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61:イリヤ一人立ちします

 四日ぶりに地上に出るてまずしたことは、魔窟内とは違う森林浴を体感できる空気を目一杯吸いながら、太陽光を浴びつつ背伸びであった。


 エルゴンへと行くには先ずは身支度が必要である。

 補修作業や、難民受け入れをしているヨーグジャ内で購入し、お金を落とすのもありだが、半日歩いたところにある、小さな村へと買い出しへと向かうことにした。


「買い出しやったらわい一人でも行けたけどな」


「わ、私は、森の外はちょっと怖いです」


「まぁイリヤの社会授業だと思ってさ」


 買い出しメンバーは俺とウィンとイリヤの三人。残りの三人と一体はツィグバーツカ家で居残り。


 ウィンとウォンとバンキッシュに行かせるのが最も安全なのだが。

 まだ王国と隠者の森しか行き来していないし、外の世界をもうちょっと知るべきであるのである。 俺が!


 それに今日は約束から一週間後の日なので、ヨーグジャにも寄っておかないといけないので、この三人となった。


 ドズには既にヨーグジャにガラルド達が来れば難民として受け入れてくれるよう、契約書をチラつかせて頼んでおいた。

 苦い顔しながら受け入れてはくれたけど、果たして、本当に受け入れているかどうかが分からないので、確認しに行く為にも地上へとやってきたのだ。


 独自に開拓したツィグバーツカ家と隠者の森の入り口は砦からみて裏手にあり、ヨーグジャの集落へと入るにはドズや数人しか知らない裏口から入ることになる。

 その裏口に入るにはイリヤの指紋と眼球認証が必要だ。

 俺は指紋も眼球認証も反応しなかった。


 イリヤの脇を掴んで持ち上げてやり、指紋認証と眼球認証を終えて、集落の中に入って行く。

 子ども扱いしないでくださいって言われるかと思ったけど、目の前の物珍しい魔遺物のおかげで満更でもなさそうであった。


「ん?あんた達か」


 最初に出会ったのは砦の裏にある畑を耕していたジャガロニであった。

 どうやらまだサマティッシは回復していないようだ。


「やぁこんにちは。何作ってるの?」


「こんにちはです」


「こんちゃー」


「もうこんにちはの時間か。

 どこかの魔術師が踏み荒らしたらしく、畑は無茶苦茶だったからな。

 見ていられなくなって勝手に耕しているだけなんだ。

 もしかしたら要らない世話かもしれないな」


 ずっとサマティッシの看病をしていたのだろうか、少し顔色が悪い。

 こうして気分転換しつつ、身体を動かしているならば、まだ心配はないだろう。


「これまだ作りかけの新曲やけど一応ヒーリング効果目的で作ってん。

 あの兄ちゃんにも聴かしてあげて」


 ここ数日暇な時間に与えられた部屋で作っていたレコード盤をジャガロニ渡すウィン。

 彼等の音楽は魔力が籠っているからこそ、波長が合えば、その音楽に通じた効果を得ることができるらしい。


「あぁあんた達の曲は好きだ。昔を思い出す」


 ジャガロニは微笑んで、レコード盤を受け取る。


「ドズは砦にいるかな?」


「朝はいた。今はわからないな。

 今日はユジャが門番だから聞いてみるといい。あんたには頭が上がらないだろうからな」


「そうするよ。じゃあまたね」


「ほな!養生しぃや」


「失礼します」


 流石に砦に勝手に入る権限はない。

 許されたのはヨーグジャ集落への出入りと、複数施設の使用許可。

 工場見学は監視付きでないとさせてもらえない。


 ユジャは不幸にもハクザ・ウォーカーに顔面を爆破させられて、見るも無残な顔になっていたので、俺が治してあげた。

 だから悪態を突こうにもつけない、何とも楽しい間柄になった。


「やぁユジャ、ドズはいるかな?」


 しかし俺の顔を見て不快を顕わにする。


「族長は砦にはいない。何の用だ?」


「ガラルド達が来ているはずなんだけど」


「あぁ、そいつらが来たから族長はいないんだよ。

 居住区にいるから、案内してやるよ。ちょっと待ってろ」


「・・・・男のツンデレはちょっとなぁ」


 聞こえるようにボソリと言うと舌打ちされた。


 ユジャの案内で居住区までやってくると、人だかりが出来ていた。


「だから言ってるだろ!

