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36:魔窟探索・急(2)

 休憩所を出て暫く歩いても誰も付いてくる気配はなかった。


「リヴェンさん、大丈夫なんです?」


「とりあえず俺とイリヤは殺人犯からの手は逃れたから心配しなくていいんじゃない?」


「それもありますけど、道とか、耐魔とか、帰還方法とか」


「耐魔に関してイリヤは大丈夫でしょ。

 帰還方法はいざとなれば天井を掘って真っすぐ昇って行けばいいし、道は自分で作るものさ。そもそも未開拓地だしね」


「なんら解決していないのが分かりましたよ」


 ため息をつきながら額を押さえるイリヤ。そんなイリヤに朗報である。


「無謀なのは仕方ない。けど殺人犯を追い詰めつつあるんだよ」


「どういうことです?」


「目的が誰であれ、殺人犯はパニック状態に陥ったところ、殺人を繰り広げていく算段だっただろう。

 殺人犯は殺人のプロであるから、自分が帰還する方法も考えて殺人を犯すよね。

 実際皆帰還しようとしていたし、そういう雰囲気にされたからね。

 で、俺は犯人が最も望まない、奥へ進むという行動に出たわけ」


「あ、成程。

 犯人も未開拓地である深層には足を踏み入れたことがないから、道に迷う可能性がある訳ですね。 それにこれ以上殺人を続ければ、自分の首を絞める事にもなりますね」


「半分正解。

 深層へ行ったとしても殺人は続けるはずだよ。

 ただ、殺人をするのが難しくなるけどね。

 まぁこの閉鎖空間で命を狙われているんだもの、多少は無茶をしないとね。

 お互いどれだけ余力と余裕を削り合うかの勝負だよ」


 相手にペースを掴まれていたので乱す行為は必要であった。

 仮に全員が俺を目的としているなら、付いてくるはずだ。上司への報告に魔窟内で野垂れ死んだ”でしょう”が通用するなら話は変わってくるが。


 もう少し歩いていくと右側が急斜面な崖になっている一本道に出た。

 下を覗くも暗闇と魔力が埋め尽くしているだけであった。

 試しに掌サイズの石を落としてみたけど、落下時の音が返ってくることは無かった。


 熱分布望遠図で見ても底は見えなかった。落ちたら一溜りもなさそうだな。


 下を観察しているとイリヤが俺の脚を忙しく叩いた。


「あわわわ、リヴェンさん出番ですよ」


 前方を見て慌てふためくイリヤ。

 前からのっそりと現れたのはチューリップのような巨大な花弁を揺らして、壁と地面にうねうねと蔦と根を這わして前進してくる幻毒妖華ベラドンナ

 この洞窟毒を持った魔物が多すぎる。


 蛇腹剣を顕現させて茎の部分を狙う。

 しかし幻毒妖華はペシッと蔦で剣を払いのけた。

 蛇腹剣が力負けしているという事は、それ以上の力を持った魔物。この蛇腹剣が弱い訳ではない。相手が強いだけ。


 紅蓮蛇腹刃を起動させて右手を振るう。

 同じように蔦で防ごうとしたが、茎部分事焼き切れて、花弁が下へと落ちた。

 それでも植物なので、うねうねと前進してくる。


「球魂を狙わないと駄目ですよ!」


「知っているよ。毒を散布される前に花弁を落とすのが正しい対処方法なの」


 左手の刃で胴体の中にある球魂を貫く。

 植物系の魔物には球魂と呼ばれる、動物で言うところの心臓がある。

 それを破壊してしまえば、動作は停止する。

 俺はあっさりと貫いたけど、球魂がある胴体部分は強度が高く、並みの攻撃では一撃では貫けないだろう。

 花弁、茎、蔦、根、胴体の順で堅くなっていく。攻撃する順番を間違えれば、毒を散布されて、窮地に陥るので注意が必要だ。


 ボッと切り口から突然火が出て、幻毒妖華が燃え始める。


「な、何しているんですか!?」


「俺は悪くない。このスキルで斬った所で火は出ないって確認しているからね」


 紅蓮刃は炎を宿して斬るだけ。傷口が燃えないのは確認した。


「現に出ているじゃないですか!消火ですよ消火!」


 イリヤの言う通り、切り口から炎を発生させて幻毒妖華を燃やし始めている。

 幻毒妖華は燃やすと毒性のあるガスが発生する。植物だからって無暗に燃やすと死に至るぞ!

