43:ヴィーゼル兄弟
「なぁ兄ちゃん。二人共いってもうたのに、なんで追ってるん?」
ウィンとウォンは先に馬車から飛び出して行ってしまった二人を追って森の中を爆発音のような音を頼りにして歩いていた。
「兄ちゃんな、実は実力派の占い師に占ってもうてんねん。
そんでな、その占いの結果と今の状況が似てんのや」
「あぁあの当たると噂の実力派のね。
兄ちゃんスピリチュアルさんやからなぁ。
でも爆発音とかしてるけど、ほんま大丈夫なん?」
「ビビりやな~、いざとなったら兄ちゃんが守ったるから安心しとき」
二人は前方に王国兵二人が歩いているのを見つけた。
「ほら普通に人も歩いてるやん。
なんかお祭りでもやってんねんって。
すんませーんお祭り会場までどれくらいです?」
「ん?なんだお前達、見た感じ隠者ではなさそうだが、ここは立ち入り禁止だぞ」
ウィンに声をかけられたのは最後尾で巡回していた顎が特徴的なマルコであった。
マルコは二人の身なりを確認してから、注意を促した。
「そうなん?お祭りでもやっとるんちゃうの?」
「祭り?祭りと言われれば祭りかもしれないけど、楽しい類の事はやってないから、ここを立ち去って、すぐに王都に戻れ。危険だからな」
「戻れって言われてもなぁ。
連れが二人先に行ってるからなぁ、楽しい祭りじゃないんやったら心配やねん」
「二人って、あの二人のことか?」
「多分な」
マルコとジャガロニはついさっき風のような速さで通り過ぎて行ったカイと、カイより遅れてやってきて、二人の前で止まり、丁寧に脅迫してから通り過ぎて行ったハクザを思い出す。
「じゃあ心配なんてしないでいいぞ。あの二人は滅多な事では死なないから。
一人はカイ・マンダイン・フェルナンデス・ゴフェルアーキマンだし、もう一人はハクザ・ウォーカーさんだからな」
「はえー、あの二人がそやったんか。そやったんか~」
「兄ちゃんの考えていることが読めるんやけど」
「流石は兄ちゃんの弟やな。ほな、行こか」
話の脈絡を無視して横を通り過ぎた兄弟をマルコは振り向いて止めた。
その間にジャガロニが兄弟の前に立ち塞がった。
「おいおい話聞いていたのか!?ここから先は危険なんだって」
「二人共通って行ったんやろ?ならその言葉に強制力はないよな」
「確かに、あの二人は俺達の手に負えなかったから通した。だがお前達はどうだ?」
ギルド商会メラディシアン支部の副支部長であり、風来坊のような男のカイ。
魔術教会の師範であり、魔遺物を所持する人間には人権等ないと言っている噂がたつハクザ。
一介の兵士二人では止めることも敵わず、なんならハクザに関しては二人と一緒にいたユララ隊の一人を倒してまで先に進んで行った。
「えらい強気やねぇ。わいも唯の旅芸人ちゃうねんで」
「兄ちゃん、兄ちゃん。ヤバイのおるて」
ウォンがジャガロニの後ろにいる、ハクザに倒されたユララ隊の片足が異常に細い黒フード隊員を指差した。
「ゾク殺す」
不穏な発言をした瞬間にウィンは円月輪と蓄音器型魔遺物を耳につける。
ウォンも蓄音器型魔遺物を耳に付けた後に、身体を上下左右に動かしてリズムに乗り始める。
二人の姿を見て呆けていたのはマルコだけだった。
黒フードのユララ隊員は後ろにいるマルコを巻き込むように細い片足を自身の体長の倍の長さに伸ばして、突き穿つように三人を狙った。
ジャガロニは攻撃のモーションを見て避ける事が出来たが、マルコはユララ隊員が味方との認識をしている事によって避けることが出来なかった。
「おまえ、下種やな」
ユララ隊員の攻撃はウィンの円月輪によって受け止められた。
伸縮自在の細い片足は元通りに戻る。
ユララ隊員はハクザに倒されたことによって、ユララからの命令であるマルコとジャガロニを守るという命令の記憶を失ってしまっていた。
