?」


「別に善意じゃないっすよ。

 いつもイライラさせる発言する先輩を合法的に攻撃できるなんて最高じゃないっすか。

 顔面に一発入れれば気分爽快っすよ」


 ペコリソは師範の中でもヒエラルキーは下の方であり、魔術教会という上下関係がハッキリとしている組織ではストレスを溜める性格だろう。

 俺もそうだったから共感はできるし、嫌な上司には嫌がらせで実務で出た責任を覆いかぶせていたしな。

 主にシークォにしわ寄せが行っていたが。


「成程ね。確かにそうだ」


「・・・私のスイッチは左肩にあるっすよ」


 魔力感知で確認すると、左肩にだけとても小さな魔力の塊を感知できた。

 これは魔術を使用されたり、六派大行を使われると見つけるのは困難だ。


「なんで?どうして?とかは聞かないよ。

 俺は既にゾウンに勝利した。見逃して貰える権利がある。

 だがこの状況では見逃せないからキヤナの言葉通り手伝った。

 しかし君はキヤナが一人勝ちするのをよく思っていない。そういう人間だろう?」


 ペコリソが心の中で思い描いている事を述べてやると、誰もがする、気持ち悪い人間をみる冷ややかな目をして言った。


「あんたもイラつくっすよ」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 ゾウンを観察し終わり、スイッチと呼ばれる魔力の塊を丹田に発見する。


「君は離れて良いよ。巻き込んじゃうから」


「そうっすか。

 じゃあ一発殴ってから離れるんで、それで止められるなら止めてください」


「どうぞ、どうぞ、レディファーストだね」


「都合の良いレディファーストっすね!」


 足元にあった紫煙が消える共に、ペコリソはゾウンの前へと移動して顔面を殴りぬける。

 おかげでゾウンの顔の角度が少し変わって、俺を見失った。


 その瞬間に新たにウィンから入手した蓄音器型魔遺物を起動して、元々入っていた音楽を流す。

 流れてくる曲は俺と波長が合う曲にしてもらっておいたので、イントロから効果は発揮される。


 ペコリソは空中の至る所に足場になる紫煙を残してくれていたので、それを使って降下速度を速める。


 魔王の一撃は連発して打てるような魔術じゃない。

 限度としてネロと接続するまでに一回だけとしている。

 さもなければ頭の回路がやられてしまう。頭の負担は魔分子修復では治りが遅いし、連戦となると拘束される可能性もある。


 ゾウンが再びドリル型の魔術を作り出して撃った。

 狼人化し、錐揉みしてその魔術を紅蓮刃で断ち切る。


 次の瞬間にゾウンの周りに火柱が立ち昇って視界と行動共に制限される。

 あぁ、もう観察は終了したから、ゾウンは用済みのようだ。


 足の裏に削岩機を起動して、火柱を突き破ってゾウンの丹田へと打ち込む。

 ウィンの鼓吹の効果もあり、装甲を貫通して削岩機が丹田を抉る。

 その中に溜まった魔力塊が身体を修復する為に身体全体へと分散していった。


 分散したことによってゾウンの装甲は剥がれ落ち、今度こそ地へと倒れ伏せる。

 しかし地につく前にペコリソの紫煙魔術で受け止められた。


「本当に止められるんすね。

 あんた本当に何者っすか?人間は辞めているってのは間違いないっすけど」


「今は何者でもないよ。

 その内嫌でも何者かになっているだろうけど」


「お怪我はありまへんか?」


 イリヤとウィンを連れてキヤナがやってくる。


「見ての通りだよ。じゃあ俺達は行くから。

 まさか約束を破る訳ないよね?」


「追わへんよ。ね、ラリリンちゃん」


「追おうにも怪我人二人を放って行けないっすからね」


 呆れた様子のペコリソを一瞥してからキヤナは俺に向き直る。


「リヴェンはんは、ほんませっかちやね。

 それともなんや、ウチの事が嫌いどす?」


「嫌いかどうかと言われると、好きでもなく、嫌いでもない。普通だよ」


「あら好感触やね」


「そうだね。

 そうだ、ハッキリしたことがあるよ」


「なんやろ、聞かせてもろてもええ?」


「君とは一生分かり合えない」


 言い切るとキヤナは何も言葉を返さなかった。

 俺は三人に背を向けて、村の馬車置き場へと戻る為に歩み始める。

 イリヤとウィンがキヤナに別れの挨拶を告げてから遅れて合流した。




「けったいなお人やなぁ。ウチと分かり合えへんやって」


 平原に残された三人は月明かりでも見えなくなる程までリヴェンを見送ってから言葉を交わす。


「そうっすね」


「胸の辺りがこそばなってるわ。なんやろね。

 ねぇラリリンちゃん、この気持ちなんやと思う?ウチは恋やと思うねん」


 ペコリソはそれが恋のような甘く暖かな感情ではなく、病的な呪いの感情である事を旧知の友かのように知っていた。


 ただ答えを口に出せる程、空気を読めないこの意識を失っている男とは違うので、はぐらかすのであった。


「そうだといいっすね」


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