 だからイリヤは大慌て。


「残念だが俺は火を消すスキルを持っていない。逃げよう!」


「剛水脚」


 再びイリヤの手を引いて逃げ出そうとした時に背後から水の刃が飛んでくる。

 その水の刃は燃え盛る幻毒妖華を鎮火させた。

 背後にはワワを先頭にして、全員が変わらずにいた。


「だから言っただろう?」


 呆れた様子で言いながら、右手と右脚を上げるのを止めて、元の姿勢に戻るワワ。

 ワワの攻撃手段は魔遺物じゃなくて魔術っぽいな。


「ありがとう。大変な事になるところだったよ」


「俺達がな。全く、とんだ任務だよ」


「結局付いてくるんだね」


「少女と素人を二人で深層へ行かす程ギルドは落ちぶれていない。だろう?」


 ワワは後ろにいるギルド員に問うと、クルルが頷き、ジュリはバビンスキーを横目で警戒していた。

 ハジメが前へ出てきた。


「あの、さっきはすみませんでした」


「何に?」


 意地悪な問いかけでハジメは面をくらったが、言葉を続けた。


「え?・・・取り乱したとは言え、酷いことを言ってしまったので、申し訳ありませんでした。

 魔窟調査員として、もう、大丈夫です」


 何やら俺が出て行った後に改心でもしたのか、ハジメはけじめをつける為に謝罪する。


「人が死ねば誰だってああなるよ。

 その後に口に出して謝れるなんてタカラダさんは勇気のある人だよ」


 笑顔を作ってハジメを褒めると、照れ臭そうにしていた。

 おじさんの照れ顔でも、喜んでくれているならいいか。


「これから俺とイリヤが先頭に行くけど良いかな?皆まだ俺の事信じられていないでしょ?」


「俺は別にそれでもいい」


 最初に答えたのはバビンスキー。

 ある種一番協力関係にあるのは彼なので賛同してくれるのは有難い。


 ワワは別に構わないと言う表情でジュリやクルルやハジメに視線で問いかけていた。

 勝手にすればとのジュリ。

 頷いてばかりのクルル。

 ハジメも強い目線で肯定する。

 三人の反応を見た後にワワは口を開く。


「俺達も構わないが、前方にはジュリを付けさせてもらう。

 俺は後方に回る。全員それで納得している」


「うん。いいよ。その方がそっちの都合がいいでしょ?」


 誰にも賛同してもらえなかった。

 皆口では言わないけど、心の中では賛同してくれているに違いない。


「つーことで、あんたらの行動見張ってるから」


 刺々しい物言いで俺達の後ろへとジュリがついた。

 これで愉快な仲間たちと共に深層探索が再開される。


 そう楽観的な思考を巡らせた時、再び地震が起こった。


 前の地震よりも長い揺れで、天井から崩れた欠片が落ちてくる。

 やはり、地震がよっぽど怖いのか、イリヤは俺の脚にしがみつく様に身体を寄せている。


「え?」


 揺れが治まる前にハジメの声がした。

 一列になっている列から外れるように落ちていくハジメ。

 脚を滑らせたと言うよりも、突き落とされていた。

 その事に気付けたのは地震ではなく、人間を注視していた俺だけ。


 イリヤがハジメを助ける為に飛び出した。

 小さな手で手を伸ばしてハジメの手を握ろうとするも、その手は掴むことなく、イリヤも崖の下へと身を投げる形になった。


 落とした犯人に攻撃を仕掛けるか迷った挙句、急斜面を蹴ってイリヤとハジメの方へと飛び込む。

 背後では何故かジュリも飛び込んで来ていた。


 ジュリの後ろでは犯人が落ちていく俺達を見ていた。

 俺は犯人に指をさす。

 ただでは落ちてやらない。残りの二人にやられてしまえ。


感想、評価等々お待ちしております。生きる糧になります。

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