残された命は立ちはだかる族を抹殺せよとの命令だけであった。
「あんたら二人、ちょっと邪魔やわ。離れといて」
「いや、でも」
「行くぞ」
ウィンに言われたとおりに自分の境遇を理解したジャガロニは先にこの場を離れる、どうするか戸惑った挙句、マルコは渋々離れていくジャガロニの背を追った。
その背中を狙うユララ隊の攻撃をウィンは円月輪を投げて防いでみせた。
円月輪はゴム毬のように木々に当たり、跳ね返ってウィンの手元に返ってくる。
マルコは攻撃された事に気付いてより一層足を速めて、その場を後にした。
「下種野郎はデスやろう。なぁ弟よ」
「天誅旋風吹き荒れるな、兄ちゃん」
「ゾクこころろす」
ハクザにやられた後遺症の性かユララ隊員の視界は点滅したように光が差し込んだり、曇ったりしていた。
そんな視界の中でも体内にある魔力を捕捉できる魔遺物で兄弟の位置を把握していた。
捕捉した瞬間に自らの片足となっている魔遺物を伸ばす。
この魔遺物は植物系の魔族が元となっている。
伸縮自在な脚は蔦であり、日当たりによって伸縮性が変わる植物性な一面がある。
魔物の蔦のように硬度が高く、人間の身体機能を加えているので、破壊力は抜群であった。
しかし攻撃は円月輪程度の武器に受け止められてしまう。
ヴィーゼル兄弟の持つ円月輪は特注性ではあるものの、市販で売られている中でも、中くらい程度の代物である。
ユララ隊員の攻撃を正面から真面に受ければ粉々に砕けてしまうだろう。
そうならないのは二人が同時にスキルを発動しているからである。
ウィン・ヴィーゼルはスキル鼓吹。
自らが作曲した音楽を流す事によって身体能力強化を発動させる。ここに作詞した歌を乗せることで更に強化することができる。
ウォン・ヴィーゼルが発動するは鼓舞。
一族と異世界からインスピレーションを受けた踊りを踊り、スキル対象者が身に着けている武具防具を強化する。
歌との波長が合う事で、どんなに硬度が高い鉱石で作られた武具や防具よりも強化される。
現在ノリに乗ってきた二人の武具や防具、並びに身体をまとめて貫こうものなら、リヴェンが王都でリューベルトを退けた際に放った程の魔力を込めなければ有効打にはならない。
ウィンは円月輪を片方ウォンへと投げる。
ウォンは円月輪を脚で受け止めてリフティングする。
リズムに乗り、兄弟の耳に聴こえている曲はサビに差し掛かった。
その瞬間に兄弟同時に円月輪をユララ隊員へと向かって投げた。
未だにヴィーゼル兄弟の真骨頂にただの疑問しか抱けていないユララ隊員は変わらずに蔦型魔遺物を伸ばす。
円月輪は蔦を縦に切り裂いてゆき、ユララ隊員の脚に到達する前にもう一つの円月輪が魔遺物と接続されている部分に落下して切断した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア」
悲痛なユララ隊の叫びは音楽を聴いているヴィーゼル兄弟の耳には届かなかった。
ウィンの占いの結果はこうである。
花火が鳴る森にて人助けをするのが吉。
黒き砦前にて不憫な者と導きの災王が幕間を齎すであろう。
爆炎を超え、貴方は兄弟を見つける。
一ヵ月前に占ってもらった結果を聞いた時は頭を捻らせたが、今のウィンは占いが現実になっていると確信していた。
ウィンはおよそ人間とは思えない程長い舌を伸ばして痛みに悶えるユララ隊員の切断面を舐める。
すると不思議な事に噴き出していた血が止まり、ユララ隊員は次第に落ち着きを取り戻していった。
正常、とは言えないが、痛みが引いた時にはユララ隊員の前からはヴィーゼル兄弟の姿は無かった。
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