64:このシスターに天罰を
「かーっ、一仕事の後の酒は格別ですね!叔父さん!もう一杯!」
「アマネちゃん、その格好でお酒を飲むのはよくないよ」
「いいのいいの、これがオーレ様の思し召しなの。
私の身体を通してオーレ様がお酒を飲んでいるの。だからいいのぉ」
アマネ・ラーゼフォンは現ルドウィン教会のシスターであり、元中央遺物協会委員であった。
シスターとしての勤務態度は下卑たるもので、禁止事項を尽く破り、酒は飲むは、煙草は吸うわ、金は集り、それらを主神オーレの名を語り、言い訳付けにするのであった。
すっかり出来上がりつつあるアマネに酒場の店主は麦酒を追加する。
「そんなに飲んでるけど、今日はツケは払えるの?
また神父様にツケの話をするのは心が痛むんだけど」
「ツケ?いくらでした?」
「金貨二枚分」
「そーですか、そーですか。どうぞどうぞ。
金貨二枚くらい差し上げますよ」
財布の中から金貨二枚を取り出して、カウンター席のテーブルに置いた。
「泥棒はよくないよ?自首なら付き合ってあげるよ?」
「何でそう思うんですか、流石の私も人から物を奪うって事はしませんよ。
これはラージフォンが売れたんですよ。しかも金貨十枚ですよ」
「そうやって粗大ゴミを人に押し売りするのも良くないよ?」
「粗大ゴミって何ですか、列記とした聖遺物ですよ。
かなーり実用性に溢れていることは、前にご紹介しましたよね?ねぇ?」
ラージフォンとはアマネがイリヤに売りつけた魔遺物である。
アマネは聖遺物と言い張っているが、列記とした魔遺物である。
複数の魔遺物を分解し、機能としてある部分をアマネが開発した魔遺物の中に詰め込み、簡易的な数字を呪文とし、中で魔術として処理することによって、複数の魔遺物の機能が使えるようになっている。
ただ欠点として。
「だってあれ、使用魔力量が高すぎてすぐ使えなくなるんだもの、市販の魔遺物を購入していた方がマシだよ」
「ぐっ、魔力容量増大はお高いし、創りにくいんですよ。
私だって、それくらい理解していますよ。
本当は皆さんの生活の基盤を楽にするために、もっと改良を重ねて生産したいんですよ。
でも世界はそれを許してくれないんですよ!
分かります!?分かりませんよね!?」
机をバンバンと叩きながら自論を展開するも。
「いやいやアマネちゃんは自分が作りたいから作っているんでしょ?
そうやって他人様やオーレ様を言い訳にするのは良くないよ?」
かくいう店主もルドウィン教会の信者であり、アマネの行動には信者として目を瞑るのが限界の時は、この村の教会の神父であるアマネの父に告げ口をしてしまうのであった。
「何ですか、何ですか!
私が悪いって言うんですか!
このお金だって正当な対価だと言ってイリヤちゃんって言う赤毛の似合う可愛い少女から頂いたんですよ!
それにですね、私みたいな太い客を蔑ろにすると痛い目見ますよ!」
「太い客はツケに金貨二枚も溜めません。
というか、年端のいかない少女に売りつけるのは流石に修道士様に報告させてもらうね」
「いやーパパに報告はいやー。
見逃してー、キヤナ・アウトバーンは見逃してくれたよー、叔父さんも見逃してー」
叔父である店主に抱き着いて媚を売るアマネの両脇に二人の男女が詰め寄った。
「あぁ、ごめんなさいねお客さん。この娘、静かにさせますから」
「物騒な事言わないでよ!
酒場ですよ?上品なバーじゃないんですよ!?
楽しく飲んで何が悪いんですか!
どうせお客さん少ないじゃないですかー!」
「コラ!アマネちゃん!」
お客とお店を蔑ろにするアマネを店主が叱ると、女性がニコニコと笑いながら店主を諭した。
「いいんすよ、いいんすよ、シスターさんの言う通りです。
飲むには楽しくですよ。
ね、先輩」
「俺は一人で飲みたい」
「かーっ先輩空気読んでくださいよ、だからその歳でも独り身なんですよ」
「俺は一人が好きだからな。ここ二日はお前が邪魔で仕方なかったぞ」
「はは、先輩のその歯に衣着せぬ物言い嫌いじゃないっすよ。
殺意が湧いてきます」
雰囲気が悪くなった二人の間にいるアマネはすっかりと酔いが醒めてしまった。
そのせいで両脇の二人が誰だかを理解してしまった。
元中央遺物協会員当時、勤務先が魔術教会の強襲に遭うことが度々あった。
ハクザ・ウォーカー一人に協会の施設が全壊させられた時はオーレ様のお迎えが来る幻覚が見えた。
次点でキヤナ・アウトバーンに捕まった時。この時は美しい天使が天から降りてきて、自分を攫おうとした。
そしてゾウン・ダイガインに頭を砕かれそうになった時である。
男は忘れられるはずもなく、ゾウン・ダイガインであり、もう一人は協会を辞める前に要注意人物リストに追加されていたペコリソ・ラリリン。
今日一日で魔術教会の師範三人と出会い、トラウマが沸々と思い出され、身体中から冷や汗が湧き出て、今すぐこの場から離れたくなり、トイレを言い訳に立ち上がろうとする。
「で、ですよ。
その赤い髪の少女のお話、ちょーっと聞きたいんっすけど、いいっすかね?
無論、今夜は我々の奢りっすよ。
楽しい飲みになりそうっすね。シスターアマネ」
行動する前に逃げ場を失ってしまい、断れる勇気も裁量もなく、アマネは味のしない酒を飲みつつ、頷くだけであった。
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