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51:治験兵

「るんるん。すっごいすっごい。

 超肥大化しちゃった。

 サマティッシ君×はいい素体だったんだね。

 さぁてさぁて、魔王様◎はどういう判断に至るかな?」


 櫓の上で双眼鏡を使いながらリクライニング式の椅子に身を預けて、果実水を飲むユララ。


 双眼鏡の奥には砦へ迫りくる肥大化した巨人が写っていた。


 ユララ・マックス・ドゥ・ラインハルトは治験として魔物との戦闘や事故で手や脚、生命維持に必要な臓器を失った人間に欠損した部分に魔遺物を埋め込む治療を施す医者でもある。


 中央遺物協会が推進する魔遺物を身体の補助機能として接着させる医療行為は禁忌であり、最終手段であった。

 近年こそ民衆に認知されているが、禁忌とされる事実は未だに隠蔽されている。


 魔遺物を身体に入れた人間は遺物人間と称される。

 古くからの言い伝えで彼等は災厄を招く人間達と伝えられてきていた。

 老人や伝記を読みふける人間は魔遺物を身体の中に取り入れることはしない。


 禁忌とされる理由としては副作用である。

 バンキッシュが使用した狼人の魔遺物のように人体を魔族へと変貌させ、人間以上の力を与える代わりに、身体に多大な影響を与え、最終的には魔族へと身体を変化させるのである。

 人間から魔族へと身体を変化させるのは死を意味する。


 ユララの治験兵は若者であり、禁忌を犯してまでも生きたい、手持ち所得が少ない人間達で構成されている。

 身寄りのない欠損少年。

 戦闘で負傷したが家族の為に働かざる負えない兵士。

 いつまでも冒険を続けたい冒険者。

 表面上は彼らを援助し、日常生活へと送り出す。


 人体変化の魔遺物でなければ日常生活を送れることが出来る。

 そこに関してはユララの実験の成果であった。


 ただユララは治験兵の頭の中にちょっとした仕掛けを施す。

 有事の際、ユララの指示に従うように電気信号を送る魔遺物を頭の中に埋め込んでいるのであった。


 その為、ユララ隊にいる人間の大半は治験兵で占められている。

 本来のユララ隊はユララのファンで構成されている。


 リヴェンが不殺を貫いて、ユララ隊の魔遺物だけを切り取ったのは、心のどこかで、それを見抜いていたからかもしれない。


 サマティッシはユララが言った通りに妹の病気を治して貰うために治験兵に志願した。

 ユララは見事皮肉病の元凶である腫瘍を切り取りサマティッシの妹を治した。


 まさか妹の病気と魔遺物を掛け合わせられる実験に自分が使われるとは本人も予想外であったであろう。


 ユララの新実験はドレイズ王公認であり、もし実験が失敗し死亡したとしても揉み消され、世間の闇へと消えて行くだろう。

 マルコとジャガロニがユララの事を訴えようとも、その声は表には聴こえない。

 聞こえたとしても、圧力がかかるであろう。


 サマティッシの身に何が起ころうとも巨人族の魔遺物と皮肉病は合わさったという事実がある以上、病気と魔遺物は相性が良いと実証された。

 彼の前の被験者達は報われたことであろう。


「ユララちゃん☆に魔王君◎にギルド商会に中央遺物協会に魔術教会に王国兵士。

 もっと欲しかったけど、ないものねだりは駄目だよね。

 今を今を楽しまなくっちゃ。

 おぉ壮大だぁ!」


 ズズズと空になって氷だけが残った果実水を啜りながら、巨人が倒れるのを見物していた。


 そのユララの双眼鏡に影が過る。


「よぉユララじゃねぇか、日光浴か?

 あんた歳だから、太陽光は天敵だぜ?」


「失礼なこと言う子はお仕置きするぞ~。

 何か用かなカイ君▽」


 カイが櫓と同じ高さの木の上に乗りながらユララへと話しかけてきているのを横目で見て言葉を返す。


「んー、あんたが前線にいるって事はあんたがあれの元凶って事だろ?

 じゃああんたを倒せばいいってことだよな?」


「いやいや待って待って。どうしてそうなるのかなぁ?

 ユララちゃん☆は高みの見物しているだけだよ?

 仮にもギルドの副支部長なら、もうちょっと自分の行動に責任持った方がいいんじゃないかな?

 ユララちゃん☆これでも王国では重要人物だよ?」


「始末書書くのは慣れているからな。

 あの巨人と戦うよりも、あんたと戦った方が楽しそうだ。

 あんたもそう思わねぇか?」


 ユララは大きくため息をついて、リクライニングチェアから身体を起こした。


「それが本音ぇ?しょうがないにゃあ。

 フィナーレまでには終わらせてあげる」


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