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54:肉人は無く

「いや茶化してるわけちゃうねんで、わいはめっちゃ感動してるねん!

 そこの兄ちゃんの献身的な救助活動。

 友達を救おうと命をかける行い。

 わいは、わいは、胸打たれた!」


「せやから、兄ちゃんとで、あんたらを手伝おうって決めたんや!」


 二人共顔が似ているので髪型で判断するのがいいだろう。

 ドレッドヘアの方がウィンで辮髪の方がウォンだと覚えておけばいい。

 二人共嘘をついている様子はないから、言った言葉は信頼できる。


「この力が湧く感じは君達がやっているの?」


「せやで、わいの鼓吹を骨伝導で伝えてるんや。

 わいの音楽を聴くと色々と力が強化されんねん。

 主に身体能力の耐魔、耐火、耐水、耐風、耐雷、耐刃、エトセトラ。

 そこらのギルドの塗装屋よりかはガッチガッチになれるで」


「うん。君達の力は凄い。手を貸して欲しいくらいだ。皆はどうかな?」


「リヴェン様に従いますわ!」


「怪しい奴等ではないのは知っているしな」


「あーしもいいけど」


「俺はこの二人に助けられたからな」


「俺も大丈夫だ」


「何でもいいからさっさと片付けてくれ、俺が本体を撃ちぬく前にな」


「と、言う事で、手伝ってもらよ。

 俺の名前はリヴェン、よろしく。

 さっきの強化を俺と、そこのマルコとジャガロニにもう一度かけて欲しい。

 しかも今度はかなり強めで」


 さっきの強化があればマルコとジャガロニが肉人の中に取り込まれても安心だ。


「さっきの強化は三分くらいしか続かへん、そんでもっと強化するにはラップバトルせなあかんな。

 誰かできる人おる?」


 ラップバトルとの単語に首を傾げる一同。

 この中でその単語に対応できるのはどうやら俺だけのようだった。


「俺ならできるよ。

 やったことは無いし、知識も曖昧だから巧くできるかは分からないけど」


「かまへんかまへん。

 韻踏んで想いを言葉にすれば力に変わるんや。

 言霊っちゅうやっちゃな。

 因みに強化はバトル後三十秒程度超強化されるから、その間に決めへんとあかんで。

 ラップバトルでの超強化は一日一回限定品や。

 あと弟の鼓舞もあるから安心しいや」


「兄ちゃんは身体能力の強化でわては装備の強化やね。

 ラップバトルの先攻は兄ちゃんで、後攻がリヴェンさんや。

 八小節の二本でやるで、兄ちゃんの真似してくれたらやり易いと思うから頑張ってな。

 バトル言うても兄ちゃんにアンサーせんでええから気楽にな」


「ちゅうわけで、説明終わりや。

 ずっと見てきたし聞いてきたから状況も把握しとる。

 あの中の兄ちゃんを助けるで、準備はええか?」


「とっくにできているよ。

 他の皆は首以外をガッツリ攻撃してもいいから肉人の機動力を削いで。

 マルコとジャガロニは声をかけ続ける。頼んだよ」


 アンサーって何だ?とは聞けずに、全員に指示を出す。


「ショータイムや!」


 ウィンが三つの魔遺物を起動させると、DJミキサーとマイクが二つ現れる。

 一つのマイクを手渡され、テンポの良い重低音が流れ始める。


 やったこともないラップバトル。

 八小節の内に今の状況と、マルコとジャガロニの思いを乗せればいい。

 それを即興で作るのが一番難しいんだけども!


 音楽が始まってウィンがスクラッチをした。

 それが合図だと気付いたのはウィンの目付きが変わったからであった。


「ビートの色素は火色でいいの?

 音色が聞えりゃヒートアップ。声色変えてフィードバック。

 俺の声で一度ジャック。地色を染める苺パック。

 これは植物性?いや動物性!

