53:肉人は嘆く
「彼に声をかけてあげて」
「それだけでいいのか?」
「出来るだけサマティッシの近くで言ってもらうから危険だよ。
あとは日常会話のような感じでお願いしたい」
「わかった。マルコにもそう言っておく」
マルコは既に声をかけながら攻撃している頃であろう。
俺の考えが正しければジャガロニも必要なのだ。
「じゃあ行こうか」
話も纏まったところでジャガロニと共に肉人の元へと再び向かう。
「止まれ!止まれ!お前は物を壊すとかしないだろ!」
肉人の足元にクレーターを作るも一人では足止めにもならずに肉人は動きを止めずに進行する。
「もっと語りかけてあげて、彼には意志がある」
「う、お、おぉ!お前言っていたよな!夢があるって!」
突然隣に現れた俺に驚きつつもマルコは声をかけ続ける。
サマティッシの意思があるならば、俺はサマティッシの中では印象が悪いままになっているだろう。
肉人の意思ではなく、サマティッシの意思で弾き出されたならば、取り込みを選定する意思がある。
無意識だとしても、判断する意思がある。
「もっと近くに行くよ。その方が聞えるから」
「って!何だその姿!」
「そんなことより声をかけ続けて、それがサマティッシを救う次の作戦だから」
狼人化している俺を見て、またまた驚くマルコを右肩に担いで、ジャガロニは左肩に担ぐ。
大人で装備を着用している男を二人担いでも、まだ担げる余力がある。
俺は脚力だけで飛び上がって肉人の首元までやってくる。
「俺はお前に貸した金を返して貰っていないぞ」
「そうだ、俺も返してないぞ!また三人でポーカーしよう!」
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
肉人が嫌がっているのか、サマティッシが叫んでいるのか。
俺は前者だと考える。その証に肉人の頭が俺達へと振り落とされる。
「私の魔眼に見抜けないものはありませんわ!」
「ここは壊して良かったわよね!」
ワワに投げられて俺達の前にやってきたミストルティアナとジュリに助けられる。
「ちょっとピリッとするけど我慢して」
狼人の手で首の中に手を突っ込む。
肉片が飛び散ってマルコとジャガロニに付着するも二人は声かけを止めない。
声かけのおかげか肉を開くことが出来て、数十分ぶりに顔色の悪いサマティッシの顔を拝むことが出来た。
「聞こえているかな?君の為に仲間が命を賭けてくれているよ。
君はそこで何をしているの?こっちへおいでよ。
今度は純粋に君とポーカーがしたいよ。ジャガロニに絶対勝てるようにしてあげるよ」
俺達の間に影が出来る。
俺はマルコとジャガロニをミストルティアとジュリに任せてその影に対応する。
肉人が俺達を潰す為に両の掌を合わせてきたのを両脚で止めようとするも、身体全体が肉の中へと埋まった。
作戦の一つとして俺が肉人の中に入って魔力を吸収する作戦もあった。
しかしそれには時間が掛かりすぎて砦へと到達されてしまう。
更には身体から弾き出されるなら効率的ではない。
だが今はどうだろうか、肉人の意思が俺を溶かそうとしている。
身体から弾き出されることもなく魔力吸収することが出来る。
魔力吸収すると腐敗するような消化は治まり、ただの肉に成り果てて、逆に肉が溶け始める。
「俺が治験をすれば、妹は助かるんですよね」
「助かる助けるよ~、でもいいのかな?もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ?」
「妹が助かるなら俺の命なんて安いものですよ。
あいつは一年ずっと苦しんできた。その苦しみから解放してやれるならば、俺は何だってする」
「家族愛ってのはいいよね。
心がこんなにもポカポカするんだもん。
ユララちゃん☆俄然やる気出てきたよ」
頭の中でサマティッシの記憶がフラッシュバックする。
今まで魔遺物の魔力だと思っていたけど、この魔力、もしかして魔遺物がサマティッシの魔力を増幅させているのか?
「苦しい。
これがあいつが一年味わってきた苦しみか。
俺がもっと真面に仕事をしていれば、こんな病気にさせることもなかった。
これは俺に対しての罰なんだ。だから耐えないといけないんだ」
次に聞こえてきたのはサマティッシの心の声。
その声が聞えなくなった瞬間に再び魔力を帯びた掌から投げ飛ばされて、地面へと激突する。
「成功ではないようだな」
「まだやるよ。彼の意思はある。
言葉をかけ続ける事で、少しでもこちらへと引き戻すんだ。
彼は自分の行いを悔やんでいる。慰めの言葉よりも、活気をつける言葉でお願い」
「分かった。またサマティッシの前まで運んでくれ」
「その必要はねぇ」
ドズの低い声が聞えたと思ったら、魔力弾が肉人の両脚を貫いた。
肉人はまたもや体勢を崩して前傾姿勢になる。
「君の行いは正しかった!
だけど君がいなくなれば、残された妹さんはどうなるの?
君はまだ生きられる。
自分に罰を与えている暇があるなら、こっちへ来て。
俺が君を救い出すから」
「信じられない・・・」
「マルコもジャガロニもいるよ。
あの日常に戻ろう。
ポーカーでサボりながら仕事を終えれば、元気な妹さんがいる。
そんな平和な日常に戻ろう」
「俺等はここにいるぞ!お前を待っているんだぞ!」
「当分は奢ってやる。俺はお前達と飲むのが楽しいんだ」
「オヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!!」
前傾姿勢のまま肉人は叫び、上半身を地面へと叩きつけた。
避けられなかった。
マルコとジャガロニを助けようにも、狼人の力で弾き飛ばせば大ダメージを与えてしまう。
それを見せてしまえばサマティッシが俺への警戒心を上げてしまう。
しかし肉の中ではマルコとジャガロニは普通に立っていた。
「い、生きてる?」
「あんたの力か?」
「いや、俺じゃない」
俺じゃないにしろ、心の奥底から力が湧いてくる感じ、今なら何でもできると思考変化させるかのような、音を感じる。
「オルルルルルルルルルルル」
溶かせないと分かった肉が膨張して俺達三人を弾き出す。
「なんですの!貴方達!」
外へと出されるとミストルティアナ達の他に長身の男が二人追加されていた。
「なんだかんだと聞かれたら答えなな!言ったってや兄ちゃん!」
「わいは兄のウィン!」
「弟のウォン!」
「「二人揃って天下無敵のヴィーゼル兄弟」」
決めポーズをしてヴィーゼル兄弟は名乗りを上げた。
この忙しい時に変な二人の相手をしている暇はないんだけどな。
「ふざけていますの?」
この場の誰もが思ったことをミストルティアナが言い放った。
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