56:仲間が増えますね
半日後、俺は長いトイレを終えて、荷物を持ってようやく正規のルートで地上へと帰ってきた。
「長いトイレだったな」
魔窟の入り口兼出口でドズは辛うじて無事だった兵を連れて待ち構えていた。
「トイレまでの道程が長くてね」
「お前・・・」
ドズは俺の担いでいるエリンコとバビンスキーを見て言葉を失った。
実際、あの休憩所のトイレまで行ってエリンコの死体とバビンスキーの死体を回収してきたのだ。
普通は死体は持って帰ってくることは無い。というか持って帰って来られない。
彼らは俺のせいで犠牲になったと言える。
せめてもの償いとして死体を持って帰ってきたのである。
俺は死体を地面に置いて死因となった部分を指差す。
「エリンコの死因は毒だ。
ギルド員に毒を持っているか調べればいい。
バビンスキーの死因は心臓を貫かれたショック死。
彼等にこんな鋭い技ができると思うならば非難すればいい」
「仲間は家族であり、資産だ。
それを奪われて黙っていろと言うのか?」
「正当な非難。
なんてものは存在しない。
俺が言いたいのは怒りの矛先と責任追及先が間違っていると言っているんだよ。
あの暗殺者は俺を狙っていたのは確実だからね。誰を責めるべきかわかるよね?」
俺を敵に据えて責め立てればいい。
そうすれば心も体も楽になれる。人間楽な方がいいだろう。
だが、面と向かって俺を責めるという事は契約を破棄するに等しい。
契約の内容として俺はヨーグジャ部族からの依頼でギルド商会と共に魔窟調査をし、成果を得る事になっていた。
その報酬の見返りとしてヨーグジャでの俺達の安全の確保に、調査後に受け入れ態勢を快くすると言ったもの。
魔窟調査での成果はツィグバーツカ家を見つけた事により、古代の歴史を知れる成果がある。
ツィグバーツカ家の場所は報告しないけども。
この時点で成功報酬を受け取る資格はある。
予備事項として書かれていた魔窟での損失責任は問題を持ってきた俺にあるが、どちらの内容に従うかは契約者であるドズ次第である。
ヨーグジャ部族への印象を少しでも好印象にしておくために、エリンコとバビンスキーの死体を持って帰ってきたのもある。
ドズは何も言えなかった。
後ろにいる兵もドズが何も言わないので、言いたいことを言えずにどうしたいいのか分からない表情で立ち尽くしていた。
俺が前進すると、塞いでいた道を開けてくれた。
「おい」
ようやくドズが口を開けた。
「すまねぇな」
「これからも良き付き合いがしたいからね。
俺も彼らを弔いたかったし、御安い御用さ」
「仲間は砦の中にいる」
眼球認証と指紋認証は付き添ってくれた兵士にやってもらい、砦内へと帰ってくる。
「どこ行ってたんです!」
帰って来るや否や玄関ホールでイリヤが横腹に手を置き、胸を張り、大きく鼻を鳴らして待っていた。
「だからトイレって言ったじゃん。一緒に来たかったの?」
「違いますよ!心配してたんです!
あ、私じゃないですよ、ミストルティアナさんがですよ」
「えー、イリヤは心配してくれなかったの?」
「・・・しましたよ」
今回は素直な答えであった。
「やっと心配してくれたんだ」
「どうして嬉しそうなんですか!」
「イリヤみたいなお姫様に心配されるのは男冥利に尽きるでしょ」
「むっ、褒めてませんね。分かるんですよ、そういうの!」
「だから褒めてるってば」
いつものやりとりをしていると、会話が聞こえてきたのかヴィーゼル兄弟が上の階から降りてきた。
「おっ、兄弟やん!どこいっとったん?」
「野暮用でね。なにそのブラザーって言うのは?」
「熱いラップバトルしたら、そら兄弟やろ。
他にも一応理由はあるけど、言わんほうがええんやろ?」
チラリと壁をみるウィン。
あのギョロ目の人は壁の中で暮らしているんじゃないかな?
イリヤに袖をひかれたので、屈んで耳を近づける。
「ウィンさんとウォンさんは魔族なんです。
今は皮で顔を変えているらしいので人っぽく見えるらしいです。
ラップバトル?をしたリヴェンさんに敬意を払うのもありますけど、一族の祖先がリヴェンさんとお友達だったらしいんです。
ジャモラさんって言うんですけど、ご存じです?」
彼らがジャモラの子孫?皮を被っているせいで見分けはつかない。
「あの腕から出してたん紅蓮刃やろ?わてらは使えへんねんけど、知ってるで。
もしも信じてくれへんかってもかまへん。わてらは確執とか気にせーへんからな」
「彼らは、祖先は俺をどう思っていたのかな?」
確執との単語を聞いて、どうしても聞いておきたかった事で、ジャモラの子孫だと証明する解答を得る為に質問する。
「友人を目の前で見捨てる最低な奴やって言うてたなぁ」
まぁそうであろう。
放心状態でも何をどんな風に言われたかは覚えているからな。
「わいらは一族の恥晒しやから、弟が言うたとおりに、気にせーへん。
わいらは自分の目で見て、聞いて、感じた事を信じとるからな。
んで、ラップバトルで感覚を共有したんやったら、そらもう兄弟やっちゅうことや」
感覚を共有するって事は、ラップバトルは相手の気持ちを見透かすことがキモなのかな?
いや、見透かしたうえで相手の痛いところを突くのがいいのかな?
何にせよ、口達者な人間だと得意そうだ。俺は音に乗せるのが下手だったけど。
「もう兄ちゃん。それじゃあ伝わらへんって。
あんな、わてらも兄弟の手伝いがしたいねん」
ジャモラの一族がどこにいるとかは後で聞くとして、ジャモラの子孫と共に魔族を導くのか・・・まぁ、それもありだろう。
「俺からもお願いするよ」
「「イエーイ!」」
俺からの許可を得たヴィーゼル兄弟はハイタッチをする。
「大変ですわ!大変ですわ!」
蛇行しながらドタドタと激しい音をたてつつ階段を降りてくるミストルティアナ。
「はう!リヴェン様!お帰りなさいませ!
正妻たる私が一番にお迎えに上がれず不甲斐ないですわ。
ですがお許しくださいまし、私はリヴェン様の私物を守る役目を、あの雌犬から奪うのが使命ですの。
あの雌犬、私より発育が良いからって調子に乗って・・・!」
「何が大変なの?」
「はっ!そうですわ!リヴェン様、急いで来てくださいまし!」
こちらですわ。と手招きされて、俺達に与えられた客室までその場にいた全員がやってくる。
中へ入るとバンキッシュが動揺を隠せずに、俺達を見た。
部屋の家具は何も変わった様子はない。
出て行った時と同じで脚の折れたベッドに壊れてしまった照明器具型魔遺物、衣装箪笥は半壊し、テーブルと椅子は跡形もなく消え去っている。
カーペットは焼け焦げ、ボロ雑巾のようになっている。客室。
ただ、一つ違う点があった。玉座であるネロがない。
部屋のどこを見渡してもネロ・ギェアはないのであった。
「お帰りなさいませ、ご主人」
聞き覚えのある低い声がバンキッシュの足元から聞こえた。
バンキッシュの脚からひょっこりと顔を出したのは、幼少期の俺とイリヤを足したような蒼髪に赤毛がメッシュとして入った愛らしい少年が現れた。
もしかしなくてもネロなのであろう。
ネロ・・・なのであろう。
・・・は?
久しぶりに自分の思考が現実に追いつてこなかった。
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