49:ユララちゃん☆ワ~ルド・ツー
そのニタニタと笑った声と共に腕輪は溶けて無くなってしまった。
「オオオオオオオオ」
サマティッシの目と鼻と口があった空洞から嘆きのような声が漏れる。
表情も声も読み取ることはできない。
彼の意識は無く、ただただ操り人形として動いているだけ。
楽しく酒を飲み交わした仲なのに、こんな事になったのは残念だ。
「おい、なんだよあれ」
紅蓮蛇腹刃を起動して戦闘態勢に入ろうとすると、そんな声が聞えた。
振り向くとマルコが変わり果てたサマティッシを見て呟いていた。
その声に反応して今度は更に巨大になった左腕がマルコへと落とされる。
蛇腹剣顕現を起動してマルコを引っ張ってその攻撃から救う。
マルコは立ち上がりながら俺と顔を合わせた。
「リヴェン・・・なぁどうなってんだ?あれが本当にサマティッシなのか?」
この二人もユララに誘われてこの作戦に参加させられているのだとすれば、あれがサマティッシだと言う情報を持っていてもおかしくはない。
あの女は場を乱し、更に絶望する人間が増える事によって快感を得る輩であろう。
「俺は、俺は、あんたがサマティッシをあの姿に変えたなんて信じられない。
あんたは良い人だ。そうだろう?何か事情があるんだろ?」
そういう手できたか。
魔窟内では俺の信頼度は0からのスタートだった。
今回はある程度信頼度があるから説得しやすいはずであった。
だが王国騎士団であり、医療従事者でもあり、王国の偶像でもあるユララよりは信頼度はない。
ユララの言う事ならば嘘でも信じてしまうだろう。
ユララは不安の種を撒くだけでいいのだ。
それだけで俺の立場が変わり、サマティッシを助けられる状況が遅れる。
だがその手の対処方法は知っている。
「俺は変えてないよ。って言っても信じてくれるかい?」
「俺は・・・信じたい。でも」
後方から魔力反応。
身体を捻らせて背後から放たれた魔力弾を避ける。
避けた魔力弾はサマティッシへと当たるも、肉の壁の中へと吸収されるように消えた。
「俺は信じられない」
ジャガロニは冷たく言い放った。
いると思っていたので、王国兵が持つ魔遺物程度なら視認しなくても避けられる。
「君達はサマティッシを戻したいの?それとも俺を殺したいの?」
「俺はサマティッシを救いたいし、サマティッシをそんな姿にした奴を懲らしめたい。
ジャガロニも同じ思いだ」
「だったら最優先は俺じゃない。サマティッシを止める事だ。
だけど俺だけじゃどうしても太刀打ちできない。
一旦砦へと帰りたい。砦にはギルド員もいるから中立を保ってくれるよ。
それとも何?サマティッシと俺を相手にしながら戦うの?」
ジャガロニは逡巡した後に僅かな殺気を向けつつある俺へと魔遺物を構えるのを止めた。
彼は合理的であるが、仲間思いな人間だ。
反対にマルコは感情的だ。
二人は仲がいいように見えるが、ただの仕事仲間のような関係だ。
飲んでいて理解した。飲み事態も仕事のようなものだからね。
この二人だけ逃げろなんて言っても二人は逃げないだろう。
だったら一旦態勢を立て直して全員で打開する案があると言う方が乗ってくる。
現状サマティッシを救う方法はない。
魂を救うと言うならばコアとなっている魔遺物を破壊すればいいだけだ。
それはこの場にいる者が誰も望まない。
「マルコ、怪我はない?走れる?」
「あ、あぁ大丈夫だ」
近くにいるせいか俺の感情が読み取れるマルコは感情の変化に困惑しながらも頷いた。
俺達はブクブクと肥大化していくサマティッシを尻目に砦へと戻った。
ユララ隊は撤退したようで砦へは楽に戻れた。
どうやらイリヤ達は無事帰還を果たせていたようで、皆が一階の広間で責任の所在を言い争っていた。その中からイリヤの手を引く。
「おいおいちょっと待――」
「皆会議室集合。後ろの二人は仲間ね」
まとめ役であり、口論の元であったワワとドズの間を通り抜け、そう言い残して客室までの道中、うんたらかんたら喚くイリヤを連れてきた。
客室の扉は壊れていて、更には客室の外へと繋がる壁は吹き抜けに変わっており、中ではバンキッシュが負傷したらしい脚に包帯を巻いている最中であった。
隣には赤黒いガーゼが大量に置かれていて、痛々しさが視界から伝わってくる。
「も、もう!いきなりなんです!
はわわ、バンキッシュさん大丈夫ですか!?」
その光景をみてイリヤは怒っていたが、早くも心配モードへと変わった。
「えぇ、見た目以上には重傷ではありませんよ。
ハクザ・ウォーカーはリヴェンさんが?」
「一応は倒したけど、生きてはいるよ」
あの場に放ってきたけど、サマティッシに取り込まれる距離ではないし、砦とは反対方向だ。
移動させようにも迎撃してくるので放置が無難な選択である。
「そうですか・・・申し訳ありません。私が嗾けたのです」
「謝る必要は無いよ。
それが一番いい判断だと思ったんでしょ?だったら自信を持って。
俺はこういった形でしか労えないけど、お礼を言わせて。
ありがとう」
謝礼の言葉を言いつつ、バンキッシュの脚に手を当てて治す。
治ったか確認する為に包帯を取ると、包帯の下から綺麗で素敵な脚が現れた。
ハクザにやられたとなると、焼け爛れていたのであろう。
バンキッシュは魔族だと認定されたから攻撃されたにしても男女平等にも程がある。
バンキッシュは表情を変えずに治した脚を擦っていた。
しかし、どこか嬉しそうでもあるが、彼女の感情の変化はまだ乏しく、捉えずらかった。
「リヴェンさん何用なんです?」
バンキッシュの脚も治ったことで連れてこられた怒りを表明しながらイリヤは言う。
「イリヤはここから出ちゃいけない。
俺を復活させた時の兵士が二人来ている。
彼等の仲間の一人がユララのせいであれになった。
彼は放っておけばこの砦を破壊しにくるけど、俺は彼を助けるつもりでいる」
「なななななんですかあれ!あれが人間なんです!?
・・・なんですよね。でしたら、助けるのが最善です。
リヴェンさんならできるんですよね」
あれ、と、壁の外で木よりも高く肥大化しているサマティッシを指差すと、今までバンキッシュを気にかけて、外の状況を見ていなかったイリヤは驚いたが、すぐに冷静差を取り戻した。
俺が関わった人を蔑ろにしないのを分かってくれているようだ。
「何とかするよ。引き続きイリヤを守ってくれるかな?」
「はい。承りました」
「私も陰ながら応援しています」
さて、会議室に行く前に玉座に座って新たに加わったスキルを確認して玉座をアップデートしておかねば。
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