 感情齎す共通性!全人類に必要な供給。SAY」


 スクラッチ音が鳴る前に俺を指差すウィン。スクラッチ音が交代の合図とみていいだろう。


 俺は息を吸って、マイクを強く握る。


「音楽通して共に歩むには程遠い?

 なら聞かせてあげるよ今宵。

 言わなくていいよ君の好み。

 想いを覗き見て当てて見せるさ、それが誇り。

 閉じこもってばかりの引きこもり。

 妹だけが生き残り、友人家族は憤り、それでも君は耳遠い」


 ウィンの表情の変化が見受けられた。

 下手過ぎて愕いているのか?

 いや、これは楽しんでいる表情だ。


「胸板に刻まれるは主題歌。

 これは最先端の油彩画。

 聴かねぇ観ねぇ部外者は全員スパイだ。

 確信つかれ震える身体は治まるか?

 だったらかけてやるごま油。

 擦っても擦っても困らぬは、小心者ではござらぬか。

 だったらこの熱き血潮を飲み干せウサギ科」


 恐らくウィンとウォンは俺がハクザと戦っている時からこの状況を見聞きしていただろう。

 だからこそサマティッシの背中を叩くような歌詞を持ってきているのだ。

 俺はそれに合わせるだけ。


 あ、アンサーってこういう事?


「良薬は口に苦し、君は自害し死体?

 いやまだまだ時代の光。腐っても下火。

 はじめちょろちょろなかぱっぱ。

 匂いに釣られて腹減った?

 君の意思は固まった?

 意識決定って簡単なんだわ。

 想像してみて幸せの自分。

 切り離せ今までの身分 己で見定めろ基準。

 人生のフィナーレは自由!」


 短い音楽が終わり、俺達の身体はオーラのような湯気が視覚化するくらいに強化されていた。

 これならいける。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 全員の攻撃でいつの間にか顔だけにされた肉人が苦しむような声を上げた。


「かばちたれに!」


「かましたれや!」


 俺は肉人の首の中に突貫する。

 中ではマルコとジャガロニが声をかけ続けていて、そのおかげかサマティッシが肉人へと送る魔力を少しずつ遮断していた。


 サマティッシに声と音楽、更には踊りまでもが届いているのか、サマティッシ自身も強化されていた。

 想像通りだ。これなら最初の作戦を実行できる。

 頼むから失敗しないでくれよ。


 魔力感知でサマティッシの胸の中にある魔遺物を見つけ出す。

 胸に手を当てて、魔術を展開する。


 喫で具現化した魔術と、超強化があるなら、サマティッシの身体を殆ど傷つけることなく、体内へと侵入することが出来ると踏んだ。


 掴んだ。

 瞬間に肉人が俺達を弾き出そうとするも、強化効果のおかげかビクともしない。


 このまま切除して、引き抜く。

 魔術を動かす繊細な作業でさえ強化効果のおかげで楽々に済み、サマティッシの胸の中から魔遺物を引き抜いた。


 ズルリと肉から剥がれ落ちて、サマティッシはマルコとジャガロニに受け止められた。


 強化効果が切れる前に肉人から出る。

 サマティッシが肉人から出ても、肉人は身体を維持し続けていて、更には再生までも始めていた。


「サマティッシは救ったのに、なんで!」


 その光景を見てマルコは焦りを隠せず言った。


 肉人にも意思が芽生えている。

 だからサマティッシの残った魔力だけで、ユララに指示された事を果たそうとしているのであろう。

 ユララの実験で生み出されたこの悲しき生物に引導を渡してあげよう。


 強化効果の時間も残り少なくなってきた。

 ハクザに撃った時よりも全力全開で放てることであろう。


 頭の中は清涼な空気を吸った時のように冴え、演算能力が高くなっているのが体感できる。

 拳に力を込めて右手を大きく引く。


「もう泣かなくていいよ。安らかに眠れ」


 魔王の一撃を放ち、肉人は跡形もなく消え去った。

 こうして砦を守りサマティッシを救う作戦は成功に終わった。

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