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41:深層探索・結

「離すね」


「暗殺者だろ、逃れてみろよ」


 ヴェルファーレがカイの手から逃れようとするも、ピクリとさえ動かない。

 もう片方の手で攻撃するも、その手さえもカイに捕まれる。


 ヴェルファーレは大きく息を吸って頬を膨らませる。

 ヴェルファーレが毒を胃から吐き出そうと持ってきた。

 両手が塞がっている不可避の攻撃なはずだったにも関わらず、カイの拳がヴェルファーレの顔面に叩きつけられる。更には一撃ではなく、連撃。一撃一撃に失神させる威力が込められた連撃。


 気が遠くなる最中、ヴェルファーレはカイの背後から四本の腕が生えているのを見た。


 気を失ったのを確認したカイは連撃を止め、ヴェルファーレを縛り上げた。


「おーいワワ、大丈夫か?」


 立っている気力さえないワワに話しかけると、やつれた表情でワワは返答する。


「大丈夫じゃない。そいつ解毒剤を持っていたか?」


「んー?無いな。毒の特徴は?」


「翼竜を殺す毒だと言っていた」


「おっ、じゃああれだな。すぐ作るから待ってろ」


 懐にしまってあった魔遺物を複数取り出し起動して、解毒剤を作り始める。


「お前、どうやってここへ?」


「おぉ、優しい兄弟に送ってもらったんだよ。

 んで、馬をドーピングして、ぶっ飛ばしてきた。

 俺の仲間がピンチセンサーが反応していたからな」


 自分の黒髪の頂点にある寝癖のようなぴょんと跳ねた毛の事を言っている。

 その発言を真面には取り合わずにワワは大きく一息ついた。


「何にせよ、助けられた。ありがとう」


「つーか調査対象とジュリやハジメはどうした?死んではいないだろ?」


 ワワの周りに他のギルド員がいないこと不思議に思い、カイは訊ねた。


「タカラダがそこの崖から落ちたから、調査対象の連れが助けに飛び出して、調査対象も助けようとして、最終的に助けられる見込みがあるジュリが飛び込んだ。

 下が魔物の巣や水溜まりでなければ死んではいないだろうが、生還する見込みは低いだろうな」


「そっかぁ。ま、大丈夫だろ。

 ジュリは危機管理能力高いし、ハジメは・・・頑張ってる!

 その任務対象は悪い奴ではないんだろうな」


「まぁ、ある程度はな。ただ油断は出来ない奴だった」


「油断は出来ないか。ワワが言うなら、相当だな!会うのが楽しみだぜ。

 ほい、これ解毒剤」


 色々な素材を煮詰めて混ぜ込んで試験瓶の中に抽出した液体をワワに渡す。

 ワワは苦手な苦みを我慢して解毒剤を飲み干す。


「油断できないと言えば、ここに来る間、同乗者にハクザ・ウォーカーがいたぞ」


「ごふっ!なっ、何!?ハクザ・ウォーカー!?師範が!もうここへ!?」


 解毒剤を飲み干した後に聞きなれた名で、最も現状聞きたくない名を聞いて咽るワワ。


「ユクタムから随分距離あるはずなのになぁ。あいつもよっぽど気になるらしいな。

 あいつ猫かぶりモードだったし、お互い知らぬふりして来たけど、恐らく丁度上についたところじゃないか?俺の速さには付いて来れなかったようだぜ」


 グッと親指を立てて自身の驚異的な足の速さを鼻にかけるカイに唾をかけん勢いでワワは大声を上げる。


「だぜ。じゃない!師範がここへ来たら大変な事になるだろ!魔遺物の破壊神だぞ!」


「えぇ、だってそっちの方が面白そうだったし。

 上には王国軍と年増の偶像がいるんだぞ。あいつが遺物協会側か王国側、どちらにつくか見ものじゃね?」


「阿保かお前!師範の性格だからどっちらにも加担せずに、どっちも壊すに決まってんだろうが!

 俺の事はいいからさっさと上行って収取つけてこい!!!」


 自分が興味のある調査対象へと邂逅する為に、カイは邪魔者であるハクザを遺物協会の庇護下にあるヨーグジャ部族と王国軍と騎士団にあてがわせて、ここまでやって来ていた。


「え~、俺が任務の続きしたいんだけど~」


「俺に従わない場合、支部長がお前を捕まえる権限を発動させると言っていたぞ」


「げっ・・・マジかよ、あの女」


「大真面目だったぞ」


 キュプレイナの名を出されてカイの余裕の表情は変わる。

 ワワの真剣な眼差しが真実と語っているのを悟ったカイは観念する。


「しゃーないな。俺のセンサーがビンビンに下を示しているが、上に戻るか。

 おろ?あいつは?」


「紐は解けていないし、足跡も音もしなかった。降りて逃げた可能性があるな。

 あいつとカンロヅキ達の探索は俺が引き受ける。お前は行け」


「一応これさっきの解毒剤の残りな。あとお前の耐魔が切れかけていたから施しておいたぞ。

 今度はヘマするなよ」


「お前もしっかり上で師範と王国止めて来いよ。

 お前が巻いた種だからな!戦争になったらお前のせいだぞ!」


「へいへい。心配無用だって俺が介入すれば紛争も戦争も中断よ」


 

 _________________________________________________________



 魔王の最後と、俺が再起動してからの経緯を包み隠さずミストルティアナに話してやった。


「ヴエエエエン。しょんな、しょんな悲しい結末はありませんわ。

 私ハッピーエンドしか所望しませんわ!糞勇者許すまじですわ!