 あいつらは、今は魔窟に住んでる。

 こちらから連絡を取り用がないんだよ!」


「お前の虚言は嫌と言うほど聞いてきた!さっさと本当の事を言え!」


 どうやらドズとガラルドが言い争っているようだった。

 人だかりをユジャが割ってくれて、中心への道ができる。


「ガラ爺!ドズさんを悪く言わないで!」


 そこへイリヤが入って行き、ガラルド達は目を丸くする。

 本当にドズの事をこれっぽちも信用していなかったようだった。

 一体何があったのかは気になるが、蜂の巣を突っつく趣味はない。

 碌なことにはならないのは知っている。

 だけど好奇心が勝ってしまうのが性ってものだ。


「お前達、生きてたのか!?」


「無事なのはお互い様だね」


 イリヤがナゴに抱き着いて、ナゴもイリヤを抱擁する。

 そんな様を見つつ二人足りないのを不思議に思う。


「ダントとベランは?」


 その事に気が付いたイリヤが質問する。


「安心しなさい、あいつらとは今は別行動中だ」


 優しく諭しながらガラルドが言うと、イリヤは言葉を鵜呑みにした。

 嘘はついていないようなので、俺も信じておく。


「何か言う事はねぇのか?」


「ねぇな。お前には随分してやられたからな」


 二人の間に火花が散る様に視線がぶつかり合う。

 そんな一触即発の雰囲気を壊したのはウィンであった。


「わいの歌を聞けや!」


 と、いつの間にDJミキサーを起動して、マイクを握っていた。

 ウィンの音楽のおかげで危険な空気は緩和された。

 ついでに波長のあった人達は元気になったようで、一石二鳥だ。


 曲が終わるとドズはユジャと共に砦へと帰っていた。


 住民にアンコールをせがまれるウィンを置いて、ガラルド達の借りの居住地となる家で話をすることにした。


 まず最初の話題はこれであった。


「イリヤはガラルド達と住むんだよね?」


「え?」


 いくら人間が過ごし易いからと言っても、魔窟にずっと住まうのは人として卑屈すぎる。

 まだ幼く、世界を知らないイリヤには窮屈だ。

 あそこは日陰者が住まうのが一番いい。


 イリヤ自身も俺達と暮らすか、家族であるガラルド達と暮らすかの決心はついていないらしい。

 急な現実的な選択に答えは無く、目を泳がせるだけであった。


「あぁ、その話だが、こいつと話し合って決めた。

 イリヤ、お前はこれから自由だ。

 森の外に出てもいい。

 魔窟探索に行ってもいい。

 何をしてもいい。全てお前が決めなさい。

 いつまでも俺達がお前を縛っているのも良くないからな」


「え、え?えぇ?」


 唐突な回答を得てイリヤの思考は追いつていないようだ。

 追いつくまで俺がフォローしておこう。


「急に過保護じゃなくなるんだね」


「まぁな」


「えっと・・・それは・・・勘当というやつです?」


 イリヤの言葉に俺は噴き出してしまう。


「ちげぇよ。

 帰る場所はここでもあるし、そいつのとこでもあるんだろ。

 お前には人と人の繋がりを極力断ってきた。

 さっきだってドズの野郎を庇うなんて一ヵ月前では思ってもいなかったしな。

 お前が決めるんだ。

 お前が責任を持って、選択していいんだ。

 誰の許しもいらない。お前が決められるんだ」


 ガラルド達はイリヤに一人立ちの機会を与えようとしている。

 仮にも王族なのに俺達に任せていいのだろうか?

 ガラルドは今までイリヤを秘匿にして、守ってきたのだろう。

 ならばこれは軽はずみな言動ではないな。またもや俺達に対しての脅迫である。


「・・・わかりました」


 イリヤは困った顔をして呟いた。


「ガラ爺やナゴ婆が私の事を嫌いになったんじゃないって安心しました。

 もう必要ないのかなって一瞬思っちゃいました。

 私はお馬鹿さんですね。

 私は・・・私はリヴェンさん達と共に行動します。

 だって、それが魔遺物を起動した主の務めですもんね」


 困った顔から悪戯な笑顔ではにかんで見せるイリヤに、リーチファルトの面影が重なった。


「イリヤを扱き使うのは俺の役目だしね」


「んな!そんな風に私を扱っていたんですか!

 お姫様扱いしていないじゃないですか!

 嘘つきです!ホラ吹きです!」


「だからしてるってば。

 ほぉらお姫様、紅茶のお替りですよ。召し上がれ」


「召し上がります!」


 俺の淹れる紅茶は気に入ってくれているようで、物で釣られるイリヤはミストルティアナ並みにチョロかった。


「で?本音は?」


「またてめぇはそうやってづけづけと、まぁいいが」


 イリヤが紅茶を飲み過ぎてナゴに連れられてトイレへ行ったところで、ガラルドに問うと、頭を掻いてから続けた。


「王国内がきな臭くなって来やがったからな。

 出来るだけ腕が達者な奴の側に置いておきたいだけだ。

 その点においてはてめぇは信頼できる」


 王国内にいる情報網がいるって言っていたな。

 ベランとダントも、そのきな臭さに駆り出されたたちだろう。


「信頼してくれるのは有難いけど、人を信頼するべきじゃないよ。

 俺は自分だけを信頼するね」


「傲慢だな。

 俺は自分さえも信頼できない」


「それは怠慢だよ。

 自分が信じられなくて、どうやって生きていくんだい?

 イリヤにも自分を信じるなって言うの?」


「・・・たっく、てめぇとは言い争いはしたくねぇもんだな。

 イリヤを守ってくれれば、それでいい。

 もしも守れなかった場合は、俺がてめぇを殺すから覚悟してろよ」


「要らない覚悟はしないよ。

 イリヤを守れなかったときはその前に俺が死んでいるだろうからね」


 将棋やチェスで例えるならイリヤが玉でキングなのだ。

 イリヤの目の前まで敵が来たら、その敵は俺達を掻い潜ったか、俺達を殺したかの二つに一つ。

 そんな最悪の展開にはならないようにしたいものだ。


「話は変わるけどさ、ドズってガラルド達に何をしたの?」


「あ?あぁ、色々とあるが、俺達と決別した夜に実父であるベランの喉を斬ったんだよ。

 イリヤには言うなよ?」


「言わないし、言えないよ」


 蜂の巣を突いてみると、身内の生々しい話が湧いて出てきた。

 やっぱり興味半分でつつくのはよくないね。


 それからイリヤがしばしの別れを惜しみながらもガラルド達に手を振って別れ、俺達は買い出しへと向かうのであった。

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