 あっ、でも悪落ちしたリヴェン様が魔王軍四天王を次々と調教していき『ふっ貴様らもこちら側へ堕ちるのも時間の問題よ』とか言うのは聞いてみたいですわ!」


 と、まぁ、こんな調子で泣いたり、怒ったり、自分の世界に入ったりとしていた。

 この娘は駄目な娘だと、突き放したくもなるが、三百年ここに引きこもっていたおかげで、俺との結婚が生きる理由になり、妄想が娯楽と化し、重度の箱入り娘だったせいでもあり、世間一般との常識がかけ離れている。


 ツィグバーツカ家は勇者のせいで人間不信に陥った為、この魔窟に人間を寄せ付けない措置を施した。それが視界に現れる程濃い魔力を発生させる。自分の身を犠牲にした魔霧発生魔遺物と、毒を持つ魔物の生産であった。


 奇しくも魔遺物は魔族の肉体を持って生成される事がここで証明されてしまった。

 ツィグバーツカ大臣は己が身を犠牲にして魔遺物に成り果てたのだ。


 しかしそれがミストルティアナを襲う悲劇の始まりだとは誰も思っていなかった。


 魔霧発生魔遺物の発生させる濃度は魔族さえも重篤な病気にさせる程濃く、従者達が命を賭して、障壁魔遺物へと変わり、館を覆っている。おかげで館内はほぼほぼ地上とは変わらない。


 防衛機能であった毒を持つ魔物達は魔霧発生装置のおかげで魔力を存分に補充し、進化して、創造者であるツィグバーツ家に襲い掛かった。

 その戦いで殆どの魔族が死に絶えたか、毒による致命傷を負った。


 従者がいなくなり、生活の世話は手先の器用な彼女が作った魔人形が世話してくれている。

 あのパンダの縫ぐるみの他に、もう二体程いるらしい。

 縫ぐるみは最下層である、この館の近くに落ちた表層の魔物や人間を狩る仕組みになっているようで、ハジメはその機能のおかげで、ここまで連れてこられ、なんなら食料にされかけた。


 そんな自分は動かない自堕落な生活をしているせいもあり、運動量と筋肉量と純粋な魔力への免疫力が殆ど無くなり、ミストルティアナは館の外に出られなくなったのである。

 そのせいで三百年間引きこもり生活に興じていたらしい。


 魔族であり、俺のせいでこんな可愛そうな性格と精神になっていなかったら見捨てているところであった。


 ツィグバーツカ大臣が元凶みたいなところもあるけど、勇者がいなかったらこんなことにはなっていない。


 勇者が悪い。死ね。


「それで君は俺達に協力してくれるのかな?」


「君なんて他人行儀な呼び名等ではなく、先程のようにミストルティアナと呼んでくださいまし」


「ミストルティアナは俺達に協力してくれる?」


「あぁ。夢にまで見た名前呼び。目覚まし時計の音声にしたいですわ!

 協力致しますわ!夫であるリヴェン様の為なら私は何でも致しますわ、ハードなプレイがご所望でしたら、私室に沢山ありますわ。

 あ、いえ、娯楽の一貫として持っているのですのよ、決して私がやましい気持ちで、興味があるから持っている訳ではありませんのよ。研究材料ですのよ」


 勝手に一人で自爆しているミストルティアナに落ち着いてもらうために、持ってきていた紅茶のお替りを淹れてやる。


 ミストルティアナとは俺が指示するまで人間を襲わないと約束した。むやみやたらに人間を襲われたら俺の評判が更に地に落ちるだろう。元から地に落ちている気もするが。


 彼女の姿。主に下半身が見られるのが恥ずかしいらしいので、地上へ戻ったらバンキッシュに彼女に合う召し物を作ってもらうことにした。


 ミストルティアナは恍惚な表情で紅茶を飲む。


「リヴェン様が人間界で生きていくならば私、協力しますわ。

 但し、私、自慢ではないですが、体力はありませんでしてよ!」


「長所短所は人それぞれさ。

 ミストルティアナにはミストルティアナが出来る範囲で協力してくれたらいい。この館から出たくなかったら強制もしないしね。

 俺は地上でやることがあるから、暫くは会えないけども」


 ミストルティアナには悪いが、バンキッシュがいるとはいえ上に置いてきた玉座も心配だし、ギルド員を連れて地上へと戻らなければならない。


「私の他にも獣人や夢魔の女がいるのですよね?」


「バンキッシュは正確には獣人じゃないけど」


「だったら私も同行しますわ!どこの馬の骨かしらない雌に私のリヴェン様を手垢塗れにされては困りますわ!」


「まぁ、ミストルティアナがいいなら地上まで連れて行くけど。

 問題はどうやって外へ行くかだよね」


「あら?どうされましたの?」


 俺が全員を地上へ戻すいい案が無いか思考していると、パンダの縫ぐるみがミストルティアナのジャージを引っ張っていた。


「外に?人間が?来ている?ですって!」


 それに気が付いたミストルティアナは身振り手振りで説明するパンダの縫ぐるみのジェスチャーを言葉に表した。


「右目と、口が縫われている、人間。リヴェン様の御仲間でしょうか?」


 そんな見た目の奴はいなかった。恐らくそれがクルルの中身であろう。

 なぜ降りてきたのかは知らないが、妄想の捌け口にされた鬱憤を晴らそうか。


「いや、そいつは敵だね。俺が迎え撃つよ」


「私は何をすればよろしいのでしょうか?魔眼で援護すればよろしいです?」


「イリヤを守ってほしい。言った通りイリヤは恩人であり友人だからね」


「他の人間は?」


「イリヤを守ってくれるならそれでいいよ。じゃあよろしく」


 イリヤが勝手にジュリとハジメを守るだろうから、必然的にミストルティアナは三人を守る役目になる。

 紅茶を飲み終えてから俺は客室を後にして、館の門の前で、敵である者を待ち受ける。


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